第52話 魔王の発明
「あー……暑い」
最近、やけに暑い。
この世界……いや、この地域だけかもしれないが、ここは四季がないらしく、一年中過ごしやすい。はずだったのだが、ここ数日はやけに暑い日が続いていた。
もちろん、この世界にエアコンはない。これまでは暖房も冷房もいらないような気候がずっと続いていたから全く困っていなかったが、こう暑くなると文明の差が憎らしくなってくる。
暑くなると、食べたくなるのはもちろんアイスだ。
「あーーーアイス食べたい……」
一度そう思いつくと、アイスのことが頭から離れなくなってしまった。
何とかならないだろうか。
「という訳で、ゼクスさん。アイスが食べたいです」
「アイスってなんだ。氷か?」
……まあ、間違ってはないけども。この世界、アイスクリームがないのか。私の脳には絶望の二文字が浮かんだ。
私はもうアイスを食べたくて仕方がなくなっているというのに。
なにがなんでもアイスが食べたい。
そういうゼクスさんも暑いようで、いつものローブ姿のまま、ふわふわと宙に浮かんだ水に両足を突っ込んでいる。よく見るとその水の中には氷がいくつも入っていた。
そんなに暑いならローブを脱げばいいのに。
「その水と氷、どうしたんですか?」
「魔法で作ったに決まってんだろ。それよりアイスってなんだよ」
ゼクスさんは興味津々だ。
「アイスって言うのは——」
がんばって説明してみたが、私の下手な説明では伝わらなかったようで、ゼクスさんからは要領を得ない反応を返されただけだった。
氷はあるのに、アイスまでが遠い……私はゼクスさんの足元の氷水を見た。
そこで気づいた。
「そうか、氷はあるのか。じゃあかき氷なら簡単に作れるんですね」
「かき氷って?」
ゼクスさんは氷水に足をつっこんだまま身を乗り出してきた。
こうして、私たちのかき氷作りが始まった。
*
「……何をやってるんです?」
「あ、ケインさんやっときた。でもナイスタイミングです」
部屋の中央に設置した、たった今完成した魔道具にケインさんの目はくぎ付けになっていた。
魔道具の微調整をしていたゼクスさんが、魔道具の影から出てきて得意げな声を出した。
「すげーだろ! ココロに聞いて発明した魔道具だ!」
「私が発案しました。かき氷機です」
「……は?」
ケインさんは訳が分からないと言いたげな顔をしていた。まあそれはそうだろう。
「動かした方がわかりやすいですかね」
「そうだな! さっそく動かそうぜ!!」
「今、器を置きますね」
私が魔道具の下に器を置き、ゼクスさんは人間一人分くらいの大きさはあろうかという巨大な氷を上部にセットした。
氷が大きすぎません?
そう私がつっこむ暇もなく、いつにもましてテンションの高いゼクスさんが起動スイッチを押した。
「スイッチオン!!」
ギュオオオオオオオ!!!!!
その瞬間、戦闘機か何かかという爆音が城に響き渡った。
これは……大丈夫なの……?
そう思いつつ私は器を確認するが、全くかき氷は入っていない。
なんで? っていうかなんかこの部屋、寒い? そして心なしか部屋に霧がかかったような……。
霧は窓から入る光を受けてキラキラと輝いている。わぁきれい。
……違う! これ氷だ!
「ゼクスさん! これ、かき氷じゃなくてダイヤモンドダストになっちゃってますよ!!」
「はぁー!? って、もう氷がなくなっちまったな……」
あれだけ大きかった氷は、あっという間に全て部屋を漂うダイヤモンドダストとなり、魔道具は停止した。
ゼクスさんは腕を組んだ。
「失敗か……まあ、何でも最初はそんなもんだよな」
「次は氷をもっと荒く削れるように改良して——」
私たちがそんな話をしている間に、ケインさんが
(あの大きさの氷を、一瞬で粉砕した……?! こいつら、いったいどんな兵器を作り上げるつもりなんだ……)と青い顔をして震えていたが、かき氷機に夢中になっている私たちが気付くことはなかった。
この誤解はかき氷機が無事に完成し、ケインさんに完成したかき氷を食べてもらうまで続くのだった。
「あ、シャリシャリしておいしい」
「私はこれが食べたかったんですよ!」
「うめーな! かき氷!! 毎日作ろうぜ!」




