第26話. 経験による忠告
やがてセシルたちは、少女の後をついていきながら、街の隅にひっそりと佇む一軒の建物の前にたどり着いた。
先に扉を開けて中へ入っていった少女を横目に、セシルはふと入口に置かれている木製の看板に目を留めると、そこには、小さな剣の絵が彫られていた。
「...もしかして、武器を売ってるお店?」
セシルは看板を凝視しながら小さく呟くと、泣き止み、すっかり目を腫らしていた手を繋いでいたルカはまるで「そうだよ」と肯定するように、セシルの手を軽く引いた。
その様子を見ていたセシルとクロノスは、互いに軽く頷きながら視線を交し、セシルが先導し、少し緊張しながら扉に手をかけた。
ギィィ――
扉が軋むような異様な音を立てながら開かれると、中には工房独特の鉄とわずかな火の匂いが漂っていた。壁際には所狭しと剣、槍、弓などの様々な武器が並べられ、その近くには盾や防具らしき衣類も整理されて陳列されている。
派手ではないものの、間違いなく武器を扱う店――いや、鍛冶屋と言ったほうがしっくりくるような、どっしりとした風格のある佇まいだった。
「すごい...」
セシルは店内を見渡しながら、その印象を口にしようとした。だが、目の前に立つ少女のじっとした視線に気づいた途端、思わず口をつぐんでしまっていた。
ただ見つめられているだけなのに、その目はまるで何かを吟味するかのようで、セシルは少し気まずそうに胸元で両手を組み、指を弄びながら落ち着かない様子を見せた。すると、突然その少女はふっと表情を和らげ、深々と頭を下げた。
「私はルカの姉、ブリギッタと申します。弟の事、本当にありがとうございました。奪われた袋に入っていたお金はこの店にとって、とても大事なものでした。あの大金がもしなくなっていたら......今頃どうなっていたか......それに、弟のケガまで治していただいて...本当に感謝しています」
そこで言葉を区切ると、ブリギッタは顔を上げることなく、お礼を続けた。その隣では、いつの間にかルカも彼女を真似するように頭を下げていた。
「え、ちょっと!顔をあげてください!」
深々と頭を下げ続けるブリギッタとルカ。そして、明らかに年下相手なのに、思わず丁寧な口調で慌てて顔を上げさせようとするセシル。
そんな三人のやり取りを見て、クロノスは思わず苦笑する。しかしすぐに軽く首を振ると、まるで何かを考えるように首に手を当て、確信したような目でブリギッタを見据えていた。
すると、そんな彼の視線に気づいたのか、ブリギッタはゆっくりと顔を上げると、静かに口を開いた。
「...紅茶と焼き菓子くらいなら出します。あちらで少々お待ちください」
そう言いながら、まるで最初から用意されていたかのように木製の丸い椅子に手を差し伸べ、座るよう促していた。
すぐ隣の鉄製のテーブルには、セシルとクロノスが屋台で買って飲んでいた飲みかけのジュースが置かれていた。おそらくルカが、一度ここに帰ってきた際に置いたのだろう。
(...わざわざ、紅茶まで出してくれるなんて――わっ!!)
