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三谷志  作者: 海星
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 (ランド)は連続で『マジックミサイル』を敵に撃ち込んだ。

 何故『マジックミサイル』を連続で撃ち込まなくてはいけないか?

 向かい合った断崖絶壁の向こう側には敵の一群がいる。

 それほど大軍がいるわけじゃない。

 相手は中規模、こちらは小規模、といった感じだ。

 敵は教国、宗教国家だ。

 相手に戦闘の意思は全くない。

 そもそも断崖絶壁の谷を挟んで攻撃などする軍隊が珍しい。

 断崖絶壁は『守るに堅く、攻めるに脆い』地形だ。

 断崖絶壁の向こうから攻撃を仕掛けるには、弓を一斉に射るか、魔法を一斉に唱えるしかない。

 一応、他に玉砕覚悟で長い梯子を断崖絶壁に渡して、向こう岸に突撃する方法もある。

 だがそれは突っ込ませた先鋒の軍団を犠牲にして、次鋒以降の軍団で敵本陣を攻略する、必勝の攻略作戦だ。

 何も考えずに『マジックミサイル』を崖の向こうに連射しても何の意味もない。


 魔法師団長(ランド)が敵陣に向けて大将(ハッサン)にマジックミサイルを連発させられている。 

 ランドの耳、鼻、口、目あらゆる穴から血が流れ出す。

 顔面の色は紫色に鬱血して、今にも毛穴という毛穴からも血が吹き出しそうだ。

 教国軍としたら意味がわからない。

 マジックミサイルが飛んでくる方向にアンチマジックバリアを張っただけで、ノーダメージだ。

 「何でこんな事になってるんだ?

 何がしたいんだ?」教国軍兵士が呟く。

 「何でランドがこんな事をさせられているか?」

 八男坊(ハッサン)がアホだからだ。

 ハッサンは軍隊ごっこがしたいのだ。

 女にモテたいのだ。

 「俺、軍隊の大将なんだよね」って夜の女に自慢したいのだ。

 それに付き合わされるランドは不憫というしかない。

 ハッサンは『王族』というだけで『大将』の座に上り詰めたアホ男だ。

 八男坊(ハッサン)の評判は当たり前だが良くない。

 「あのボンボンは王国を滅ぼしかねない」

 そんなまともな事を考える軍部の偉いさんも王国にはいる。

 例えば、王国の四人いる総大将の一人は一兵卒からの叩き上げなのだ。

 総大将とは『大将』の一つ位が上だ。

 だが、いくら『総大将』とは言えハッサンには命令を出来ない。

 『総大将』より『国王の息子』という肩書きの方が強いのだ。

 いままでの王族で『王族の血』をひけらかした者は皆無だ。

 そんな事をしたら国が衰退する、とわかっているからだ。

 王族は皆聡明だ。

 ハッサンを除いて。

 ハッサンは放蕩三昧。

 典型的なダメ息子だ。


 ダラスにも国を憂う気持ちがある。

 しかし王族が絡む人事に口は挟めない。

 だがハッサンに好き勝手させておいたら王国が終わる。

 一部の王族が好き勝手をして、国民全体が血の涙を流す。

 それをダラスは苦々しく思っていた。

 それでもダラスは我慢していた。

 『ハッサンの改心』を信じて。


 だが、ダラスの堪忍袋の緒が切れた。

 ハッサンがアホな事の被害がダラスが何よりも大事にしている故郷の寒村に住んでいる家族に及んだのだ。 

 ダラスは『クーデター』ともいうべき計画を行動に移した。

 ハッサンの何がダラスを怒らせたのか?


 『ダラス』には『ベガス』という弟がいた。

 二人の両親は行商人だった。

 行商の途中、寒村の近くで行商の商隊は山賊に襲われた。

 辺境警備隊がなんとか山賊を撃退するも、商隊の生き残りは、幼い二人の兄弟だけだった。

 若い辺境警備隊長は身寄りがない子供達を連れて帰った。

 身体が弱く子供が産めなかった隊長の妻は二人を実の子供以上に可愛がった。

 身体が弱かった隊長の妻は、二人の子供が成人するのを見届けたように息を引き取った。

 二人の子供に辺境警備隊長は戦闘の基礎を仕込んだ、「他に自分に教えられる事はないから」と。

 子供達は『商人の子供』とは思えないほどの『武』の才覚を見せた。

 兄のダラスは剣の才覚を開花させた。

 兄は王国の軍人として生きていこうと、『剣士』への道を進んだ。

 兄は王都で軍人生活をスタートさせ、二十台で『総大将』になる。

 異例のスピード出世だ。

 運もある。

 先代の『総大将』が実力主義でダラスを重用していた事。

 流行り病で倒れた先代の『総大将』が「ダラスに後を任せる」と遺言を残した事などが重なって、極端に若い『総大将』が誕生した。

 平民が総大将になる事に対して、反発も強かった。

 でも『軍は実力主義の傾向が強い事』『先代総大将が人格者だった事』『ダラス自身がカリスマ性が強く、慕われていた事』『「どうせ総大将は四人いる。その内の一人ぐらい平民でも良いじゃないか。平民の軍人たちの士気もあがる」という打算もあった事』などがあり、ダラスは比較的すんなり『総大将』の座についた。


