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記憶喪失のわたしが契約悪魔と精霊を追う理由  作者: 黒月セリカ
第一部. 契約悪魔と精霊の交差点:忘却の契約と廻る歯車
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第36話. 遜色ない反撃



「なら――俺が前に出る。ついてこい、次の作戦に移るぞ!」


クロノスはセシルに一瞬だけ視線を向けると、迷いなくアキラへと駆け出した。


「え、ちょ、えぇぇ!!‟次の作戦”って何ですか!?」


背後から、唐突に動き出したクロノスに驚いたセシルが思わず声を上げたが、彼はそれを気にも留めず、足元に力を込めて地面を蹴り、加速度的に速度を上げていった。


そのたびに砂利が舞い上がり、空気が張り詰めるような感覚が広がる中、クロノスの鋭い視線はただ一つに向けられていた。


その視線の先では、アキラが膝をつけながら、セシルの攻撃を受けた異形の腕をもう片方の手で押さえていた。


先程まで不気味ながらも鮮やかだった藤色や紫の花々は、今やその一部が黒ずみ、枯れかけている。


腐敗した花弁がはらりと地面に落ち、まるで死を迎えた生物の一部のように石畳の上に散っていくのも見えた。


しかし、アキラはそれを意に介さず、冷ややかに枯れかけた異形の腕を見下ろすと、次の瞬間、瞬時に召喚した青白い短剣を手に持ち、静かに突き立てた。


スパッ ブツっ


鈍い音とともに刃が花に沈み込むと、彼は一切の躊躇もなくその部分を切り落としていった。


刃が走るたびに、枯れた花々が千切れ飛び、すでに失われた腕の代わりに血ではなく、美しくも不気味な紫の花弁が宙を舞い、そして同時に、新たな花が芽吹き始めていた。


(......今、自分で切り落とした、のか?)


クロノスはその異様な光景を目の当たりにしながらも、足を止めることなく前へと突き進んだ。


しかし、その最中、彼の脳裏にはふと、一つの疑念がよぎった。


(そういえば、先程も自分の足を躊躇なく切り落とそうとしていた......)


ふと、クロノスの記憶の奥底に、砕ける前の真紅の短剣の鮮烈な姿が蘇る。


セシルが拾い上げたあの短剣の刃には、時間が経ってすでに黒ずみかけた血痕がこびりついていた。


しかし、その上から、なお新しい血が滴り、濃い赤が刃の表面を静かに流れ落ちていたのを、彼ははっきりと覚えている。


(まさか、あの血は、アキラ様のもの...なのか?だが、どうしてそんなことを...?)


クロノスの思考が絡み合っていた。もしそうなら、アキラは自らの血で刃を染めたことになる。


――自分の足を鎖から解き放つために切り落とそうとしていた、あの時と同じように。


(まさか、あの腕も...!?)



もしもアキラがあの異形の腕を“自ら”切り落としたのなら、それは何のためだ...?


何か別の目的があるのか、それとも...?



次々と浮かび上がる疑問に囚われながら、クロノスはふと前方へと視線を戻すが、同時にぞくりと背筋を凍りつかせる異様な気配を感じた。


先程まで膝をついていたはずのアキラが、ゆっくりと、しかし確実に立ち上がっていた。


彼の鋭い視線が、まるで闇の中からじっと睨みつける猛獣のようにクロノスを捉えると、あの異形の腕を前方へ突き出し、まるで何かを解放するような仕草を見せていた。


(っ、しまった!)


その直後、紫の花々がうねる波となり、一斉にクロノスへと襲いかかってきた。


ほんの一瞬、思考の迷宮に囚われていたせいで、クロノスの回避がわずかに遅れたが、即座に鎖を手に召喚しながら構えると、渾身の力を込めて地面に鎖を叩きつけた。


ドンッ!!!


衝撃が地面を揺るがし、砕けた石片と共にクロノスの体が跳ね上がると、その反動を活かし、空中で巧みに身を翻しながら、わずかに軌道を変え、華麗に横へと飛び避けた。


「はっ、そんな単調な攻撃で俺を――っ!」


クロノスは余裕を見せるように言いかけたが、直後に異変に気づいた。


通り過ぎたはずの花々の波が、まるでクロノスを無視するように軌道を変えることなく、一直線に伸び続けている。それも――


(...っ、セシルの方へ向かっている!?)


