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三谷志  作者: 海星
13/19

転落

 弟からの手紙で、村長(オヤジ)が『偉い人の逆鱗に触れた』という話は聞いていた。

 ダラスは正直見くびっていた。

 「あんな片田舎の寒村にいる『偉い人』なんてたかが知れているだろう」と。

 (ベガス)は「村長(オヤジ)が処刑されるかも知れない」と手紙で書いてきていたが、ベガスは「そんな大袈裟な」と内心鼻で笑っていた。

 「そう簡単に無実の人が処刑されてたまるか」と。

 ダラスはベガスの言う事を全く無視していたのではない。

 ダラスが王国の要職で出世するに従い『刑罰をもみ消して欲しい』と言って来る者が増えた。

 場合によっては金銭をダラスに渡そうとした。

 「これが汚職なんだな」「自分はある程度の罪ならもみ消せるぐらいに地位まで上り詰めたんだな」とダラスは気付いた。

 「汚職に手を染めるのはやめよう」「自分や自分に近しい人の利益のために権力を使うのはやめよう」「権力で法を捻じ曲げるのはやめよう」そうダラスは決心した。

 だからベガスから「村長オヤジが捕まった。兄ちゃんの力で何とかしてくれ」という手紙を受け取った時に「自分の権力は使うべきじゃない」と内容をよく読まなかった。

 読んだら身内を助けたくなるに決まっている。

 その話の顛末をダラスが知ったのは、ベガスが村を追放になった後だ。

 ダラスは弟の追放と『シルバーウルフ狩り』が関係している事を知らなかった。

 シルバーウルフは知能が高い。

 伝説には人語を解するシルバーウルフが登場する。

 そしてシルバーウルフは人間を襲った記録が一切ない。

 逆に助けを求めたり、人間を助けたシルバーウルフはお伽噺の中にいくらでも存在する。

 『森の護り手』と言われるシルバーウルフを狩る必然性は寒村にはない。

 むしろシルバーウルフ畑を荒らす害獣を間引いてくれる『益獣』なのだ。

 シルバーウルフは滅多に人間に姿を見せない。

 畑で害獣を駆除してくれた時も、足跡と少しの抜けた毛が残っているだけだ。

 その銀色の毛を見て、村の人々は「シルバーウルフ様が害獣を駆除してくださった!」と。


 シルバーウルフが益獣なら、何故ダラスの弟が『シルバーウルフ狩り』に参加したのか?

 調べると呆れた実態が浮かび上がってきた。


 国王のドラ息子、八男坊のハッサンが入れあげている踊り子がいた。

 その踊り子は決して金や権力には靡かない。

 その踊り子には、心に秘めた相手がいて、その相手は南方へ従軍している。

 相手が従軍に出てから約三年、『もう諦めろ』と周りから言われても踊り子は決して想い人に不幸があったとは考えない。

 何故なら、南方からは遺髪すら戻って来ていないからだ。

 軍団による遠征は長くて二年間、短いと半年ほどで終わる。

 三年間音沙汰ない、というのは不自然だ。

 だが『死んだ』という話も『生きている』という噂も一切ない。

 この話には実はからくりがある。

 踊り子の想い人を南方へ追いやったのは王子のハッサンなのだ。

 想い人は人格者で人気者だった。

 剣の腕前もたつ。

 平民出身でありながら『百人隊』の隊長だった。

 踊り子に懸相(けそう)していたハッサンは、踊り子が想いを寄せていた幼なじみの男を南方の激戦区に送り込んだ。


 兵役が終われば、生死を問わず誰もが故郷に戻って来る。

 場合によっては、髪の毛だったり、それも叶わず命を散らせた戦地の土だったりもしたが。

 なのに数年経過しても踊り子の想い人は戻って来ない。

 兵士として優秀な『踊り子の想い人』は兵役期間を生き抜いた。

 生まれ育った城下町に戻ろうとした『踊り子の想い人』は「お前はこのまま戦地に残れ」と上官に言われる。

 『踊り子の想い人』は訳がわからない。

 真相はこうだ。

 『踊り子』に惚れているハッサンは、『踊り子の想い人』が南方から帰って来るのは都合が悪い。

 『踊り子の想い人』の兵役の期間を王族の権限で延長したのだ。

 ハッサンは言った。

 「『いつ兵役が終わるか?』だと?