セシルは促された椅子の方に近づくと、椅子のうちの一脚にまるでデュラハンの首の様に西洋甲冑の頭部がこちらを見据えており、思わずびくりと体を硬直させてしまった。
すると、後ろからルカに背中を押されるようについてきていたクロノスより先にブリギッタがすぐに申し訳なさそうな顔をしながら甲冑を片手で持ち上げ、すぐ近くの足元にあった小さな脚立を器用に足で蹴るように動かしながら、手際よく武器などが綺麗に飾られている棚へと移動していった。
「はぁ、びっくりした...」
気を抜いた状態で椅子の上に甲冑の首部分が置いてあったことで、ドキドキとした表情をしながら胸元に手を添えていると、クロノスを無事に座らせ少し満足そうにしていたルカが近づいてきて少しうれしそうに話し出した。
「へへ、あれね。ぼくが帰って来たときにちょうど来てたおきゃくさんが、かっちゅーのおかお部分い外を買っていくって言っててね!お姉ちゃんのしょうひんのしょうかいが上手だからかな?すごいよねー!でも、なんで、おかおは買っていかなかったんだろうねー?」
「......このお店はブリギッタちゃんと二人で?」
「え?うん、そうだよ!」
そう言いながら、ルカはセシルの手を掴み、クロノスと同じように座らせようとしていた。
二人でお店を切り盛りしていると聞き、セシルは少し驚いたが、それ以上に、つい先ほどまで号泣し、セシルから離れようとしなかったルカが笑っていることにどこかほっとした気持ちになり、そして気づけば腫らしたルカの目にそっと指を伸ばしながら優しく声をかけた。
「...そういえば、ルカくん?さっきまでわたしに泣いて離れなかった理由って何かあるのかな...?」
その言葉にルカは一瞬動きを止めると、セシルと二人の様子を静かに眺めていたクロノスの顔を交互に見上げた。
どこか言いにくそうな表情を浮かべる彼に、セシルが軽く首を傾げると、ルカは少し安堵したように頷き、ゆっくり口を開いた。
「あ...あのね...」
「うん、ゆっくりでいいよ」
セシルも優しく声をかけながら、ルカに掴まれていた手を逆に引き、用意された椅子に座らせた。
そして、セシルはそっと手を離し、しゃがみながら膝に手をあてたその瞬間――
「きゃっ!」
突然、セシルの背後から小さな悲鳴が上がった。
咄嗟に悲鳴の方に振り返ると、ブリギッタが先程まで足で動かし、甲冑の頭部を少し高い位置にあった棚に戻すために、踏み台にしていた小さな脚立を踏み外し、バランスを失ったまま宙に投げ出されていた。
「ブリギッタちゃん!!」
さらに、セシルの目に彼女のすぐ頭上には甲冑の頭部分が、ゆっくりと落下しようとしていた。
時間が引き延ばされたかのように、甲冑の影がブリギッタの顔を覆っていくのがわかる。
――危ない!
セシルは考えるよりも早く床を蹴り、一瞬でブリギッタとの距離を詰めと、彼女の腕を引き寄せ、その小さな体を胸に抱き込んだ。
そして、床に背中側を叩きつけられる覚悟で倒れながらブリギッタの頭を庇うように全身を包み込んだ。
どしん!!
「...っ、いっ...つぁ...っ」
激しい衝撃が背中を貫き、鈍い痛みが脳を揺らす感覚が軽く生じたが、それを意識する間もなく、セシルは慌てて上半身を起き上がらせて、腕の中に抱えたブリギッタに視線を移した。
腕の中の彼女は怪我はしていなさそうだったものの、突然のことにまだ状況を理解できていないのか、驚いたように目を大きく見開いていた。
「お姉ちゃん!!」「おい、平気か!」
背後から響いた声に、セシルは床に尻もちをついたまま首だけを後ろへ向けると、ルカが椅子から飛び降り、こちらへ駆け寄ってきた。
一方、クロノスも椅子から立ち上がり、焦ったような顔で手を軽く伸ばしながらこちらを見つめていた。
そんな二人を横目にセシルはその場に座り込みながら辺りの床を見渡していた。
(...あれ、甲冑がない...?)
