恋愛発展一歩前
本編で応募した名前を使わせてもらいました
紫夜河太桜さん、ありがとうございました!
「ねぇ、花はさ、好きな人とか出来ないの?」
「? いるよ? 好きな人」
「……誰?」
「鏡」
「……アキラ? 誰?」
「んー? 美浜、ちゃんと知ってんじゃん。いっつもあってるもん」
「……?」
「部活の顧問」
そういえば、橘 花。
コイツは俺には一切の興味も無かった。2年の中では5本の指に入るイケメンとして呼ばれている俺に対して、何の興味もない。
当たり前のこと……?
自惚れすぎ?
コイツは、顧問が好きなのだ。
いつも煙草のヤニの匂いがしていて、カフェイン中毒。教員とは思えないほどのスーツの着崩しに、あごからは中途半端に伸びたひげ。
花は俺と所属する弓道部の顧問、高橋 鏡が好きだ。
年だって俺の方が近い。外見だって、他からみたらどうみても俺のほうが上のはずなのに、俺の好きな奴は俺に見向きもしない。
……こんな虚しいことはない。
「美浜は? 好きな人、……私が言ったんだから、勿論美浜も言えるよね!」
恋話しについての、異常なほどの好奇心。花の好奇心は俺にも降りかかって来る。コイツはそれがどれだけ俺を傷つけてるかなんてしらない。
「……俺、好きなん奴なんていないよ」
「えー?」
「ホント、ホント」
だから俺は、この傷つく思いを決して花には味わわせないと、いつも全力で嘘をつく。
「美浜格好いいのにね。……彼女できないのはやっぱり顔良いのに性格地味すぎるからかな?」
「んーまぁ、そうかもしれないね。もっと積極的で行動力のある性格になれば良かったかも。……あ、でもそうしたら俺、この顔の良さ使って女たらしになっちゃうよ?」
「そんな美浜見たくないなぁ、私。やっぱそのまんまでOK! ちゃんと美浜の性格分かってくれる人と付き合ってね!」
「ん、分かった」
俺の性格を分かってくれる人。……それは自分ではない。花はそう思っている。やっぱり花は俺になんの興味もない。
こんなに話しているのに、恋バナも出来る仲なのに。
「ねぇ」
「んー? なに?」
「ここ卒業する前に、高橋先生には告白するの?」
「ううん、しないよ」
「……なんで?」
「私が告白しても、ただ鏡を混乱させるだけで、何の進歩にもならないもん。それどころか、『生徒を間違った方向に導いてしまった!』……なんて思うかもしれないし。だったらいっそ、このまま片思いでいいと思うんだよね」
花はきっと、俺が花を想う思いと同じ想いで顧問を想っている。
好きな人は何が合っても傷つけたくない。悲しませたくない。いつも笑っていて欲しい。いつも話せる仲なら、恋人っていう関係にならなくてもいい。
傷つかせて、気付かせて、自分を好きにならせなくていい。
「つらくない?」
「つらい」
「そっか……」
俺は花の話し相手でいい。
悲しい顔をしている時にはそっと頭を撫でて、愚痴を聞くだけでいい。花の苦しみを少しでも無くせれるなら、それでいい。
まったく、俺はとんでもなく引っ込み思案な性格になってしまったもんだ。
さっき言ったとおり、積極的で行動力のある性格なら、花を苦しませてしまっても良いと思えるんだろうな。
「まぁ、何かあったらまた聞くよ。俺はお前の友達だろ?」
「ん、ありがと美浜! 美浜も何かあったらすぐ私に言ってよ?! 私は美浜の友達だからさ!」
手をふりながら、花は俺の前からゆっくり居なくなって行った。あの手を繋ぐことも、キスすることも、今の俺には何ひとつできない。
「美ー浜くん! いまの……橘さん、だよね? 何話してたの?」
「ん、あ、うん。相談に乗ってただけ」
「ふーん……あ! じゃぁ私の相談にものってよー!」
花が俺の近くから離れてしまえば、すぐに俺の顔目当てが寄ってくる。正直嫌だけれど、俺にはそれを払う強さは持ち合わせてはいない。
『女には優しくしろ』
それを昔からきいて育ってきたからかもしれない。
「相談って……なに?」
