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王太子殿下は、無能な婚約者をお望みのようで

作者: サクラ咲く






リハビリがてら書いた、気楽に読めるご都合主義全開の異世界転生ものです。


ドアマットやざまぁなど、登場人物が痛い苦しいシーンは全くありません。









「はぁ、また王太子妃の勉強から逃げてきたんですか、フェリシア様…」


「まあまあいいじゃないかローレン。フェリシアだって勉強ばかりではつまらないだろう? フェリシアおいで、一緒にお茶にしようか」


「はぁい、ライアン様ぁ〜」



豊かな濃い金髪に蒼い目の美青年……ライアン様ことマクライアン王太子殿下がパッと笑顔になる。

手にしていた書類を放り投げ手招きする殿下に、応えるように私もニッコリ笑いとことこ近寄る。

すぐに私の腰を抱き寄せると、彼は額に軽く口付けた。

その様子を見ていた側近候補のローレンが、漏れそうになった大きなため息をグッと呑み込む。


……いや分かるよローレン様、仕事も勉強も放棄してイチャこいてるバカップルの傍に居なきゃいけないのって辛いよね。

しかもこれがこの国の将来の王と王妃とかって、有り得ないよね。

ため息しか出ないよねこの状況。


内心ローレンに同情しながら、私は演技を続けた。

背中で揺れる長いピンクブロンドとふわふわしたフリルたっぷりのピンクのドレスも相まって……今の私は可愛いの可愛いんだいけるぞ今の私は可愛いのよフェリシア!!

自己暗示をかけると高速でパチパチ瞬きを繰り返し涙を誘発、ウルウルとしたピンクの瞳で上目遣い、ついでに胸の前で両手を組んで……と。



「あのぉ、ライアン様ぁ、教師の方が厳しくってぇ」


「おや、それはいけない! こんなにも愛らしいフェリシアに厳しくするなど言語道断、すぐにその教師は解雇しよう」


「ありがとうございますぅ、ライアン様ぁ」


「ふふふっ、私のシアはなんて可愛いんだ!」



はい、バカップルバカップル。


王太子殿下の執務室には側近候補のローレン様だけでなく、侍従や侍女などの使用人が複数人いるのだ。その人達の視線が冷たくてイタイ。

でも無視。


今の私は周りの空気も読めない、おバカさんで無能な婚約者なのだから。





□□□□□□□□





事の発端は5年前、私達が12歳の時。

マクライアン王太子殿下と私、フェリシア・ガーナード公爵令嬢の婚約が正式に決まったあの日。

王太子殿下との顔合わせのお茶会でいきなり彼が何かに驚いたように椅子から転げ落ち、それにビックリして立ち上がった私も足をもつれさせて転び……なんと2人してその瞬間に前世の記憶を思い出したのだ。


私達の前世は、日本に住んでいたごく普通の一般人。金銭感覚や常識などの諸々の考えが、この瞬間に前世寄りに一気に傾いた。

その結果……



『…なあ、フェリシア。王族とか、めっちゃめんどいな』


『公爵令嬢も十分めんどくさいですわよ、殿下』


『しかもお前、王太子殿下の婚約者だぞ? 将来この国の王妃とかってしんどいな、ハハハ……ウケる』


『そっちこそ王様でしょ、完全にブーメラン』


『それな』



元平民の日本人からしてみれば、王侯貴族の生活はやけに堅苦しいしギスギスしてるしで、正直息苦しくて仕方ない。いつもいつも誰かしらの目があるから休みの日も部屋着でダラダラなんて出来やしないし、どんなに楽しくても大口開けて笑うなんて以ての外、腹の奥を探り合う貴族特有の遠回しな会話に細かいしきたりエトセトラエトセトラ……

その時、私達の心はひとつになった。



『『……逃げるか』』



とは言え今すぐに全てを投げ出すなんてことは出来ない。

産まれてから12年、殿下も私も領民から集めた血税で優雅に暮らしてきたのだ。良いとこだけ貰っておいて「後は知らん」なんて無責任な事出来るはずもない。

両親や兄弟との仲も良好、殿下も私も今まで特に問題になるような悪評もなく、むしろ日本人特有の勤勉さと生真面目さを発揮している。

12歳の私達は眉間に皺を寄せてウンウン唸り……とある妙案を思い付いた。



無能ぶりを装って、フェードアウトすれば良くね?



