文字と言葉を覚えよう
どうしても私は言葉を覚えたい。
会話をしたい。
「どうしたんだ?そんなに力んで。トイレなら早く」
女子高校生に向かって、よくも恥ずかしいセリフを~。
怒りたいのを我慢して。
「違う。ラーティ。私は言葉を覚えたいの。会話したいの」
ええ、力説しますとも。飼い主に話をしたいの。
宇宙人達とも。
「ああ・・。もしかして下着?」
ラーティは、ちらりと私のワンピースの下半身へ視線を送る。
「そうよ」
ラーティは、下着は履いてないけど、ズボンと半袖シャツで隠せるけど
薄手のワンピースは、しかも太ももまでしかスカート丈がないから
物凄く、恥ずかしい。
まだこの家から出ることがないからいいものの、
どこか外へ行くのに、この姿は流石に嫌。
この星に来てから、下着を貰えない。
下着というものが存在しないのかと思っていたら、TVや着ている人が歩いているのを
ベランダから見ることで知った。
いろいろな姿 形をした宇宙人がいっぱい歩いていたり、泳いでいたりしている。
そこで、自分なりに考えたのだが、言葉が通じないことが一番ダメ。
通じれば、私も会話が出来る。
ラーティは、5年この星にいるのだが、聞くのはなんとかだが
話すことは無理だと言う。
「どうして?」
「発音が凄く難しい。どれが共通語になるのかが、まず分からない。
誰かに教わるしかないが、教えてくれる人を自分で探すことも出来ない」
TVでは、いろいろな言語が飛び交っていて、かなり混乱してくるので
1つに絞って聞いて、タコ女とイカ男の言葉を覚えたらしい。
「彼らの言葉の意味は分かる。でも、発音が分からない」
それに尽きる。
確かに、発音は難しい。
何言っているのかサッパリ。聞き取りにくいし、同じ言葉を言っているつもりだけど
舌がついていかない。速さについていけない。
「タコ女に聞いてみよう」
ラーティは、言語学習が出来ないか飼い主本人に聞いてみる提案をした。
「今まで聞こうとしなかったの?」
「一応試してはいるけど、中々通じないからね」
言葉の壁があると、どうも地球人という人間なのに。
背が高く大きな彼らには、自分達地球人は身長差から言っても、犬猫扱いなのだ。
「きっと彼らには、わんわんとかニャーニャーと、聞こえているかなあと思う」
身振り手振りでしたけど通じないので、落ち込んだこともあるらしい。
「でも、ラーティは、タコ女達の会話の内容は理解してたってことだよね?」
「そうだよ」
「うう。早く分かっていたら、通訳してもらったのに」
「ははは。早口だから、結構難しいんだこれが」
確かに早口。
今更だけど、通訳者って凄いかも。
次の日の昼間。
リビングで寛いでいるタコ女発見。今日は、出掛けないようだ。
早速、2人でソファーに向かった。
「・・・・・」
何を言っているのか分からないが、タコ女が私達2人に気付いて
足2本を器用に動かして、2人を抱き上げて
自分の座っているソファーへ降ろす。
「・・・・」
なんだか嬉しそうに何かを言っているけど、早口。
「どうしたの?2人ともと、言ってる」
ラーティが通訳。
「ラーティ、お願い」
彼は頷いて、タコ女に話をしてみる。
早口は無理だが、ゆっくりと挑戦してみる。
タコ女は、なんと耳を傾けて聞いている。
「言葉が分かるようになりたい。言葉を話せるように教えて欲しい」
タコ足が4本だけうにょうにょ。
彼女は考えているようだ。
私達はじっと彼女を見つめた。
「・・・・・・」
「え?何」
私はラーティを突く。
「え、ああ。会話が出来るの?地球人が?と言っている」
2人で頷くと。
彼女は、言葉を理解している私達に驚いた。
早速、ソファーから身体を起こすと、別の部屋へ入って行った。
