初めての夕食。
しばらく毎日投稿です!
明日は、6時と20時の2回更新します!!
今日は昨日の様に都合よく洞窟は見つからなかった、仕方がないので木が密集して雪を避けられる場所を見つけ、拠点とする事にした。
「それにしても、すごい量だな…」
この場所と近くに川も見つけ、今日の拠点にすると決めたら彼女はすぐに今日の夕食を獲りに向かった、手持ち無沙汰になった俺は、周辺を整えて、乾いた木を拾い焚き火の用意をしていた。
昨日とは違い軍にすら対抗できるであろう力を持つ彼女がいるという事で彼女に事情を説明した上で、焚き火を焚く事にしたのだ、腐っても十数年旅をしている俺は諸々の準備を一時間もかからずに終える頃彼女は戻ってきた。
両手いっぱいにウサギを持って。
狩りとはそんな簡単な物なのだろうか…いや、そんなはずはないだろう、少なくとも俺はこんな短時間で六羽ものウサギを狩る狩人には会ったことが無い。
「んーー……楽しかったわ、ウサギって随分器用に山を登るのね」
伸びをしながらそんな事を言う彼女だが、どうやら肝心な事を忘れているらしい、ウサギはこのまま食べられるわけではないのである。
「…急いでさっきの川は向かうぞ、日が暮れる。」
「?何言ってるの?まだ日が沈むには時間があるわ。」
不思議そうに聞く彼女はまだ知らないのであろう、動物の解体が時間との勝負である事、そして簡単にはいかない事を。
「ねえ……アナタこの大変さ知ってたの?」
「まあ、そりゃあ長いこと旅してたらウサギの解体をした事くらい幾らでもあるさ」
「どうして、狩る前に言ってくれないのよ……」
「そりゃあなあ…俺の知ってる狩人は一日で、一羽から三羽狩れれば一人前って言ってたからな、今日初めてのお前が、まさか両手いっぱいにウサギを持って帰ってくるとは思わん」
「…次からは一羽にするわ………アナタの言ってた暗くなるってのも理解したわ…」
「まぁ何はともあれ飯だ、獲ったばかりのウサギ肉は街で食べるのと味も食感も違うぞ。」
「そう…楽しみにしとくわ、出来たら起こして。」
彼女はそう言うと俺の毛布を片手に眠ってしまった、調理は俺の担当という事なのだろう。
「いやしかし、本当に凄いな、もし狩人になったら食うには困らんぞ」
そう呟きながら思い出す、彼女はやはり不思議な人物だ、狩りのあの手際の良さもそうなのだがそれよりも不思議なのは、年相応に楽しんだり、めんどくさがったりして、かと思えば普通の町娘なら嫌がるだろうウサギの解体を、淡々とこなす、見知ったばかりの異性の毛布を何もなく使ったりと、なんともチグハグに見えるのだ。
「さて、作るか。」
長年やって気付いた料理のコツは、無心になる事である、今この時は食材と火、そして味だけに集中するのである、そうしたらいつの間にか完成する。
旅先の料理なんてのはそんな物でいいのだ。
「アナタ料理、上手なのね。」
「ただ肉を焼いたり、煮込んだりしただけだ。」
「焚き火でそれをする事の難しさくらい、なんとなく分かるわ、でもアナタのは火加減も完璧だし、味も風味もいいわ、今までで一番美味しいウサギ肉よ?」
「ハハハ、そう褒められると悪い気はしないな、と言っても、俺の料理は大抵が人から聞いた物の真似事の組み合わせだからな、俺の料理が美味いって事は、世界には美味い物を作れる奴がいっぱい居るって事だろう。」
「…そうかもね、ご馳走様でした、美味しかったわ。」
「おう」
食い終わった俺たちは余ったウサギ肉を焚き火の近くで干して寝る準備を始めた。
「…なぁ、どう寝る?」
「別に寒いんだから同じ毛布でいいわよ、早く来なさい。」
「そうか……」
なんとも男の矜持を傷つけられた様な気がしたが、冬山という事を考えれば至極合理的な判断としか言えない。
有無を言わさぬなんとも男らしさを含んだ彼女の言葉で、その前まであった彼女との同衾の可能性に対する高揚感がなりを潜め、男としてただただ情けなさだけが残っていた。
「…入るぞ。」
「ええ、どうぞ。」
人の体温があるだけで昨日とは相当違った、これでよかったのだ、彼女の隣にいる事で心拍数の上昇は感じるが、そんな事よりも、昨日とも今までとも違う、これまでの一人旅で感じた事の無い程の心地の良い暖かさに、体が溶けるようにすら思った。
寝そうになる時に隣から声が聞こえてきた。
「…さっきアナタは自分の料理は真似事だと言ったわ。」
「…ああ、そうだ、実際俺の料理は大抵が真似事だよ」
「…私はそうは思わない、聞いた事を全て覚える、実践する、組み合わせる、そうやってアナタが作った料理はとても美味しかったわ……もうあれはアナタの料理よ。」
「そうか。」
「ええ、そうよ。」
「…料理を振る舞うのなんか一人旅だと殆ど無いんだ、そんな事を言われたのは初めてだよ、考えもしなかったよ」
「そう…なら仕方ないわね、でも次からはもう少し誇りなさい、私が褒めてるのよ。
謙遜も大事だけど卑屈より誇りを持つ男の方が好きだわ。」
それだけ言うと彼女は眠ってしまった、全身が熱くなった俺を置いて。
たかが料理で褒められるとは思わなかった。
たかが料理で性格を指摘されるとは思わなかった。
たかが料理で救われるとは思わなかった。
歴があるだけの素人料理だと思っていたが、どうやら俺は頑張っていたらしい、気付かせてくれた彼女に感謝を抱きながら、その夜は身も心も暖かく眠れた。
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