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記憶喪失のわたしが契約悪魔と精霊を追う理由  作者: 黒月セリカ
第一部. 契約悪魔と精霊の交差点:忘却の契約と廻る歯車
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第28話. 守る為の機転



セシルはブリギッタの接客を邪魔しないよう、壁に向かって体を向けながら、鞘から剣を抜き、軽やかに回転させたりと手元でじっくりと感触を確かめていた。


そんな彼女の背後に、突然大きな影が落ち、同時に荒っぽい声が頭上から聞こえてきた。


「ほぉ、いい武器持ってんじゃねぇかぁ」


「へ...?」


不意に声をかけられ、セシルは驚きながら振り向くとそこには、先ほど乱暴に店へ入ってきた男が立っており、興味深そうにセシルの武器を覗き込んでいる。


セシルがまだ状況を把握しきれずにいると、男はニヤリと口角を上げ、突然手を伸ばしてきた。


「だがなぁ、てめえみたいな、外の状況もわからない――......なんだ、この店、窓がねぇのかよ。まぁ、いいさ。その武器、チンケなガキには似合わねぇよ。ほら、俺が貰ってやるぜ?」


そう男が一方的に言い放つと同時に、セシルが持つ剣へと腕を伸ばしてきた。


「っ...!」


その瞬間、セシルは思わず身体がすくんで動けなくなり剣を両手に抱きかかえるようにするかとしかできなかったが、その時、鋭く張り詰めた声が店内に響いた。


「そ、それは...それは、商品じゃない!!やめて!!」


淡々で落ち着いていたブリギッタが、年相応と言えるような聞いたこともないほどの大声を上げた。


すると、男はその声に驚いたように手をぴたりと止め、盛大な舌打ちをしながらセシルを睨みつけると、頭を乱暴に掻きながらブリギッタのもとへズカズカと向かっていった。


影が遠ざかるのを感じながら、セシルはようやく息を吐き、気づけば、手のひらがじんわりと汗ばんでいた。


(ひぇんー、怖かった。やっぱり、武器を持っていない相手に手を出せないだよね。......ん?やっぱり?なんでそんな風に思ったんだ?)


セシルは剣を鞘に収めた後、考えるように片手で自分の髪の毛を指先でつまみ、転がすように触っていたが、ふと、先ほどの男のことが気にかかった。


いくら客とはいえ、あんなに横暴そうな男を幼いブリギッタが相手にできるような相手なのだろうか?


そう疑問に思い、チラリと様子をうかがうと、あの男はキョロキョロと周囲を見渡していたが、クロノスと一緒にしていたように、何かの武器や防具を眺めるような素振りが一切なかった。


(......あの人、本当に買い物しに来たわけじゃなさそうね)


不審な行動にセシルは警戒心を抱きながら、男に気づかれないよう視線を動かすと、ふと視界の端に映ったのは、棚の鍵穴に鍵を差し込もうとするブリギッタの横顔だった。


男の動向に気を取られていたセシルだったが、ブリギッタの指先が微かに震えていた。それを見た途端、先程までの男に対してのドキドキとした気持ちがスッと冷めていったのを感じた。


(ふーん、なるほどね...)