幸いというか、殿下の弟である第二王子もそこそこ優秀、周りをガッチリ固めれば問題ないそうだし。

ガーナード公爵家も跡継ぎの兄上はしっかり者で、私が居なくなったところで揺らぐようなヤワな家じゃない。

ということで、殿下と私はその日から「無能になろう!」を合言葉に頑張った……結果、こんなバカップルに。

いやなんでだ。






□□□□□□□□





「いい加減にぶりっ子キャラから軌道修正したい、ピンクから離れたい、語尾伸ばすのやめたい…」


「いや無理じゃね?」



シレッとお茶を飲むマクライアンをギロリと睨む。

今は執務室に2人きりなので、お互いに完全に素だ。



「元はと言えばライアンのせいでしょ、『バカっぽい話し方にしろ』とか言うから!」


「確かに言ったけど、その口調にしたのシアだろ。それからドレスだけピンクやめても、髪も目もピンクだからな」


「ぐぬぬ…」


「俺だって歯が浮くようなセリフ言ってんだ、そのくらい我慢しろよ」


「あの『私の可愛いフェリシア』とか『愛らしいシア』ってやつ? というか毎回毎回同じ事言ってるようにしか聞こえないんだけど。もう少しバリエーション考えたら?」


「……悪かったな、口説き文句不足で。これでも限界ギリギリなんだ」


「そっちこそ我慢してよ、こっちだって聞くの我慢してるんだから」



あの『作戦名、無能になってフェードアウトしよう!』が決行されてから早5年。

私達は17歳になった。



マクライアンの側近候補のローレン様や他の侍従や侍女の反応からも分かる通り、私達は順調に無能ぶりを発揮している。

国王陛下と王妃殿下からも何度も「しっかり勉強しなさい」「貴方達の言動は目に余る」と苦言を貰っていて、なかなかに良い感じ。

そろそろ次の作戦に移行しようかしら?



「じゃあ次に、ライアン、ちょこっと浮気してきて」


「………はあ?」


「ほら、今のままだと、私と婚約破棄して婚約者だけすげ替えれば、マクライアンがまたまともになるとか思われてそうじゃない? だからマクライアンがそもそもまともじゃないって思わせないと」


「え〜……いや分かるよ、分かるけどさ。俺浮気とかって、無理」


「なんでよ、このままだと将来王様になっちゃうよ? いいの?」


「良くない、良くないけど。なんで好きでもないヤツに笑ってベタベタして鳥肌立つようなセリフ言わないといけないわけ? 無理、絶対無理」


「………うん?」


「あ、シア、お前分かってないなその顔」



クスリと色っぽくマクライアンが笑う。

ちくせう、この男、顔が良い。



「お前相手じゃなかったら、こんなバカップルな真似なんてしないよ。むしろ俺とお前を離したらヤバいから、一緒に無難な僻地に飛ばしてしまえって思われるようにしたし」



……え、待って。どういう……?



「あはは、そのアホっぽい顔! 本当に俺の気持ちに気付いてなかったんだ?」


「アホっぽいは余計! ってか、待って待って、どういうことそれ全く意味わかんないんだけど」


「お前……マナーも勉強も完璧のくせに、こっち方面は免疫ないって本当だったんだな。はぁ〜、早めにバカップル路線にして正解だった」


「だから! 説明して!」


「う〜ん……ま、いっか。もうここまできたし」



向かい合って座っていたソファから立ち上がったマクライアンが、私のすぐそばまでくると、スっと片膝立ちになった。

ヤバい絵本の騎士みたいカッコイイ、こいつ本当に顔が良いな!



「1回しか言わないからな。ちゃんと聞けよ………………お前が好きなんだよ、シア」


「ぇ……えっ? なんて?」


「1回しか言わないって言った」


「いやもう1回! もう1回言って!」


「言わない!」


頬を染めプイとそっぽを向くマクライアンに、思わず胸がキュンキュンしたとか……ないから!!

















その年、マクライアン王太子殿下は王家に王位継承権を返上、婚約者であるフェリシア・ガーナード公爵令嬢とともに王国の最南端の小さな僻地に新たに「サクラ辺境伯」として移動する。








数年後、本来の優秀さと勤勉さを発揮したマクライアンとその妻フェリシアの活躍で、サクラ辺境伯領地は緑豊かな土地へと変貌。

後の歴史書に「麗しきサクラ、第二の王都」と呼ばれる程に発展した。

また初代サクラ辺境伯夫妻のラブラブバカップルな溺愛の様子を、辺境伯領地の名前から取って「サクラ満開のご様子で」と微笑ましく言われるようになったとか。






【 フェリシア 】 ……ピンクブロンドのふわふわ長髪にピンクの瞳、華奢で守ってあげたくなるような可憐な美少女。乙女ゲームの主人公みたいな外見。

でも中身はしっかり者、本当は勉強もマナーも完璧。前世は経理担当の事務員だったことから、特に数字に強い。辺境伯領地では主に金銭管理を担当。

マクライアンの溺愛にやっと気付いてあたふたしたが、しっかりと外堀埋められて囲われてたし、逃げる気もない。





【 マクライアン 】……金髪に蒼い目の王子様。勉強や執務は手を抜いていたけど、自分とフェリシアを守るために剣術だけはしっかりやっていた、細マッチョ。

フェリシアに一目惚れした瞬間、前世の記憶を思い出した。しっかりしてるのにどこか抜けてるフェリシアを上手く誘導してバカップル路線にいくよう仕向けた腹黒。

辺境伯領では主に治安維持を担当。フェリシアとのんびりイチャイチャダラダラするためにちょこっと領地開発頑張ったら、ますます仕事が増えた……社畜気味。








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