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小悪党、未来の嫁を拾う。  作者: かがみスイッチ
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家族が欲しい。

山を登り始めてから怯えて進んでいたが、特になにも起こらなかった、むしろ本当に追い手が来てるのかという疑問すら湧くほどには山は静かだった、そんな中歩くしか出来ることがない俺は、黙々と歩くうちに少しずつ冷静さを取り戻していった。


(あの品物が偽物である事がバレるのは、時間の問題だっただろう、しかし全部が偽物と見分けるにしては早すぎる。ならば傭兵団の事だろうか…いや、それなら、繋がりが無いならどうやっても露見しないはず)


ああでもない、こうでもないと考えているうちに、日が登り、そして沈み夜になった、俺は夕方ごろに見つけた洞穴に入り丸一日歩いた足を揉見ながら呟いた。


「整理しよう、まずなぜこんな早さでバレたかは分からないから考えないようにしよう、考えすぎると他が疎かになる。

食料については明日までしかないな…この山を抜けるのに4日と聞いた事があるから、一日の量を半分にして凌ぐか…水は湧水に出会えたのがよかった」


「問題は追い手と寒さだな…いくら山で追い手が見えないとはいえ、まだワンカ領内だし警戒を怠る事は出来ないな…

もっと酷いのは寒さだ…歩いてる最中はなんとかなるが、寒さの酷くなる夜に光や煙で見つかりやすくなる焚き火は使えないのが痛い。

そうなると焚き火以外の保温を考えたいが、防寒着は無いしどうする事もできない…しかも食料も少なくなると代謝が下がって体温も下がる一方だろう…

とりあえず明後日にはワンカ領を抜けるから、そこからは焚き火を使えるとして…いやでも……」


疲れ果てていた身体が先に限界を迎え俺は意識を手放した。


目を覚ましたのはまだ暗い深夜と言っても過言ではない時間帯だった、目が覚めた俺は痛いほどの寒さに体が震えはじめた。

「寒いッ…!寒すぎる…ッ」

このまま予定通り夜明けを待っていると、夜明け前に、この洞窟で凍え死になんていう縁起でもない癖に至極現実的な想像が頭をよぎり、予定より数時間早く出発することにした。


ワンカ領から港町への距離は十数キロだと山越えの経験のある旅人に聞いた事がある、その距離だけを聞いて舐めていた当時の俺はもういない、

高低差の有る無し、道の有る無し、でこんなにも難易度が変わるのだと驚いていた。


段々と日が上り始めて、空が濃紺から青へと変わるのが分かる頃、恐れていた雪が降り始めた、吹雪とまでは行かないまでも、軽く積もるくらいはしそうだった。

顔を引き裂くような冷たさの雪に恨みを込めながら踏みしめ歩いていると、段々と自己嫌悪に陥り自分が惨めに思えてくる、心には俯瞰的な自分が居てそこから眺める俺は酷くつまらない小物に思えた。


(もう何年こんな小悪党をしている…自信満々に俺なら夢を叶えると家を飛び出してこの様か)


なぜこんな事を考えているのかも分かっている、それはきっとこんな雪山に一人でいるからだろう。


一人でいると生来の臆病さや陰気さが顔を出して、このような気持ちになるのは偶にある事だった。


(俺が家を飛び出して十数年、このままこの土地、この家で死んでいくのは嫌だと思っていたが、今の俺はそれよりもマシな死に方を出来るだろうか………いや…無理だろうな。

それで生きていくしか無かったとはいえ、悪知恵働かせて、時に人様から金を奪う自分がまともな死に方を出来るとは思えない……

もしも…昔の俺が見たら今の俺をどう思うだろうか…)




仲間が欲しい、心から信頼できて、こんな俺を信頼してくれる仲間が。



家族が欲しい、嫁も子供も孫にも囲まれてベットの上で死ぬ、死ぬならそんな最期がいい。



胸を張れるような生き方をしたい、今の自分ではできないから。



一人は嫌だ、この十数年、この事を考えるのは何度目だろうか。

一人は寂しく、暗く、辛い。




幾度も湧くたびに捻じ伏せてきたこの感情を、死の淵に来てようやく強がらずに認める事ができた気がした。


(もうやめよう、山を降りたら、もうすこしまともな生き方をしよう。

久しぶりに友に顔を見せに行こう、あいつなら少しは気持ちをわかってくれるだろう…

あんだけ嫌いだった親に会いに行ってもいい、今なら違う話ができるだろうから…

嫁さんも探そう、うんと優しく、うんと美人な嫁を探そう)



(だから、歩こう、まだこれからだから。)


思想に耽っていた俺を呼び戻したのは前方から聞こえてきた、ある音だった。

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