 死ねば遺髪として、故郷に戻る事もあるかもな」と。

 しかし逆を返せば『遺髪も戻って来ない』という事は『生きている可能性がある』という意味だ。

 ただ単に行方不明になってしまったのかも知れないが。


 兵役から帰って来ない『幼なじみで想い人』に操を立てている踊り子に贈り物をして気を惹こうとしているハッサンは、何度も突き返される贈り物を見てイライラしていた。

 「あの女、何なら受け取るというのだ!」と。

 その考え方が既に間違っている。

 踊り子は道端で拾った綺麗な石ころだとしても、『想い人』が手渡してきたなら満面の笑みで受け取るだろう。

 どんなに欲しくて価値がある物だとしても踊り子は『想い人』以外からの花以外のプレゼントは受け取らないのだ。

 踊り子は舞台には毎日上る。

 ショーに出る限りは花束だけは受け取らない訳にはいかない。

 だが、それ以外のプレゼントは頑なに受け取らない。

 チップやおひねりも。


 金やモノに靡かない女もいるのだ。

 だが、靡く女もいる。

 王族という地位に靡く女もいる。

 何に惹かれるかはその人次第。

 顔、金、地位、性格・・・それは人によってまちまちだ。

 ハッサンに惹かれた女だっている。

 ハッサンには莫大な財産がある。

 財産に目が眩む女は少なくない。

 それにハッサンはアホだが外見と姿勢だけは良い。 

 そんなハッサンに惹かれている女に『何故、踊り子は我のプレゼントを受け取らないか?』という疑問を投げかけられてもわからないのは道理だ。

 だが、ハッサンは自分のハーレムにいる女に聞く以外に疑問解決の方法を知らない。

 「何だったら踊り子は喜んでプレエントを受け取ってくれるのか?

 なぁ、貴女(おまえ)だったらどんなプレゼントが嬉しい?」と。

 「え、えっと・・・私が欲しい物を敢えて言わせていただくなら『シルバーウルフの毛皮のコート』ですね閣下」

 彼女を責める事は出来ない。

 彼女は『王族の質問を無視出来ない。何か答えなきゃいけない』と思って『苦し紛れに答えた』にすぎない。

 悩んだ挙げ句、王族のハーレムにいても簡単に手に入らないモノ、という事で『シルバーウルフの毛皮のコート』と答えただけだ。

 別にコートが欲しかった訳じゃない。

 しかしハッサンは彼女の言うことを真に受けた。

 王国でシルバーウルフがいると噂があるところ、寒村と接している森が直ぐに候補にあがった。

 ハッサンは寒村の村長に『シルバーウルフ狩りを行う。人員を出せ』と書簡を送る。

 村長は『再考していただきたい。我々はシルバーウルフ様と共生している。シルバーウルフ様が害獣を駆除してくれなかったら寒村の人々は餓死しているだろう。またシルバーウルフ様を敵に回したくはない。過去に『毛皮狩り』で人間に牙をむいたシルバーウルフ様の記録は少ないが残っている。我々のような小さな寒村などは逆鱗に触れたシルバーウルフ様に滅ぼされるかも知れない』とハッサンに書簡の返事を書いた。

