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小悪党、未来の嫁を拾う。  作者: かがみスイッチ
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出会いと告白。

山の中を何かが反響する音が聞こえる、こだまで分かりづらいが聞こえてくるのは前方だった、一度は聞き間違いかと思い、歩みを始めるとまたも進んでいた先から音が聞こえてきた。


ーン……


(何の音だ…獣の鳴き声には聞こえないが…)


ィーーン……

(音の方に近づいてるようだな…少しずつ鮮明に聞こえてきてる…)



ガキィーーン!!


(!?)


剣撃の音だ、一瞬追い手か!と焦りもしたがよく考えるとおかしい、なぜ先回りしているのか、そしてもし追い手だとして、なぜ追われてる俺ではない者と戦っているのか、山賊という考えもよぎるが山賊とて人である以上、こんな雪の積もる日に人っ子一人通らぬような場所にいるのはおかしいだろう。


数瞬悩んだ末に覗いて見て判断する事にした。


腕に覚えはないが無いよりはマシだろうと、仕入れたばかりの腰の剣を握りしめて、静かに音の鳴る方に近づいて行くとほんの少し開けた場所に出た、見つからぬように息を殺し、木の影に隠れるようにして覗くとそこには、顔半分に髭を蓄えた筋骨隆々な大男が一人と、中肉中背で切れ長の目をした男、そして、その二人と向かい合うように一人の少女がいた。


水面が日の光を照り返したように輝く誰もが見惚れるだろう綺麗な銀髪は肩より少し伸びていて、少女は今まで見た、どの演劇女優や踊り子よりも美しく、そこから生える四肢はすらりと長いが、気を抜くと折れてしまいそうなほど細く、肌は誰も踏んでいない真っさらな雪のように白かった。


違和感があったのは、その細腕に握られている、彼女の身長ほどもある歴戦の傭兵が使ったような刃こぼれの多い太刀と山奥という場所にはおよそ相応しくない場違いなドレス姿。


珍しい銀髪、その装いや、不釣り合いな獲物を持つ少女がトートには物怪の類にしか見えなかった。

そんな折に髭の男が口を開いた。



「おいおい、シシィ物騒なもん振り回しやがって、村での恩を忘れたか」



シシィと呼ばれた少女が答える



「恩…?面白い事を言うのね、父さんと母さんを殺したのは貴方達でしょう?」



「だからよぉ、あの二人が死んだのは狩りでの事故だともう何遍も言っただろうが」



「…私が龍神の寵児になってすぐに二人とも事故死したの?随分貴方達に都合のいい死に方ね…まぁ、もともと、仲のいい親子では無かったし死んだところで何も無いわ、ただ、貴方達に寵児としての力を利用されるのは御免なの、だから出てゆくの」



「…はぁぁぁ、分かんねぇやつだな、テメェにはもう、そんな自由許されてねぇんだよ、親が死んで、テメェん家の後見人に俺達がなった以上、お前は俺らの所有物なんだよ、黙って俺達の為だけにその力を使え、寵児のクソガキ」



「まったく、気が短いわね、そして口も頭も救いようの無いくらい悪いわ」



「もういい、おいデント反対に回れ、死ななけりゃ何でもいい」



デントと呼ばれた男が剣を抜きながら、シシィの後ろに回り込む。



「寵児とはいえ、所詮は成ったばかり、素人のガキと変わりゃしねぇ、手加減をやめた俺らとの差は虎と鼠ほどもある、聞き分けが無くて残念だよシシィ……やれ!」



腕に覚えのありそうな男二人が襲い掛かろうとしてる中、彼女は場面に似つかわしく無い、楽しそうな笑みを浮かべていた。



「…思いついたのだけれど、私も貴方達の真似をしようと思うの、こんな雪山だもの、貴方達の最期を知るのは私だけなら、きっと事故として処理されるわ……だから…鼠駆除よ」



