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第一話 婚約破棄

「ジンユエ、今日をもってお前との婚約を破棄する。」


 夜会の最中に突然呼び出され、突然そんなことを言われ、ジンユエは思わず自分の耳を疑った。

 今日は他国と交流をするための夜会が白の国で催されていた。夜会が始まってしばらくしても現れないウツギに対して、なんとか苛立ちを隠しつつ、貴族令嬢の相手をしていたが。まさか、夜会中に浮気していたとは。


 幼い頃にウツギと婚約し、今日まで王妃教育に外交の勉強に、さらには体術まで様々なことをこなしてきた。故郷から遠く離れた首都で、孤独な婚約者生活を送っていた。それなのに、婚約破棄をして今さら自由な生活を許されるのは、どうにも解せない。


 足を組んで偉そうにソファに座っているウツギのそばには、ワインの入ったグラスが置かれている。ジンユエは彼が酔っ払っていることを期待した。


 隣に座っている女性は王子よりも知性が高そうで、王子の突然の発言に動揺しているようだ。緊張しているのか両手でカップを持ち、紅茶を一気に飲み込む。ジンユエは先ほどから女性の様子を観察していたが、貴族の基本的なマナーを知らないところや、あかぎれだらけの手から、どこかの村娘を王子が連れてきたと考えた。


「突然ですね。」


 怒りの感情に支配されて、思うように言葉を紡げない。だめですジンユエ。落ち着いてください。感情にしはいされてはだめだ。

 私は、目の前の敵たちに気づかれないように深呼吸をした。そうして王子の次の言葉を待つ。


「私は気づいてしまったのさ。」


 王子は立ち上がって、その場に立ち尽くしているジンユエのそばに歩いてくる。

 ジンユエは知っている。王子が、身長が低いことをコンプレックスにしていることを。

 外からはわからない踵の高い靴を、靴屋に特注で作らせていること。現在成長期真っ只中のジンユエよりも身長が低いことを気にして、平らな靴をわざわざジンユエに履かせていること。


「国王の隣に立つべきものが、国王よりも大きくてどうするんだ。」


と、身長が並び始めた頃、王子に罵られたことをよく覚えている。今日も靴屋に作らせた、先の尖った新品の靴が黒光りしている。


「何にでしょうか。」


 ジンユエは背筋をピンと伸ばし、ウツギを真っ直ぐ見つめ返す。


「真実の愛というものだよ。」


「…。」


 ジンユエは返す言葉が見つからなかった。


「バイオレット、こちらに来なさい。」


「は、はい。」


 王子の隣に座っていた女性が自信なさげに返事をし、立ち上がる。バイオレットと呼ばれた女性は、ジンユエとは正反対の特徴を持っていた。

 守りたくなるような愛らしい顔立ちに、(ジンユエはキリッとした顔立ちだ)王子の胸の位置ほどの背の高さ(王子と裸足で背比べをすると、ジンユエの方が視線一つ分ほど高い)。

 髪の毛もふわふわとした茶髪で、(ジンユエは真っ直ぐな黒髪だ)不安げな顔でさえも可愛らしい。


「私はお前との婚約を破棄し、バイオレットを正妃に迎える!」

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