この悪を滅ぼす者を求ム
生まれた時から魂に染みついた邪悪さがどんなに質が悪いものか。
俺自身がよく「ご存知」だ。
身体の奥底から溢れる悪しき力に、俺は幼きながら“悪の道”に相応しい人間だと悟った。
「お願いだからお母さんとお父さんの言う事聞いて! 貴方は──」
「だったら俺はこの家を出て行く。俺は“悪”として生きることに恥を感じていない」
絶望の顔で泣き崩れた母を置いて、家族を捨てるように家を出た。
全ては“悪役”として生きるため。
醜悪を、外道を、卑しさを。忌み嫌われる数々の悪行に誇りを持ち、崇高な美学だと酔いしれる。
例え罵詈雑言を背に投げられたとしても構わない。
悪逆非道の筋を通し、俺自身の生き様を全うし、最後は華々しく退場する。
“悪役”としてお似合いの終幕を飾る予定──だった。
「これで何百人目になるんですかねぇ。今回の勇者もボスを倒せなかった……と」
魔王城の床に転がる勇者の亡骸が手下たちによって運ばれていく。指を鳴らしただけで無残に散ったパーティーのお粗末さに鼻で笑えば、隣で書き留めていた秘書がやれやれとあきれ顔で見つめてきた。
「ボスの辞書には手加減というものはないようで感心します」
「魔王を倒すと正義を掲げたヒーロー相手に何故手加減せねばならん。そもそも数世紀に置いて俺を倒せていない事実に片腹が痛くなる」
「確かにそうなんですがね」
ずれた眼鏡を上げながら秘書は納得がいかない様子で唸る。サキュバス族である尻尾が解せないと言いたげに激しく上下した。
「本当は勇者として貴方が世界を救うはずだったんでしょう。なのに先代の魔王を倒して新たな魔王として君臨するなんて……イカれてますよ」
「フン……。俺は早くから自分の歪みに気付いていた。清廉潔白な勇者の器ではないとな。その俺を討伐する正義とやらを待っているわけだが……望み薄だな」
華々しく散ってこそ“悪役”としての演目は完成するというのに。
「どいつも“主役”として役立たずで困る」