クロノスは一瞬のうちに状況を把握し、即座に体を翻そうとしたが、その瞬間、セシルの鋭い声が響いた。


「クロノスさん!!後っ!!」


視線の先では、セシルはすでに腰の鞘から剣を抜き、迫りくる花々に備えながらこちらに叫んでいた。


「ッ――」


その瞬間、背後から突き刺すような殺気が襲いかかってきた。


クロノスは本能的にそれを察知し、右手の掌に瞬時に力を込めると、右足を起点に鋭く左回りで振り返ろうとした。


しかし、完全に背後を捉える前に視界の端に、あの青白い短剣の輝きが映り込んできた。


「くそっ、いつの間に!」


次の瞬間、クロノスは咄嗟に判断を下した。



鎖では防ぎきれない――ならば、掴むしか!



直感のままに、力を込めた右手を素早く前へと突き出し、迫り来る短剣を素手で受け止めた。


ガキンっ!


鋭い衝撃が指先から腕へと走ると、刃とクロノスの力が交錯し、瞬間的に青白い輝きと空気の歪みが収束するような異様な気配が生まれた。


(ッ...これは、セシルが攻撃を仕掛けた時の...!)


バキンッ


だが、セシルが巻き込まれていたような爆発が起こる前に、クロノスの力に耐えきれず、短剣はまるで脆い硝子しょうしのように砕け散った。


破片が宙を舞い、わずかに輝きを残しながら石畳の地面に落ちていた。


しかし――


(...っ、ぐっ...ッ!)


クロノスは次の一撃を繰り出そうとしたが、気がついた時には、片膝を地に突き、片手で胸元を苦しげに掴んでいた。


(な、んだ...これは...?)


これまで幾度となく感じてきた“重力に押し潰されるような感覚”とは異なる、もっと根源的な違和感と、指先から腕へ、そして得体の知れない気持ち悪さが体の奥へと侵食してくるような。そんな嫌悪感を感じていた。


「...おい、くっ、待ちやがれ!」


クロノスは呻きながら、崩れそうな体を無理やり支え、すぐに視線を前へ向けた。


だが、すでにアキラはそこにはおらず、彼はクロノスへの追撃を選ばず、まるで初めから眼中にないかのように、彼はそのままクロノスの横を通り過ぎ、一直線にセシルへと向かっていた。


「っ、あの魔獣と言い、アキラ様と言い...なぜ、そこまでセシルに固執するんだっ!」


クロノスは、地に片膝をついていた身体を無理やり起こすと、その反動を利用して一気に立ち上がった。


全身に得体の知れない気持ち悪さとこの世から押し出されそうな鈍い痛みが走るが、そんなものに構っている暇はなく、そのまま真っ直ぐアキラを捉え、彼を逃すまい、と一瞬の隙も見逃さないように鋭く光った。


そして、息を詰めるようにして足を踏み出すと、次の瞬間、クロノスは地面を蹴る勢いと共に、真紅の鎖を放ち、自身よりも速い動きで伸ばした。


そして、その鎖は蛇のようにしなやかに伸び、アキラの背後へと瞬く間に迫ると、そのまま体を一周、締め上げるように絡みつこうとしたが――


「ふっ、甘いな。」


「なにッ...!」


しかし、アキラはまるで背中にも目があるかのように、その襲い来る殺気を瞬時に察知し、僅かに身体を捻ることで鎖の軌道を外しながら、手に握った短剣を素早く翻した。


キーンっ!