その瞬間彼女の体が消えた、次に現れたのは切れ長な目の男デントの背後からだった。

いつ、どうやって後ろに回ったのかも素人の俺には分からないが確かに一瞬でそこに現れたのだ。


「一匹目…」


未だにこやかに笑いながら現れた彼女は、振り向く勢いを使い背後目掛けて振るうデントの剣を一流の踊り子の様に舞って避け、片手でデント首筋に一閃振り下ろすと、もうその場には静寂があるだけだった。


「…おい、デンt」

「もう切ったわ。」


動かなくなったデントを一瞥して髭の男が口を開いた


「……クソッタレのバケモンが……鼠は俺達かよ……なぁ、俺だけでも逃す気は無いか?俺に興味なんかないんだろう?見逃してくれ」


シシィはほんの一瞬考える素振りを見せて答えた


「ダメよ、勝手に逃げなさい、私は追うわ、これはただの鼠駆除だもの。」



「バケモノめ…」



髭の男はそれだけ言うとシシィ目掛けて剣を構え走り出し、自分の間合いに彼女が入るとその恵まれた体躯から己が力一杯に剣を振り下ろした……そのはずだった



ガギィィィン!!!


大男は止まっていた、彼女はこともなさげに、振り下ろされた剣を止めてしまう。


「…っ!」


恐ろしさからか半狂乱となった男は勢い任せに剣を振り回すが、彼女が今度は避けず、全てを往なし、受け止めていた。


男に疲れが見え、振り回す速度が落ちてきた瞬間、またも彼女は男の前から消えた、だが今回俺は、見逃さなかった、目にも止まらぬ速さで上空へ跳んだ彼女を、そしてドレスと髪を靡かせ、落下で加速しながら剣を振り下ろすその瞬間を。





全て終わったが、俺は未だ興奮が冷めなかった、今まで感じた事のない初めての経験、その美しさや立ち振る舞い、そして圧倒的な程の強さ、見ていたのがバレれば殺される可能性も頭では理解している、だがそれでもなお、立ち止まり、見惚れてしまっていた。


たった数分、その数分で俺は彼女の持つ何かに心底惚れてしまっていた。


「…そんなに見つめて楽しい?」


「!……気付かれてたか…」


彼女に話しかけられただけで、動悸が止まらなかった、いつもなら出てくる、場を切り抜けるための言葉も上手く出てこない、今この瞬間に世界には俺と彼女しか居なくなったような、そんな気さえしていた。


「あんなに熱い視線を送られたら誰だって気付くわ、それで貴方はどうするの?」


「どうするって…」


彼女は多分、かかってくるのか来ないのかを聞いていたのだろうが、俺はなにをどうするのかすら分からなかった、多少は人より良かったはずの俺の頭はこの瞬間一切の動きをやめていた。


今まで陥った事のない混乱状態にあった俺は何かを考える間もなく、とんでもないことを口走ってしまう。



「なら俺と結婚してくれ。…………!?」



……オレハイマナニヲイッタ………??

気づいた時にはもう遅く、言った言葉は取り消せない、もしかして今のは心の声で、実際には言葉に出してはいないのではないだろうか。

そんな希望的観測がよぎるが流石にありえない。


(確かに言った、言ってしまった、結婚してくれと…

馬鹿なのか!?こんな死体の横で風情のない……違う!そうじゃない!風情とかどうでもいい、命の危機、殺されるかどうかの瀬戸際だぞ!!………命乞い故の嘘と思われるだろうか……だから違う!!そうじゃないだろ!

第一なにが"なら"なんだ!何の脈絡もないだろうが!!)