「美浜君が、私と付き合ってくれるかな? って相談なんだけど」
胸を押し付けてくる、腕に絡み付いてくる。こういう色仕掛けは、もう慣れてしまった。だから振り払いもしないし、ただ、彼女の目はみない事にしている。
「俺さ、好きな人いるんだよ」
「誰?」
「橘さん」
「ふーん、どうでもいいけど。……別に私、セフレでもいーんだよ? その欲求不満、私にぶつけてみない?」
どうでもいい……ね。
忘れてはいないが、俺に近寄って来るのは顔目当て。
だから、花は特別なんだ。あんな良い奴を失くしたら、俺はずっと一人ぼっち。そんなのは、怖すぎる。
「オラ、もうすぐ授業はじまんぞ、とっとと帰れー」
近くの昇降口から先生に声をかけられ、俺とセフレ希望彼女は一気にそっちを見る。
「センセー、美浜君が付き合ってくれないよぉ」
「おー可哀想にな、新聞配達のバイトでもして忘れろー」
意味の分からない台詞返し、漂うコーヒーの香ばしい香り、目立つヒゲ。Yシャツのボタンの2段下から留めてあるスーツ姿。
高橋 鏡。
「ま、いいやぁ。じゃ、また後でね、美浜君!」
彼女は俺に一回バイバイと手をふってから、ばたばたと花の行ったのと同じ方向に消えてしまった。
「で、どうした? お前は」
「え?」
俺も戻ろうとして立ち上がったときいきなり話しかけてきたので、戸惑ってしまった。先生は俺の前に向かい立ち、道を塞いだ。
「橘」
花の苗字を呟く先生に、俺は目を見開いた。
「お前、橘が好きなんじゃないのか?」
「何いってんすか」
俺は花が好き。確かにそうだけど、今の話し聞かれたか?
「全然進歩の欠片もないな、お前達二人は……」
「花が先生のこと好きだって言ってるからね。俺は花に手は出しません」
「俺が、橘をフったらどうする?」
先生と恋愛話しとか……なんとも貴重な体験をさせてもらったわけだけど、敵いもしない恋敵とそんな話ししたって、面白くもないことくらい知っている。
「花は先生には告白しないって言ってますよ」
「……お前は橘に告白しないと…?」
「まぁ……」
先生が結論を言い、俺は何も言う事がないのでとりあえず黙った。
「それってさぁ」
「…?」
「虚しくね?」
どの口が言ってるんだ。
「花の方が虚しいですよ。自分の想い知られてるのに発展無しなんて」
その俺の一言に、先生は1回だけ深くコーヒー臭いため息を吐いて、その場の階段にドサッと乱暴に座りこんだ。
「あのなぁ、お前は橘が好きなんだろ? その橘が俺のことを好きで、俺は橘のことを何とも想っていない。その想いを知っていてもその事を橘には言えない……お前の方が虚しいだろ」
「じゃあ、……早く橘を好きになってください」
「子供。んな事出来るか」
自分でも子供発言をしたと思った。早く橘を好きになれなんて。誰かれ好きになったり嫌いになれたりしたら楽なもんなのにね。
「お前、そんなに橘傷つかせたくないのか?」
「はい」
「それじゃあもっと努力しろ。努力して、俺よりお前の方を好きにさせればいいだけだろ」
なんとも大人な発言だった。
教師的発言?
「……」
「お前には顔もあるし、少し良すぎて悪い性格もある。……何より橘を想う気持ちは充分すぎる。俺より橘を幸せにしてやれる自身、……あんだろ?」
「めちゃくちゃある」
「そんじゃあ頑張れ」
好きな人の好きな奴に、応援された。アドバイスされた。……屈辱。なんで橘はこんな奴が好きなんだ? 大人の色気か? もしかして年上好き?
「じゃあな、早くしないとチャイム、本鈴鳴るぞ」
立ち上がり、俺に背中を見せ職員室へと戻っていく先生の後姿を、俺は見えなくなるまで見つめていた。
どうしたら先生よりも俺を好きになってくれる……?
「……やっぱもっともっとアピールするべき…?」
俺は授業チャイムが鳴る前教室に入ろうと少し早歩きで廊下を渡った。
「まずは、…恋愛視されるようにならないとな……」
俺の恋は、まだまだ動きだしたばかり。