私もラーティもタコ女の行動をじっと見ている。
彼女は、直ぐになにやらいろいろ持ってきて、私達の前で広げた。
それは、私達には大きいけれど、A4サイズの折り畳み携帯のようなもの。
タコ足がその携帯のようなものを広げ、いくつかあるボタンを器用に押した。
タコ女も同じ物を持っている。
「聞こえる?」
そんな声が携帯から聞こえてきた。
「聞こえます」
「あら?本当に会話が出来るのね。地球人は発展途上で服も着ていない
野蛮な星と言われているから。
見目が良くても、ペットとしか扱えないと聞いていたのに」
地球人のイメージって。
もしかして、旧石器時代の人間のイメージが伝わっているのかしら。
ラーティと顔を見合わせると、タコ女はどんどん話を続けてくる。
「でも、嬉しいわ。ペットと会話出来るなんて。この機械は
携帯用言語修復装置よ。いわゆるどこの星の会話も共通言語にするものよ」
凄い。凄い機械だ。でも、大きい。
「大きい?そうね。これのもっと小さな物があるけど、小さな宇宙人向きだから
私は持っていないけど。取り寄せるわ。毎日会話が楽しめるなんて、
これから楽しくなるわ」
タコ女はご機嫌だ。
「それで、下着が欲しいのですけど」
こっそりと、小さな声で伝えると、タコ女は驚いた。
「え?地球人は下着を知ってるの?
何も履かずに服を着ていると聞いてるわ」
よくよく聞いて見ると、地球調査が1000年前にあり、そのデータで地球人を
知ったということや
密猟で拉致された話をすると、驚かれた。
「ええ~、地球人を攫ってきてたの?私、知らなかったわ。
ペットショップがどうやって仕入れていたかまでは、聞いてなかったわ」
「それで、下着を」
私は、ワンピースの下には何も着ていないことを訴えた。
「胸が大きいし、お尻見えてしまうのは、恥ずかしいことだったのね。
地球人の女の子は、皆下着を付けずに、服もワンピースしか着ないと聞いていたから」
(どんなイメージなのよ。下着を付けていない時代だから、やはり旧石器時代?)
それでは、ラーティは何故タキシード着てたんだろ?
「ああ。地球の男の子でもこの星の服が似合うかなと思って着せてみたの。
あれは、タキシードという名ではなく、
恋人に正式に結婚の申し込みをする時に着るという
昔ながらの風習のものよ。
貴女にもいろいろ買ってあるのよ」
箱を1つ持ってきたと思ったら、イベントに参加する用ドレスとか
どこどこに行く時に着る服とか、何着も出てくる。
「凄い」
(でも、下着がない)
「下着は、明日買いに行きましょうね」
「本当?うわ、嬉しい」
ピョンピョンジャンプして喜ぶと、タコ女も嬉しそうだ。
「ところで、自己紹介しましょうか?私はパシワラ星出身で、ハーバス・シャロッテ。
よろしくね。夫は、ローロー星人で、ラバラバ・シャロッテ。
今住んでいるこの星は、パシュワン星。
ペット仲間のラバンサとハッシーがこの星の住人よ」
誰の事かしら?
首を傾げると。
「え?貴方たち、ペット仲間でも会話が通じないの?知らなかったわ」
と、タコ女 いえ、ハーバスさんは、その点にも驚いていた。
「この機械で、皆と話しが出来ないかしら」
「どうかしら?知能がある動物なら、会話出来るときいているけど。
ハスタラ星出身のウェンサートなら、なんとか出来そうな気がするわね。
他の2匹はどうかしら?」
2人は、携帯でペット仲間と会話出来るか試そうと話した。
「ええ、でも。きちんと教えましょうね。機械に頼っていると、壊れたり
失くした時、困りますからね。文字はどうなの?」
「全然、分かりません」
「それでは、早速文字を教えましょう」
タコ女は、ウキウキしながら準備をしに部屋を出て行った。
余程暇だったようだ。