こんな状況になっても未だ回らぬ頭を抱えていると彼女の雰囲気が和らいだ。



「プッ…ハハハハ!!アーハハハ!!…アナタ面白いわ、突然の求婚に、百面相で慌てて…プフフ、何で求婚した方が慌ててるのよ」


「確かに、そうだ、そうだよな、ハハ…」


「そうよ、しかも"なら"って何の脈絡も無さすぎよ…プフフ」


「ああ、その通りだよ」


顔が熱い、きっと真っ赤になっているのだろう、素直に目を見れない、冷静になってきた頭が結論を出していた、お前は彼女に一目惚れしたのだと。


「食事やデートに誘われた事は何回もあるけど、こんな状況で求婚した大胆で命知らずな人はアナタが初めてね」


「そうか…」


「……面白かったけどごめんなさい、今はアナタと結婚したくないの…ああ、そんな顔しないで、別にアナタが嫌なわけじゃないわ」


俺は一体どんな顔をしていたのだろうか…

いろんな交渉事もこなしてきて鍛えられたはずの俺の表情筋は、こんな時には素直に動いてしまうのか。


「私はね、世界を見たいの、景色や感触、匂い、人々の顔。

寵児に選ばれて、初めて屋敷から出て、世界の広さを知った時の衝撃と感動が忘れられなくて、



私は世界を知りたいの。



だからごめんなさい、私は行くわ、この出来事も覚えておくから。」


彼女に惚れた一端が分かった気がした、彼女は十数年前、村を出た時の俺に似ている、世界を知りたいというのは俺も抱いた事のある夢だ、彼女は夢を無邪気に信じている、そして彼女には俺には無い、何者にも縛られない力強さがある、きっと夢を実現できるだろう才能が…その強さを羨ましくも思うが、そんな彼女に過去の自分を重ね、そして惚れたのなら俺のやるべき事は一つだろう。


「待ってくれ、お前歳はいくつだ」


「17だけれど…それがなに?」


「親や後見人、雇用主が居ないと18歳以下は関所を通る時に身元を調べられるぞ」


「そう…ありがとう」


「あとその格好はどうだ、そんな上等なドレスを着て女が一人で歩いてたら、どんな店主もカモだと思うぞ」


「街に着いたらすぐ着替えを買うわ」


「金はあるのか、伝手がないと一時期だけ稼いでまた移動するなんて出来ないぞ」


「冒険者ギルドで依頼をこなすわ」


「一人でか?一人だと受けれる依頼なんか数が限られてる、その大半が安い報酬だ」


「なら臨時のパーティーでも組むわ」


「その強さの一端でも見たら、寵児だとバレるぞ、噂は広がり、いずれそこの領主まで届くだろう、そんな超常的な力を持った娘なんかまず貴族が手放さない、旅なんか続けれなくなる」


さぁここからが勝負だ。


「分からないわ、アナタは何が言いt「俺を連れて行け」


「俺を後見人にしろ、そこにある俺が仕入れた服を着ろ、俺の金を使え、俺の知恵を使え」


「…」


「お前が関所を通る時俺がいたらスムーズに入れるぞ!


お前が店で物を買う時、旅慣れた俺がいると安く買えるぞ!


お前が金を稼ぐ時、俺がいれば倍稼げるぞ!


お前がその力を見せたくない時、俺がいたら隠れ蓑に出来るぞ!


そして、一人でどうしようもなくなった時、俺がいたらなんとかなるかもしれない!


これからお前の見る景色俺にも見せろ!!お前の夢を実現させてやる!だから俺を連れて行け!!」


俺の一世一代、渾身の告白だ、小悪党らしく利を見せて不利益は隠す、いかにも俺らしいが、根底にある感情が違う、心底惚れた女に着いていきたい、ただそれだけの単純なものに己の全てを賭けるのは初めてだった。


呆気に取られていた彼女が動き出す。


「……アナタやっぱり大胆で命知らずだけど、とてつもなく阿呆ね…はぁ…、まぁいいわ、実際私には世界を知るのに色々足りない事も分かったから……負けたわ、私を支えなさい、アナタの知恵をかしなさい、そして私の隣にいなさい。」


その言葉を聞いた瞬間、俺は天にも昇る心地だった、この賭けに勝った高揚感は忘れる事はないだろう、彼女がどう思ってるかはまだ分からないが、きっと楽しい旅になるだろう、夢も叶うだろう、そこから見る景色は大層良い物だろう。


「ほら、行くわよ。」

荷物の支度や死体の処理は終わったらしい、未だ興奮冷めぬ俺は急いで彼女の背中を追うのだった。

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