 「我の言う事を聞かんのか!?」とハッサンは怒った。

 寒村の村長の公開処刑は村の広場で行われる事になった。

 村長の罪状は『不敬罪』

 つまり「ハッサンの命令に従わなかった」と。


 このタイミングで(ベガス)(ダラス)に『村長オヤジの処刑の中止と助命嘆願』の手紙を書いている。

 だがダラスはこの時、ベガスの手紙の『本気度』を読み間違い、ベガスの本気は伝わらなかった。

 ベガスは仕方なく、シルバーウルフ狩りに森の中に入るのだった。


 王国は国王一族の優秀さでいままで繁栄してきた。

 王国では権力を持つ者が、常に正しく権力を行使してきた。

 国民も『王族に任せておけば我々の暮らしは心配しなくて良い』と思っていた。

 しかしそれはハッサンのような『バカ殿様』が現れた事で瓦解した。

 今回の事でわかった。

 『バカ殿』の「我に従え!」という命令に従わなかったら、どうやら処刑されるらしい。

 国王が健康な時なら、そんな理不尽は許さなかっただろう。

 だが、国王は高齢だ。

 全てに目を光らせておく事は年老いた国王には出来ない。

 国王が高齢だ、という事は跡目争いも少なからず存在する。

 国王の子供達の殆どが聡明で、国王を騙そうなどという事はしないし、お互いに争ったりしない。

 しかし聡明なのはあくまでも『子供達』だ。

 どの陣営にも『愚かな従者』がいる。

 第三王位継承者である長女と第五王位継承者である四男とは両親が同じであり、お互いはすこぶる仲が良い。

 だが、"長女派"と"四男派"の従者達は地獄のような犬猿の仲だ。

 で、普通であれば愚かな八男坊なんて、地位を取り上げられてもおかしくない。

 国王もまだ元気な内は「八男坊(アイツ)には国を運営していくだけの才覚がない。地方に八男坊(アイツ)でもやれる仕事はないだろうか?『辺境伯』『開拓伯』という地位を八男坊(アイツ)に与えたら、八男坊(アイツ)は人間が変わったように真面目に働くだろうか?」と心配していた。

 そんな親の心配などどこ吹く風、八男坊は国王(ちちおや)が公務に専念できなくなったと見るや、やりたい放題だ。

 従者達も八男坊を諌めるどころか、長女派や四男派を始めとした権力闘争を積極的に推し進め、派閥は八男坊を抱き込もうとヨイショを始めた。

 ヨイショされた八男坊はとことん調子に乗った。

 

 表向き、ダラスはハッサンより地位が高い。

 だがハッサンは王族だ。

 血は地位より何よりの優先事項だ。

 だからハッサンがダラスに命令する事はあっても、ダラスがハッサンには決して命令できない。

 だからと言って『死地に迎え』などと命令はしない。

 八男坊の功名心をくすぐるのだ。

 「誰か『三谷(さんごく)』に向かってくれる勇者はいないだろうか?」と。

 『三谷』とは三つの谷の溝がぶつかった地点だ。

 そして溝が国境となっていて三つの国が国境を接している。

 谷底はどこまで続いているかはわからない。

 いや、一つの谷を国境沿いに辿っていくと海に出る。

 だがそこから谷底に降りる訳にはいかない。

 何故ならそこは常に時化っていて、そこを何とか抜けたとしても恐ろしい魔物(セイレーン)の群生地だからだ。


 話は逸れたが『三谷』は常に小競り合いが行われている。

 だが『三竦み』状態で、お互いに身動きが取れない。

 だから『谷を挟んで睨み合いをしているだけ』の比較的安全な戦地だ。

 しかし、それは『睨み合っている限りの安全』だ。

 攻め込んだ場合、どうなるか?

 バランスを崩そうとした者は全力で排除される。


 八男坊は三國のバランスを無視して、谷を越え、攻撃を仕掛けた。


 勿論、谷には吊り橋などはない。

 ではどうやって谷を渡るのか?

 長い長い、とてつもなく長い木の梯子を谷に渡すのだ。

 敵国も「そうはさせじ」と弓矢を放ってくる。

 幸い、敵国には魔法使いがいない訳ではないが、魔法師団などはない。

 その代わり剣士、騎士が我々とは比べ物にならないぐらい強力なのだ。

 「『王国』と『帝国』、どちらが空を制するか?」という争いが今、正に行われている。

 だが『王国』の旗色が悪い。

 当然だ。

 『三谷』は『守るに易く、攻めるに難い土地』なのだ。

 よっぽどの犠牲を払う覚悟がないと、攻めには転じれない。


 ジリジリと後退を余儀なくされる王国軍。

 八男坊は『負け戦』に放り込まれたのだ。


 崖向こうから弓矢が引っ切り無しにとんでくる。

 ランドは魔法使い見習い達に慌てて指示を出す。

 「対空防御魔法急げ!