心の中で呟きながら、セシルはゆっくりと息を吐き、鞘に付いていた紐を手早く腰に巻きつけると、意識的に歩幅を小さくしながら、静かに男へと歩み寄っていった。


「...あ? なんだよ、こっち来るんじゃねぇよ!!」


突然距離を詰めてきたセシルに気づいた男が、手を振り払うようにしながら怒声を浴びせる。


しかし、セシルは男を視界の隅に一瞬入れると、男の声を華麗に無視するように横切り、怯えるブリギッタのほうへと歩を進めた。


「ブリギッタちゃん、ちょっといいかな?」


「っ!...せ、セシルさん...」


セシルに突然話しかけられたブリギッタは、鍵穴に鍵を差したまま、肩を震わせる勢いで飛び上がりそうになった。


焦ったような表情でこちらを見つめる彼女の瞳には、僅かに警戒の色が滲んでいた。


セシルは片手で静かに、と伝えるように軽く人差指を口に当てると、微かに震えているブリギッタの手を優しく包み込んだ。彼女の指先は冷たく、かすかに湿っていた。


それを感じ取りながら、セシルはブリギッタに笑顔を向けると、わざとらしく大きな声で話し出した。


「ちょっとさ、奥の部屋の炉に火を入れておいてくれないかな?」


「...炉ですか...?え...、な...なんで、そんな...」


ブリギッタの表情は明らかに困惑していたが、セシルは背後の男を意識しながら、クロノスとルカが去るときに通った奥へと続く開けっ放しの扉にさりげなく目配せした。


そのまま視線を動かし、ブリギッタが開けようとしていた棚にちらりと目をやると、声のトーンを少しだけ落としながら、男に聞こえるギリギリの音量で付け足した。


「ふふっ、少し打ちたいものがあってね。ほら、例えば、この棚の中の"アレ"とか?」


ブリギッタは一瞬戸惑うように瞬きをしたが次の瞬間、ハッとした顔になると、少し申し訳なさそうに小さく頷いた。


「...すみません、わかりました。では、奥の炉を温めてまいります」


「うん、お願いね!」


セシルはそう言いながら、ブリギッタの体をくるっと後ろ向きにして笑顔の表情で背中を軽く叩くように押した。


ブリギッタは一瞬表情を曇らせたが、すぐに前を向き直し、速足で扉の向こうへと去っていった。


セシルは、彼女が開いたままの扉を通り、姿が見えなくなるまで見守っていたが、その静寂を破るように、突如背後から怒声が響いた。


「おい!何あいつを行かせてんだ!こっちは急ぎなんだ!」


セシルは男の方にゆっくりと振り返ると、さもわざとらしく不思議そうに首を傾げ、腕を後ろで組みながら静かに問いかけた。


「ごめんなさいー。代わりにわたしがお話聞きますよ?何か買いに来たんですよね?」


すると、その男はイライラとした様子でセシルの隣の棚を指差し、 まるで自分に言い聞かせるように 声を荒げた。


「あぁ、ああ!?そ、そうだ!!武器......そうだ、武器を買いに来たんだ!!だからその棚の中に入ってる、一番いいヤツを見せてもらう話をしたんだ!!」


セシルはその言葉に、わざとらしく「へぇ...」と感心したように息を漏らすと、スッと手を伸ばし、棚に刺さったままの鍵をカチリと音を立てて引き抜いた。


「あ、おい!何、勝手に取ってるんだ!さっさとその棚を開け――」


「一番価値がある......は分かりますけどね」


セシルに言葉を遮られたことで、男は「はっ?」と小さく息を漏らしながら、怪訝そうな顔をしていた。


一方、セシルは僅かに笑みを浮かべながら、棚のガラスに軽く指先を滑らせた。包帯に覆われた指先がガラスに触れると、うっすらと曇った跡が残った。


そして、男へとその冷たい光が宿った瞳を向け、ゆっくりと口を開いた。


「ここ、《《武器なんて入ってないですよ》》?」


「は.......?」


その言葉に、男の動きが止まる。その間、セシルは鍵をちらりと掲げ、指先で軽く回しながら、カチ、カチと小さな音を鳴らして無造作に揺らしていた。


やがて、男の眉が僅かに寄り、口元が引きつるのを確認すると、セシルは大事にしまっていた耳飾りとぶつからないよう慎重に気を配りながら、鍵を服のポケットへと滑り込ませた。



✿✿✿



ウィップソードが置いてあった棚が落ちてきた数十分前――


「ここまで、動きが歪だとは...」


クロノスは、セシルに合う武器を探す一環として、鍛冶屋の商品として置かれていた弓をセシルに渡し、その扱いを眺めていた。


しかし、あまりにも不格好な動きに、思わず困った顔をセシルに向けていた。


すると、セシルは頬を膨らませながら、納得がいかなさそうな表情でクロノスに弓を突き返すように渡した。


「むぅ、才能がなくて悪かったですね...」


そう言って、プイっと顔をそらすと、微かに涙を浮かべ、どこか悔しそうな表情をしていた。


それに気づいたクロノスはバツの悪そうに頬を掻くと、申し訳なさそうに口を開いた。


「......すまない。言い方が悪かったな。俺が召喚した鎖を扱っていた時の動きがあまりにも印象的でな。それと比べるように見てしまっていた」


その言葉にセシルはクロノスを疑うようにジト目を向けると、微かに浮かべていた涙を掻き消すように軽く首を振っていた。


そして、他の武器を探すようにクロノスに背を向け、歩き始めると、まるで自分に向けるように盛大にため息をついた。


「はぁ~、わたしについてきてくれるよ!って言ってくれる子はいないかな~」


武器が並ぶ店内にも関わらず、セシルは呑気に体を左右に揺らしながら壁に飾られたものを眺めたり、クロノスがブリギッタの代わりに棚へ戻した甲冑の頭部に「ヨッ」と軽く手で挨拶をしたりしていた。


