婚約者が病弱な義妹に構うのなら私も病弱令嬢になれば良いではないか?で婚約解消された大令嬢峠
「え、ギュンター様、今日のデート中止ですか?」
「そうだ。義妹のミミリーが病気だから看病しなければならない」
「でしたら、私も行きますわ」
「フン!健康だけが取り柄のアーデルハイトが来たら、どう思う?少しは気を使え!」
「・・・申訳ありませんわ」
私はアーデルハイト・シュルツ、婚約者のギュンター様が最近デートしてくれませんわ。
どうしたら良いのかしら・・・
不謹慎ですけど・・・私も病弱になれば良いのかしら。
風邪を引こうと。
雨が降ったので、一晩中、外に立ってみた・・・
「ほお、アーデルハイト、騎士様や兵士の苦労を偲んでいるのか。感心だな」
「ええ、誇らしいわ。報国令嬢会の訓練ね。母も若いときやりましたわ。それを自発的にやるなんて・・・グスン」
「姉上!素晴らしいです。僕もやります」
「カール、もう少し大きくなってからだ」
お父様とお母様、カールは感心してくれるわ。
何、この家族?私を何だと思っているのかしら!!
風邪を引かなかったわ。
では、気分からよ!
窓の外の木を見るわ。
ああ、あの葉が全部落ちたら、私は・・・死ぬのね。
「お嬢様、おやつの時間でございます!」
「まあ、何ですって!」
「カップケーキでございます」
おやつに罪はないわ。
おやつを作ってくれた使用人達に失礼に当たるわ。
「美味しかったですわ!」
「ありがとうございます」
病弱・・・病弱、どうしたらなれるのかしら。
ずっと考えていましたわ。
学園の授業が終わり。裏門から出ましたわ。
タウンハウスはすぐそこ・・・・
☆☆☆3時間後
「はっ!考え事をしていたら知らないうちに繁華街に来てしまいましたわ!」
あら、酔っ払いの紳士に声をかけられましたわ。
「ヒック、おう、お嬢ちゃん。こんばんわー、ヒック!」
あら、頭頂部が少し寂しい方が、タイを頭に巻いているわ。そして、お土産かしら。箱詰めの紙の箱を糸で吊しているわ。
ヨロヨロヨロ~と歩いている。
そして、ドブに落ちそうで落ちない。人にぶつからないわ。
「あらよっと、ヒック」
これだわ!酔っ払いの歩行を習えばいいのよ。
「そこのおじ様!師匠になって下さいませ!」
「ヒック、ああ、何だって、立ちションしねーよ!」
ああ、何て意味不明なのだろうか。まるでうなされているようだわ。
「ああ、いいか、お嬢ちゃん。酒は飲んでも飲まれるなって、ヒック」
「有難うございます!」
教えを受けた。つまり、酒を飲まないで、この歩行をしてみろか・・・
「あんた!こんな夕方からなぁ~に出来上がっているんだい!」
「おお、愛しのヘレンよ。愛しているぜ!」
「さっさと帰るよ!」
お師匠様は奥様に耳をつままれそのまま引っ張られた。
おじ様は、片足ケンケンでバランスを取りながら帰ったわ。
すごいバランス感覚だわ。
しかし、これ以来、会うことはなかったわ。
それから、私は屋敷であの歩行を練習した。
千鳥足と言うらしい。
使用人に平均台を作ってもらって、その上を歩く。
「キャア!」
「お嬢様!」
良く、転ぶ・・・転倒する。ダメだ。壁に当たったわ。
そしたら、猫が木から飛び降りている姿を目撃した。
「これだわ!」
猫の後をつけ。塀の上から飛び降りる様を目に焼き付ける。
「ミャア?」
「猫先生、ご教授有難うございました!」
落ちてもハラリと立てるようになったわ。
「お嬢様、素晴らしいです」
「ケリー、ありがとう」
しかし、これでは足りない。
そうだ。アクロバットダンスのように、ギュンター様に支えてもらおう。
「カール!」
「姉上?」
「ダンスの相手をしなさい」