不思議に思いながら顔を上げると、そこには宙に浮かぶ甲冑の頭部が真紅の鎖によって過剰とも言えるほどに何重にもなって空中でがっしりと拘束されていた。
その状況を一瞬で理解したセシルは、ぱちくりと瞬きをすると、片手を床についてブリギッタをしっかりと抱えたまま立ち上がると、軽く手を振りながら、クロノスに向かって朗らかに声をかけた。
「クロノスさんー!助かりましたー!ありがとうございますー!」
「っ、お前...随分と呑気だな...」
クロノスは、セシルのあまりにものんびりした様子に呆れたように顔を覆い、大きく息を吐いていた。
すると、近くまで駆け寄ってきたルカが、セシルの顔を見た途端、目を見開いて驚愕した表情をした。
「...せ、セシルお姉ちゃん!目が...!ち?ちなの?大へん!!」
そう叫ぶなり、ルカはセシルやクロノスの言葉も聞かず、パニックに駆られたように部屋の奥にある扉へと駆け出した。扉を勢いよく開くと、そのまま嵐のように慌ただしく消えていった。
「...血?っ、~~~~」
途端に、以前にも感じたことのある、瞳の奥が熱を帯びるような感覚に襲われ、思わず目元を押さえていると、ゆっくりとこちらに近づいてくる足音が響いた。
セシルは薄目を開き、足音の主を確認すると、クロノスが心配そうな表情でこちらを見ていた。彼はまだ宙に浮かせたままの甲冑の頭部を真紅の鎖でがっしりと拘束したまま、その鎖を手繰り寄せるようにして掴んでいた。
やがて、彼はセシルのすぐ隣に立ち、ブリギッタに聞かれないよう小さく低い声で囁いた。
「セシル...言いにくいんだが、今のお前の目――俺が分け与えた契約悪魔の影響で、力を使うと驚くほど赤く染まってしまう、と言えばいいのか...」
「え、えぇー!そうだったんですか!......そもそも、わたし、力なんて使ってたんですか?」
「...わかってなかったのか」
クロノスの言葉にセシルは驚きのあまり、セシルは思わず口に手を添えたものの、それを貫通するほどの大声をあげてしまっていた。
ハッとした彼女は、慌てて会話を打ち切るように目元を軽く擦り、何事もなかったかのようにブリギッタの方へ向き直り、柔らかい声で話しかけた。
「あ、えっと。ブリギッタちゃん、大丈夫だった?ごめんね、もう少し丁寧に受け止めたかったんだけど...」
そう言いながら、セシルはブリギッタの服を軽く払い、怪我がないか慎重に確認していた。
「...すみません。私まで助けていただいて」
「ううん、謝らなくていいいのよ?」
静かに言葉を交わしながら、セシルはふと袖を直そうとブリギッタの肩辺りに触れた。しかし、その瞬間妙な違和感を覚え、思わず動きを止めた。
彼女の腕の動きとはまるで連動していない左袖が、不自然に、まるで中身がないかのように軽やかに揺れ、空中でふわりと漂っているのに気がついた。
(......まさか――)
セシルが驚きを飲み込んだのとほぼ同時に、ブリギッタと静かに視線が交錯した。彼女の瞳には、どこか達観したような、諦めとも受け取れる穏やかな色が滲んでいた。
「あぁ、気づかれたようですね。驚かせてしまいましたか?」
ブリギッタはそう言いながら、淡々とした仕草で右手を伸ばし、もう片方の袖の先をつまと、そのまま手を離した。すると、その袖はひらりと舞い、ゆっくりと落ちていったのがわかった。
「...っ、腕が...」
「はい。不運な事に、私の左腕は空っぽ――ないんですよ」
静かな声音でそう告げる彼女は、ふっと肩を竦めた。まるで「仕方のないこと」だと言わんばかりに、他人事のような口調だった。
セシルは思わずクロノスの方へ視線を移と、クロノスは既にその事実を知っていたのか、特に動揺する様子もなく鎖で掴んでいた甲冑を、ブリギッタが置こうとしていた棚に代わりに戻していた。
セシルはゆっくりとブリギッタへ視線を戻すと、ブリギッタは静かに口を開いた。
「片腕しかないと、ルカがいないと上手く武器が作れないですし、とても不便しているんですよね」