そして、その短剣の刃が閃光のように瞬き、避けられた事で軌道が変わった鎖とぶつかり合うと、赤黒い力と青白い輝きが花火のように散り、金属の軋む音が鋭く響き渡った。


すると、アキラはそのぶつかり合った反動すらも利用し、僅かに体勢を崩しながらも前方へと勢いをつけ、迷いなくセシルへと猛然と迫っていった。


「チッ、させるかっ!」


クロノスは舌打ちをしつつ、すかさず鎖の軌道を修正し、まるで意思を持つ蛇のように滑らかな動きでアキラの短剣を持つ腕へと絡みつかせ、一気に締め上げた。


アキラの腕は軋む程の力で捻じり上げられたが、彼はそれすらも歯牙にもかけないように口元を歪めながらも、なおも前へと進もうとしていた。


「セシル今だ!」


「はい!」


クロノスの鋭い声が響くや否や、セシルは躊躇うことなく駆け出し、アキラとの距離を一気に詰めた。


「はぁぁぁ!」


そして、その手に握るウィップソードの刃をしなやかにうねらせ、空を裂くように振り上げると、鋭い風を伴いながら力強く一気に振り下ろした。


ザシュッ


刃が風を裂く音とともに、異形へと変貌したアキラの腕を正確に捉えた。


その刃の切っ先が咲き誇る異形のとなった花々の腕を鋭く切り裂き、その断面からは藤色の花弁が儚く散り、空気の流れに乗って舞い落ちていくのが見えた。


「ちっ...ッ。」


しかし、アキラは舌打ちを漏らしつつも、怯んで後退する事はしなかった。


むしろ、その狂気に満ちた殺気が更に鋭さを増し、セシルの存在を捕らえて離さぬ意思を感じるように、縛られた方の手に構えていた短剣をスナップを利かせてセシルに向かって投げつけると、そのまま魔獣さながらに地を蹴り、猛然と突進してきた。


「ぐっ...やっぱり...速い――!」


セシルは、放たれた短剣をギリギリのところで顔を傾けて回避しながらも、冷静に手首を返し、ウィップソードの刃を瞬時に自らの側へと引き戻す。


そして、真正面からアキラの猛攻を受け止めるのではなく、最小限の動きで回避しつつ、まるで風に乗るようにしなやかに刃を操り、鞭のようにうねらせながらアキラの動きをいなしていた。


ガン! カキンッ


刃と刃が火花を散らしながら激しくぶつかり合い、衝撃が周囲の歪んだ空気を震わせ、その瞬間、クロノスの声が鋭く響いた。


「おい、俺の事を忘れるなよ!」


次の瞬間、アキラの身体がわずかにクロノスの方へと引き寄せられた。


クロノスが巻き付けた鎖を力任せに引き寄せ、アキラの動きを封じ込めると同時に、荒い息を吐きながら、アキラに近づく為に走りながら、もう片方の手を伸ばし、触れる寸前まで迫った。


その行動を察したアキラは、一瞬だけ口元を歪ませると、迷わず自身を囲むように異形の花々を爆発的に成長させ、壁を形成した。


「ちょっ、!」


「――まずい」


瞬く間に、藤色と紫の花々が波紋のように広がり、セシルとクロノスの視界を遮った。


それだけではない。その花々は空間を侵食するように伸び続け、まるで生き物のように蠢きながら二人を呑み込もうと迫ってきていた。


(巻き込まれたら、まずいっ――!)


直感的にそれを悟ったセシルは、心の中で警告を叫びながら、突き出していた剣を咄嗟に引き戻しつつ、素早く刃を地面へと突き立てた。


「きゅぅ〜。な、なんとか......」


その衝撃で自身の体を後方へと押しやり、花々の中へと突っ込むのをギリギリのところで回避する事ができた。


しかし、その同じ瞬間、クロノスの掌が勢いのまま、その伸びてきた花々に触れてしまった。


ドォォンッ!!!


その瞬間、轟音とともに爆風が巻き起こり、大地が揺れた。


アキラの身体は爆風の衝撃に押し上げられ、宙へと弾き飛ばされたが、彼は吹き飛びながらも瞬時に数十本もの短剣を生成すると、そのまま上空から地上へ向けて一斉に解き放った。


「伏せろ、セシル!」


クロノスは砂煙が舞い上がる中、瞬時に判断し、真紅の鎖を傘のように展開させ、降り注ぐ短剣を弾き返そうとした。


しかし、降り注がれる短剣の勢いは凄まじく、弾かれた破片が石畳を砕き、さらに飛び散る破片が視界を奪っていった。

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