「はい!」
カールを起点に思いっきりのけぞる。
「姉上・・・何をしているの?」
「倒れてギュンター様に支えてもらう型よ」
バタン!と倒れてしまった。
これではダメだ。
そうだ。指を鍛えよう。服を掴んで支えにする。
天井の柱を掴んで、体を上げ下げした。
「ハッ!ハッ!」
そして、足腰を走って鍛え。のけぞって床と三十度の角度でとまれるまでになった。
ピタッ!と大きくのけぞってカールの支え無しで止ることが出来たわ。
練習を見学していた使用人達は歓声をあげたわ。
「「「「オオオオオオオーーーーー」」」」
「お嬢様、素敵です!」
「何をされるのか分かりませんが、すごいことです」
それから、ヨロヨロと千鳥足で歩き。そのままギュンター様に会いに行ったわ。
「ギュンター様、病弱でございます。どうか、看病をしてくださいませ~」
ヨロヨロヨロ、左右にヨロヨロ、前に後ろに行ったり来たり。
倒れそうで倒れない。殿方は憐憫の情で私を支えたいはずだわ。
だけど違ったわ。ギュンター様は狼狽したわ。おかしいわ。私は憐れみをもたれる令嬢、愛される病弱よ。
「な、何だよ。その奇っ怪な動きは!」
あ、逃げたわ。
だから、私は思いっきり服を掴んだ。あら、やだ。肉を掴んでしまったわ。
「ギャアアー!いたいよ!」
「あら、ごめんなさい・・」
放したら、勢い余ってギュンター様は木に頭をぶつけて、血を出して気絶したわ。
結局、両家で話会いになりましたわ。
「ギュンターの奴、ワシの再婚相手の連れ子とねんごろになっていました。責任をとらせます。辺境の地に騎士見習いで夫婦ともども行かせます」
「伯爵殿、そんなに頭をさげないで下さい。娘も暴力はいけない。注意します」
「いえ、よほど、悔しかったのでしょう。こちら有責で賠償金も払います」
私は学園で噂になった。ギュンター様の不貞を糾弾した乙女と。
噂が広まり。生徒会長の王子殿下に呼ばれたわ。
「アーデルハイト嬢、頼みたい事がある。あのピンクブロンドの男爵令嬢を止めてくれ。高位貴族の子弟が次々に取り巻きになって困っている」
「はい、殿下」
殿下の指さした先にはピンク髪でピンクのドレスの令嬢がいた。その周りには大勢の殿方がいるわ。
キャハウフフしているわね。
「おい、こんなところに妖精がいるぞ。あ、何だ。サリーか?」
「キャア、サリサリ~ですよ、困っちゃう。でも、嬉しい」
こちらは婚約解消されたばっかりなのに。
いえ、よく見ると。男爵令嬢は体をクネクネしている。
この動きは・・・演練されたものだ。
分かるわ。
なら、強敵ね!私は病弱歩行を始めたわ。
ヨロヨロヨロ~、
「ああ、あの葉が全て落ちたら私は死んでしますわ」
「ちょっと、青々と茂っているわ。それにこの木は照葉樹林よ!一年中葉を落とさないのだからね!」
ピキン!と視線が合ったわ。
「行きますわ。私は病弱令嬢ですの!」
「フン!ピンクブロンド!奥義、いきなりダイブ!」
相手はダイブしてプルプル震え始めた。これは仮の姿、殿方の憐憫を誘うのね。
私はもうすぐ倒れそうになる動作を繰り返したわ。
これも殿方が助けたくなる動作よ。
この戦いが始まってから三時間過ぎた頃。
さすがに、男爵令嬢は息を切らしたわ。
「はあ、はあ、はあ、今度は負けないのだからねっ!」
背中を見せて逃げ出したわ。
見守っていた殿下が私の肩に手を置きねぎらいの言葉をかけてくれたわ。
「アーデルハイト嬢、貴女の勝ちだ。『今度は負けない』つまり、今、負けたと認めたのだ」
「まあ、そうですの・・・」
私、これなら。
「頑張れますのよ!」
私の病弱令嬢としての人生は始まったばかりだわ!
最後までお読み頂き有難うございました。