 弟の『ベガス』は兄とは違い、寒村に残った。

 剣の才覚に目覚めた(ダラス)とは違い、(ベガス)は弓の才覚に目覚めた。

 狩猟の才覚に目覚めた(ベガス)は狩人になった。

 兄弟の成人を見届けた辺境警備隊長は警備隊を退く。

 だが村は人材に乏しい。

 辺境警備隊長を退職した男は村長を押し付けられる。

 「村長は『名誉職』だから。

 だから頼むよ、な?」と村の寄り合いで言われ、男は断る訳にもいかなかった。

 確かに村には滅多にイベントが起こらない。

 一大イベントが『村祭り』だったりする。

 まさか自分が村長を引き受けたタイミングで、王子から依頼があるなんて夢にも思わなかった。

 だから男は嫌々、村長になる事を受諾した。

 

 弟は兄であるダラスを誇りに思っていた。

 『ダラス兄ちゃんはこんな貧乏村出身でも、厳しい修行を重ねて総大将になった!』と。

 ダラスもまた弟を溺愛していた。

 給金の殆どを寒村に送るほどに。

 その弟が村を追放された。

 弟のベガスが追放された事がダラスがハッサンに対してクーデターを仕掛けた原因となる。


 

 そして弟の追放と『シルバーウルフ狩り』が関係している事を知る。

 シルバーウルフは知能が高い。

 伝説には人語を解するシルバーウルフが登場する。

 そしてシルバーウルフは人間を襲った記録が一切ない。

 逆に、助けを求めたり、人間を助けた記録は存在する。

 『森の護り手』と言われるシルバーウルフを狩る必然的は寒村にはない。

 むしろ畑を荒らす害獣を間引いてくれる『益獣』なのだ。


 何故ダラスの弟が『シルバーウルフ狩り』に参加したのか?

 調べると呆れた実態が浮かび上がってきた。


 ハッサンが入れあげている踊り子がいた。

 その踊り子は決して金や権力には靡かない。

 その踊り子には、心に秘めた相手がいて、その相手は南方へ従軍している。

 相手が従軍に出てから約三年、『もう諦めろ』と周りから言われても踊り子は決して想い人に不幸があったとは考えない。

 何故なら、南方からは遺髪すら戻って来ていないからだ。

 軍団による遠征は長くて二年間、短いと半年ほどで終わる。

 三年間音沙汰ない、というのは不自然だ。

 だが『死んだ』という話も『生きている』という噂も一切ない。

 この話には実はからくりがある。

 踊り子の想い人を南方へ追いやったのは王子のハッサンなのだ。

 想い人は人格者で人気者だった。

 剣の腕前もたつ。

 平民出身でありながら『百人隊』の隊長だった。

 踊り子に懸相(けそう)していたハッサンは、踊り子が想いを寄せていた幼なじみの男を南方の激戦区に送り込んだ。


 兵役が終われば、生死を問わず誰もが故郷に戻って来る。

 場合によっては、髪の毛だったり、それも叶わず命を散らせた戦地の土だったりもしたが。

 なのに数年経過しても踊り子の想い人は戻って来ない。

 兵士として優秀な『踊り子の想い人』は兵役期間を生き抜いた。

 いざ、生まれ育った城下町に戻ろうとした『踊り子の想い人』は「お前はこのまま戦地に残れ」と上官に言われる。

 『踊り子の想い人』は訳がわからない。

 真相はこうだ。

 『踊り子』に惚れているハッサンは、『踊り子の想い人』が南方から帰って来るのは都合が悪い。

 『踊り子の想い人』の兵役の期間を王族の権限で延長したのだ。

 ハッサンは言った。

 「『いつ兵役が終わるか?』だと?