 ハッサン様に矢を届かせるな!」

 ランドは必死になっていて声が大きくなってしまっていた。

 ランドの声は崖の向こうのスキル『地獄耳』を持っている教国の偵察兵の耳にも届いた。

 「王国軍の動きは何なのだ!?

 教国の神聖魔法にも遠距離魔法はある。

 だが神聖魔法の空刃(エアスラッシャー)は射程が微妙に短い。

 だから崖の防御には弓矢を配置している。

 弓兵の質も量もズバ抜けているのは王国のはずじゃないか!?

 何故にわざわざ魔法で攻撃を仕掛けてくるのだ?

 しかも攻撃してきている魔法使いは何故一人なんだ?

 それ以外の魔法使いは『対空防御魔法』に専念している。

 訳がわからんぞ!

 何かの罠なのか!?」

 教国の砦守備隊長に偵察兵が耳打ちする。

 「どうも攻撃してきている一人の魔法使いの横で騒いでる派手な格好をしたアホみたいな男ですが、どうも国王の八男坊、『ハッサン王子』のようです。

 『ハッサン様をお守りしろ!』と言う言葉が何度も聞こえてきているんで間違いございません」

 「そんなバカな!

 ここに王族を配置するメリットが無さすぎる!

 何かしらの陽動作戦ではないか?」と守備隊長。

 「そうとしか考えられません。が『何を隠すための陽動なのか?』皆目見当がつきません。

 もしかしたらハッサン王子は攻撃すべきではないのかも知れません」と偵察兵。


 断崖絶壁での王国と教国の小競り合いを影から見ていた者達がいる。

 「ダラス様、教国の弓矢攻撃が止みました。

 どうしてでしょうか?」と隠密っぽい男が

ダラスの耳元で言う。

 「名前を呼ぶな!」

 ダラスが隠密っぽい男を叱責する。

 元々、三国が国境を接している所で今のところ、各国が願っているのは『現状維持』、ハッサンが教国に攻め入ったのは『気の迷い』と思われているようだ。

 なぜなら変化はどの陣営も望んではいないのだ。


 弓矢は既に止んでいる。

 魔法を連発していたランドも既にへばっている。

 このまま『ちょっとしたイベント』で終わりそうだ。

 しかしダラスとしたらちょっと都合が悪い。

 ランドが魔法使い見習い達に『対空防御魔法』をかけるように指示を出した事が意外だった。

 ダラスの見込みとしたら、調子に乗って弓矢の射程圏内に入ったハッサンは射殺される予定だった。

 それを望んで、ハッサンをここに誘導した。

 ハッサンの最後を見ようと、ダラスは少し離れた所からハッサンの様子を眺めていた。

 「チッ。

 どうやらあの『ランド』という男は必死で『ハッサン』を守るようだ。

 ・・・全く、放っておけば己を守る力もないクズだと言うのに。

 お陰で、あのクズは生き残ってしまったようだ」ダラスは舌打ちしながらハッサンが生き残ったことを残念がる。

 わざわざ最期を見届けに来たのに。

 どうやら王国と教国の小競り合いは終わりのようだ。

 お互いに軽い怪我を負った者は数名出たようだが、死者は一人も出なかった。

 ・・・で、誰もが終わるかと思った。

 フラフラと今にも倒れそうだったランドが断崖絶壁の谷底に落ちそうになった。

 寸でのところでランドは意識を取り戻し、谷底に落ちないように『何か』に掴まった。

 しかしランドが掴まったのは、この世で一番頼りないモノ『ハッサン』だったのだ。

 『ハッサン』に『ランド』を支えられるだけの腕力はない。

 崖から『ハッサン』と『ランド』は谷底へ落ちていく。

 下までどれくらいの深さがあるんだろうか?

 ランドとハッサンが地面に叩き付けられた音は小一時間過ぎても聞こえて来なかった。


 大将ハッサン 殉職 総大将に特進

 魔法師団長ランド 殉職 魔法部隊長に特進


 ハッサンが断崖絶壁から落ちるところを見届けていたダラスは言った。

 「一体何なんだったんだ?

 コントか?」と。

 

 


 

 

 


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