「...そう、なんですね――」
ブリギッタの言葉に、セシルは一瞬言葉を詰まらせながらも、なんとか空気を壊さないように話を続けようとした。
しかし、その静かな空気を打ち破るように、扉が勢いよくガンッと開いた。
「セシルお姉ちゃん!!これ、もってきたよ!!つかって、つかって!!」
ルカの大きな声に、セシルはブリギッタから視線を外し、後ろからドタドタと駆け寄ってくるルカの方へと顔を向けた。
ルカはクリーム色の箱を両手で抱え、セシルに差し出そうとしていたが、セシルの顔を見た途端、驚いたように目をまん丸にし、足を止めた。
「...あ、あれ?目のいろ...もどってる...あれ?...もう、大じょうぶなの?」
「ふふっ、血じゃなかったみたいだよ。心配してくれてありがとうね」
セシルはそっとしゃがみ込み、嬉しそうに目を細めながら、ルカの頭を優しく撫でた。
最初こそ驚いた様子だったルカも、すぐに心地よさそうに目を細め、セシルの手に頭を預けると、彼もまた、嬉しそうに微笑んでいた。
そのやり取りに、ブリギッタもふっと小さく息を漏らし、静かに微笑むと、少し離れた壁際で飾られた武器や武具を眺めていたクロノスに軽く会釈し、セシルの横を通ってルカへと歩み寄った。
「...ルカ、顔がひどいことになってるし、一度、その目元冷やして来ようか」
「うん、わかった!あ、そういえば、こうちゃも作らないとだね!」
ブリギッタとルカは話し終えると、改めてセシルに向き直り、丁寧に頭を下げと、クリーム色の箱を両手に抱えたルカの背を軽く押し、二人で奥の扉へと向かっていった。セシルは彼らを見送るように、軽く手を振った。
やがて、パタンと扉が閉まるのを確認すると、セシルは小さく息をつき、ふと壁際を見た。
そこではクロノスが未だに武器を見つめており、セシルは腕を後ろで組みながら、彼の背に近づきながら、いたずらっぽく声をかけた。
「クロノスさん、かなり真剣に見てますね?」
クロノスはすぐにその言葉に反応し、壁から視線を外してセシルを見下ろした。
「あぁ、いや。ここまで手入れされた武器が揃っているのは珍しいからな。せっかくの機会だ、セシルに一本見繕ってやろうかと思っていたところだ。いつまでも俺の力で作った武器を貸すわけにはいかないからな」
その言葉に、セシルは顎に指を当て、考えるように武器を眺めと、ふいに顔を輝かせた。
「たしかに、毎回作って貰ったら負担ですもんね...あっ!この斧とか立派ですね!切れ味とかも凄そうですよ!」
「却下だ、斧だけはやめろ。選ぶなら、その隣の槍にしろ」
「えぇー、なんでですか!!」
不満げに口を尖らせながら、セシルは壁に飾られた槍へと近づき、柄の部分にそっと指を伸ばしたが、その瞬間、不意にクロノスの声がかかった。
「...気になるのか?」
「えっ、この槍ですか?たしかにこれも――」
「いや、違う。ルカとブリギッタの事だ」
その言葉に、セシルは槍に触れかけていた手をゆっくりと下ろすと、少し困ったような顔でクロノスを見上げた。
「えへへ...い、いやだなぁ。わたし、そんなに顔に出てました?」
そんな彼女の返答に、クロノスはやはりなと言わんばかりに小さく息を吐いた。
「...契約悪魔としての忠告だ。あまり、二人の事情には深入りしないことを勧める。鍛冶屋という力仕事を、大人の影も見せずに二人きりで経営している。片腕しかないブリギッタ。そして、セシルに泣きついて離れようとしなかったルカ......。俺の経験から言えば、俺たちがどうこうできるような問題じゃない」
「いや、待ってください!!鍛冶屋で二人っきり、というのは、わたしも引っ掛かりましたが...ブリギッタちゃんの腕は...その、言いにくいですが、生まれつきとか...」
「いや、それはない」
クロノスは断言するようにバッサリと否定されたことで、セシルは思わず口をぽかんと開けたが、慌てて首を振り、理由を聞こうと口を開いたが、クロノスが先に言葉を続けた。
