ゆいこのトライアングルレッスンM〜家庭教師〜
『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』のコーナー『ゆいこのトライアングルレッスンM』(【ミューチュアルパイニング=両片思い】がテーマ)に応募した作品です。
ゆいこ・たくみ・ひろしの原案者は巽悠衣子さんです。
「……パスカルの三角形で展開公式の係数を調べられるんだ、ほら、1、4、6、4、1……」
右隣から聞こえる、艶のある落ち着いた低い声。シャツをまくった袖からのぞく筋張った腕。突き出た喉仏。精悍な顔つき。一直線に通った鼻筋。スクエアタイプの黒縁眼鏡——
「ゆいこわかる?」
目が合って、思わず顔を逸らす。
「ごめんひろし! ちょっと休憩」
いけない。見惚れてた。
勉強するときだけ眼鏡かけるのずるい。
『顔、赤くなってないかな……』
私はベッドに寝転んで枕に顔を埋める。
大学生のひろしが私の家庭教師をしてくれるようになって1ヶ月。この距離にまだ慣れない。
「ゆいこ、制服シワになるぞ」
相変わらずお母さんみたいなことを言う。
春には高3になるけど、ひろしにとってはいつまで経っても手のかかる幼馴染なんだろうな。
拗ねた気持ちで窓を開けると、偶然もう1人の幼馴染が通りかかった。
「たくみ〜!!」
私は窓から身を乗り出す。
ブラウンのチェスターコートを着たたくみがこっちに気づく。その瞬間、後ろから抱きしめられた。
「こら、落ちたらどうするんだ」
二人分の体重で軋むベッド。
「ちゅっ」
つむじにひろしの唇が触れた気がして思わず見上げる。
眼鏡の奥。
いつも優しい瞳が、今は熱を帯びて私を見つめる。
スローモーションのような、瞬きのような、こんな時間はじめてで、目が離せない。
「よそ見できなくなるくらい、もっと厳しくしてやろうか?」
————そうだった。今、勉強中だった。
◇
「ひろし独占欲強すぎ」
「う……返す言葉もない。たくみ、さっきはごめん」
「ぷはっいいよ、気にしてない」
ひろしが俺の好物のコーヒーゼリーを持ってやってきた。
真面目だね〜。歓迎して部屋に通す。
「で? 勉強は順調なの?」
「ああ。ゆいこは頑張り屋だから心配ない。ただ……」
「ん?」
「ベッドの上に制服で寝転がったり、とにかく無防備で……ゆいこが志望校に合格するまでは絶対に気持ちを隠し通すって決めたけど、1ヶ月で限界きたかも」
「早っ。代わろうか?」
「ダメだ」
「お前ホント独占欲強いな」
うなだれるひろしをからかいながら励ます。
こいつらの甘い話にはコーヒーゼリーの苦味がちょうどいい。
お読みいただき誠にありがとうございました。
両片思い楽しかったです〜〜!!
次回開催時は、記念の10回目とのことで!
今からとっても楽しみです!(*´▽`*)
(2021年2月26日放送の『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』にて、ご自由にとのことでしたので投稿しました。
もしも投稿の仕方に問題がありましたら、すぐにお知らせください。よろしくお願いします。)