そんな中、ふと近くの棚の一角で、何かが光に反射しているのが目に入った。


「あれ?今、何か光っていたような...なんだろう」


小さく呟くと、吸い寄せられるように一つの棚へと歩み寄り、中を覗き込んだ。


すると、そこには、古びた布が敷かれ、その上に無造作に転がる金属の塊があり、まるで何の変哲もない鉱石のようだが、僅かに顔を覗かせた内側は淡い銀色で仄かに輝く独特の光沢を帯びていた。


「おぉ!なんだろうこれ?鉱石、かな...?」


セシルは興味津々で棚の中の鉱石を凝視しながら、棚を開けようと扉に手をかけ、引いたが、扉はびくともしなかった。


すると、タイミングよくセシルに返された弓を元の位置に戻したクロノスが、後ろからセシルを見つめながらゆっくりと口を開いた。


「おい、強化ガラスが使われている棚だ。下手に触って壊すんじゃ無いぞ」


「へ?...強化ガラス?」


セシルは即座に棚から手を離し、顔だけを後ろのクロノスへ向けた。すると、クロノスはセシルの頭の上部に手を伸ばし、力加減をかなり弱めながら、棚の扉を軽く指先でなぞるように触れていた。


そんな彼を見届けると、セシルは再び顔を棚の中へ向け、覗き込むようにしながら口を開いた。


「...。あの、これって?」


すると、クロノスは扉から指先を離し、セシル越しに中身を確認すると、軽く頷きながら答えた。


「あぁ、たしか、これはな——」



✿✿✿



「ロジウム」


時は戻り――


セシルは男に静かに言い放った。その言葉は鋭く冷たく、まるで氷のように男を突き刺っていただろう。


「はっ、ロジウムだなんて聞いたこともないぞ!!」


男はセシルを指さし、威勢を張るような声を上げたが、セシルは軽く顔を傾け、口元にわずかな笑みを浮かべると、男が何かを言い足す前に続けた。


「ふふっ、それもそうですよ。この棚に入っているのは、武器を作る際に使用される非常に貴重で、手に入りにくい鉱石なんですから。つまり、この棚自体が、この貴重な鉱石を保管するための専用の棚というわけです」


「......」


男はセシルの言葉に無言で耳を傾けることなく、下ろしていた拳をギリギリと握りしめていた。


その反応を見て、セシルは軽く息を吐き、ポケットに入れた鍵を指先でそっと撫でるた。


そして、少し間を置いた後、棚から一歩離れ、ゆっくりと男に近づくと、まるで何も気にしていないかのように無造作に口を開いた。


「武器をお求めに来たと言うのでしたら、すぐ近くにもあるじゃないですか? もしくは、ただ一番高価なものを持ってこいと、あの子(ブリギッタちゃん)を脅して――」


「テメェ...!!」


男はその言葉に怒りを抑えきれず、顔がみるみるうちに赤く染まっていった。


そして、激しい感情が表情に滲み、怒声とともに横殴りの一撃を繰り出しながら、背中の服の下に隠していた鉈のような武器を引き抜き、低く構えた。


「そこまで察してるなら用なしだ! ガキが、調子に乗るんじゃねぇ!! ぶっ殺す!!」


男の殺気を孕んだ声が響いた瞬間、地を蹴る音がし、刹那、鋭い鉈の刃が空を裂き、セシルの首元へと迫る。しかし、その瞬間——


キィンッ——!


「......は?」


だが、その瞬間金属音が響き、鋭い刃が火花を散らしながら男の刃が華麗に弾かれていた。


セシルは冷淡な目で相手を見据えたまま、構えていた片手の鞘から一気に剣を引き抜き、そのまま斜めに刀身を走らせて相手の一撃を逸らした。


バランスを崩した男は、よろめきながら後ずさりしており、セシルはその隙を逃さず、すかさず踏み込んだ。


「武器を持ってるなら...こっちのものよ」


セシルは独り言のように低く呟くと、持っていた剣を下から上に持ち上げるように振り上げた。


それと同時にカチッ、と音と共に一瞬で刀身は一瞬でしなやかに鞭のように変形し、ウィップソードとなった刃は、鋭くうねりながら躍動し、男の武器を持つ腕を狙って唸りを上げた。

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