「...経緯などは完全なる推測だ。ただ、これだけは言える。彼女の腕は契約悪魔の力によって切り落とされている、とな」
「...そ、そんな......」
あまりにもさらりと告げられた事実に、喉がひりつくような感覚に襲われ、声が出ないように言葉を詰まらせていた。
そんな彼女を見て、クロノスは少し考えるように目を細め、口を開いた。
「そうだな...以前話した俺とは違う姿をしている契約悪魔の事を覚えているか?」
「あ...たしか...人型を取らない“概念的な存在”、でしたっけ?」
クロノスはセシルに軽く頷くと、手のひらに力を込め、小さな鎖を生み出し、それを静かに見つめながら、言葉を続けた。
「そうだ。“概念的な存在”を持つ契約悪魔というのは、代償を受け取らない代わりに契約者の体に宿り、力を貸す。たとえば、もし俺がそういう概念的な契約悪魔だったとしたら...契約者であるセシルは、俺のように鎖を召喚する力を得ることができる、というわけだ」
クロノスの指先で鎖が静かに揺れ、まるで意思を持つ蛇のように宙を漂わせており、彼はどこか遠くを見るような目をしながら、それを眺めていた。
セシルは新たな情報を整理するように視線を落とし、口元に手を当てた。そして、思考をまとめ終えると、クロノスを真剣な眼差しで見上げ、問いかけた。
「それで、ブリギッタちゃんの腕と関係あるってなんでわかったんですか...?」
クロノスはしばし考えるような素振りを見せた後、漂っていた小さな鎖を一か所に集め、手のひらで正確に掴むと、それを砕き、空中へと溶け込ませるように消し去った。
「...彼女の失った腕から、微かに契約悪魔の力を感じたんだ。概念的な契約悪魔が直接誰かに手を下すことはない。となれば――契約悪魔と契約を結んだ...おそらく親あたりが、何かしらの理由で好き勝手に切り落としたんだろう」
「......」
「まぁ、そういうことだ。あまり深入りするな。それと、ルカが泣いていた理由も聞かないほうがいい。親からの愛情不足が原因とか、何かしらのトラウマを抱えているとか......考えられる理由はいくらでもあるがな」
そう言いながら、クロノスは肩をすくめると、セシルが手を伸ばしていた槍を代わりに手に取り、天井の明かりに透かすように掲げながら、じっくりと吟味していた。
一方のセシルは、想像よりも重い話を聞かされ、思わず足元を見つめるように視線を落とした。気がかりではあったが、これ以上自分が踏み込むべき問題なのか、逡巡しながら黙り込んでしまっていた。
そんな彼女を一瞥したクロノスは、手に取った槍を元の位置に戻し、今度はすぐ近くにあった弓を手に取ると、暗く沈んだままのセシルに向かって、静かに言葉を投げた。
「おい、一応言っておくぞ。治癒魔法でブリギッタの腕を治そうなんて馬鹿なことは考えるなよ」
「なっ......えっ、いや。その...」
セシルは驚き、思わず顔を上げると、焦ったように目を泳がせながら手を振り、弁解しようとするが、クロノスはその様子に思わず口元を緩め、小さく笑っていた。
「ふはっ、やはり図星か。だがな、いくら優れた治癒魔法の使い手でも、壊死したり切り落とされた部位を一から再生することは不可能だ。試そうとするなよ?......セシルなら不可能を可能にしそうで、逆に恐ろしいからな」
「あっ、なんで少し笑ってるんですか!わたしは真剣に考えてるんですよ!」
腕を組んでむすっと拗ねたように顔をそらすセシルを見て、クロノスは口元を緩めると、問答無用で手に持っていた弓を掴ませるように渡した。
「ほら。そんな事より、これでも試してみろ」
「えっ...?」
セシルは思わずクロノスを見上げたが、彼は軽く顎をしゃくるだけで、特に何も言わないでいた。
疑問が残る鍛冶屋の中で、セシルはクロノスの様子に軽くため息をつきながら、自分の中で見え隠れするルカとブリギッタへの疑念を完全に振り払うように、そっとクロノスに渡された武器を握りしめた。