 死ねば遺髪として、故郷に戻る事もあるかもな」と。

 つまり『戻って来ない』という事は『生きている可能性がある』という意味だ。

 ただ単に行方不明になっているのかも知れないが。


 兵役から帰って来ない『幼なじみで想い人』に操を立てている踊り子に贈り物をして気を惹こうとしているハッサンは、何度も突き返される贈り物を見てイライラしていた。

 「あの女、何なら受け取るというのだ!」と。

 その考え方が既に間違っている。

 踊り子は道端で拾った綺麗な石ころだとしても、『想い人』が手渡してきたなら満面の笑みで受け取るだろう。

 どんなに欲しくて価値がある物だとしても踊り子は『想い人』以外からの花以外のプレゼントは受け取らないのだ。

 踊り子は舞台には毎日上る。

 ショーに出る限りは花束だけは受け取らない訳にはいかない。

 だが、それ以外のプレゼントは頑なに受け取らない。

 チップやおひねりも。


 金やモノに靡かない女もいる。

 だが、靡く女もいる。

 王族という地位に靡く女もいる。

 何に惹かれるかはその人次第。

 顔、金、地位、性格・・・それは人によってまちまちだ。

 ハッサンに惹かれた女だっている。

 ハッサンには莫大な財産がある。

 財産に目が眩む女は少なくない。 

 そんな女に『何故、踊り子は八男坊(われ)のプレゼントを受け取らないか?』という疑問を投げかけられてもわからないのは道理だ。

 だが、ハッサンは自分のハーレムにいる女に聞く以外に疑問解決の方法を知らない。

 「何で踊り子は我のプレゼントを受け取らないのか?

 何だったら喜んで受け取ってくれるのか?

 なぁ、貴女(おまえ)だったらどんなプレゼントが嬉しい?」と。

 「え、えっと・・・私が欲しい物を敢えて言わせていただくなら『シルバーウルフの毛皮のコート』ですね閣下」

 彼女を責める事は出来ない。

 彼女は『王族の質問を無視出来ない。何か答えなきゃいけない』と思って『苦し紛れに答えた』にすぎない。

 悩んだ挙げ句、王族のハーレムにいても簡単に手に入らないモノ、という事で『シルバーウルフの毛皮のコート』と答えただけだ。

 別にコートが欲しかった訳じゃない。

 しかしハッサンは彼女の言うことを真に受けた。

 王国でシルバーウルフがいると噂があるところ、寒村と接している森が直ぐに候補にあがった。

 ハッサンは寒村の村長に『シルバーウルフ狩りを行う。人員を出せ』と書簡を送る。

 村長は『再考していただきたい。我々はシルバーウルフ様と共生している。シルバーウルフ様が害獣を駆除してくれなかったら寒村の人々は餓死しているだろう。またシルバーウルフ様を敵に回したくはない。過去に『毛皮狩り』で人間に牙をむいたシルバーウルフ様の記録は少ないが残っている。我々のような小さな寒村などは逆鱗に触れたシルバーウルフ様に滅ぼされるかも知れない』とハッサンに書簡の返事を書いた。

 寒村の村長の公開処刑は村の広場で行われる事になった。

 村長の罪状は『不敬罪』

 つまり「ハッサンの命令に従わなかった」と。


 王国は国王一族の優秀さでいままで繁栄してきた。

 王国では権力を持つ者が、常に正しく権力を行使してきた。

 国民も『王族に任せておけば我々の暮らしは心配しなくて良い』と思っていた。

 しかしそれはハッサンのような『バカ殿様』が現れた事で瓦解した。

 今回の事でわかった。

 『バカ殿』の「我に従え!」という命令に従わなかったら、どうやら処刑されるらしい。

 国王が健康な時なら、そんな理不尽は許さなかっただろう。

 だが、国王は高齢だ。

 全てに目を光らせておく事は年老いた国王には出来ない。

 国王が高齢だ、という事は跡目争いも少なからず存在する。

 国王の子供達の殆どが聡明で、国王を騙そうなどという事はしないし、お互いに争ったりしない。

 しかし聡明なのはあくまでも『子供達』だ。

 どの陣営にも『愚かな従者』がいる。

 第三王位継承者である長女と第五王位継承者である四男とは両親が同じであり、お互いはすこぶる仲が良い。

 だが、"長女派"と"四男派"の従者達は地獄のような犬猿の仲だ。

 で、普通であれば愚かな八男坊なんて、地位を取り上げられてもおかしくない。

 国王もまだ元気な内は「八男坊(アイツ)には国を運営していくだけの才覚がない。地方に八男坊(アイツ)でもやれる仕事はないだろうか?『辺境伯』『開拓伯』という地位を八男坊(アイツ)に与えたら、八男坊(アイツ)は人間が変わったように真面目に働くだろうか?」と心配していた。

 そんな親の心配などどこ吹く風、八男坊は国王(ちちおや)が公務に専念できなくなったと見るや、やりたい放題だ。

 従者達も八男坊を諌めるどころか、長女派や四男派を始めとした権力闘争を積極的に推し進め、派閥は八男坊を抱き込もうとヨイショを始めた。

 ヨイショされた八男坊はとことん調子に乗った。

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