宿屋と居酒屋。
夕方になり俺たちは街に着いた、夕日に照らされる街並みを背景に宿屋へ向かった。
「ごめんくださーい、今日泊まりたいんですけど部屋空いてますか?」
「……何部屋だ?」
後ろからするりと出てきたシシィが言う。
「一部屋でいいわ、でもベットは二つね。」
無愛想な宿屋の主人が要望はそれでいいのか?と確認するようにこっちを睨んでくる、俺はその視線に頷きで返して、金を渡した。
「はいよ………二階の階段出て右の部屋、鍵はこれだ、無くすなよ。
飯は今日はもう無いから外で食ってくれ、明日以降は朝と夜は必要なら作ってやる………ああ、あと暖炉は勝手に使っていいが薪代はあんたら持ち、あと12時以降は暖炉を消してくれ、街が決めた火事対策だからな、文句は俺に言うなよ。」
「ありがとうございます、数日の間お世話になります。」
「はいよ。」
俺たちは部屋に向かい荷物を下ろした。
「綺麗な部屋だな、前来たときと同じだ、しっかり掃除が行き届いてる。」
「無愛想過ぎるわ。」
「気に入らんか?」
「いいえ、宿は綺麗だし言う事は無いわ、問題はあの主人よ、あまりに無愛想だわ。」
彼女の言いたい事も分かる、だがここは旅人が毎日来る宿屋で、彼はその宿の店主なのだ。
「ああ、まぁ言いたいことはわかるが…でもなあ…」
「…意外だわ、アナタは店主の肩を持つのね。」
「ああ、この宿についてお前が気付いて無い事があるからな。」
そう伝えると彼女は一瞬瞠目し、その後ベットに座り目を瞑って考え出した。
「考えてていいからとりあえず飯を食いに行こう、腹が減った。」
「…そうね、行きましょう。」
「分からんようだったら、ヒントを聞いてもいいぞ。」
彼女はムッとした表情になると「いらないわ。」とだけ言って先に部屋を出てしまった、それを追いかけ俺も部屋を後にする。
夕食は商人や、この町の職人、若い兵士などの客が集う、安い居酒屋に入った。
「何を食う?」
「ウサギ肉にして頂戴、食べ比べてみたいわ。」
「わかった。
すいませーん!注文お願いしまーす!!」
はいよー!!
威勢のいい返事から程なくして、居酒屋の看板娘が来た。
「お客さん、ご注文は?」
「ウサギ肉を使った料理を二人前、後葡萄酒を二つで。」
「はいよ、肉料理は少し時間がかかるけどいい?」
「大丈夫ですよ、酒だけ先に出してください。」
「お客さん、もしかして飲兵衛?わかった、すぐ持ってくるね。」
看板娘は厨房に戻って、すぐに酒を二杯持ってきた。
「お待ちどー!」
持ってきた彼女にチップを渡すと笑顔で「毎度!」とだけ言って、他のテーブルに向かった。
「分かったわ。」
「おお、そうか思ったよりも、早いな。」
「愛想ってのは客に合わせてるのね。」
「そう、正解だ、ここの娘は愛想をよくしていればチップを貰える、その額も自分の美貌と愛想で決まる、だから必要なんだ、対して宿屋の主人はどうだ、あそこに泊まるのは旅慣れた者ばかり、その者達に必要なのは愛想ではなく、最大限身体を休めれる場所なんだよ。」
「なるほど、だからアナタはあの時店主の肩を持ったのね、キチンと自分の仕事をこなしてるから、納得したわ、私が間違ってた。」
「まあ、とはいえ、ここまで言っておいてなんだが、愛想がいいに越したことはないんだけどな、もしかしたらあの店主もチップを沢山貰えるかもしれん。」
「それは無いわ、あの髭と頭だもの。」
そのはっきりとした物言いに、思わず噴き出した、確かにあの山賊のような髭に光り輝く頭の店主がいくら愛想が良くても自分からはチップを渡せない、金を渡すとしたらそれはもはや脅迫じみた何かを感じた時だろう。
そうこうしていると飯がやって来た、相変わらずの元気と愛想がいい娘を、俺たちは観察してしまっていた。
「来たわね、食べましょう。」
「そうだな、いただきます。」
「いただきます。
……………なんだか、思ってたのと違うわ……本当にウサギ肉かしら…」
「まぁ、普通だな、特別美味いわけでもなく、特別不味いわけでもない、街の飯としては普通だろう。」
「そう…これが普通なのね…アナタが作ったウサギ料理の方が十倍美味しかったわ、はあ……街の食事も楽しみにしていたのに…」
「まあ、まだ分からんさ、街の飯屋はここだけじゃ無いんだ、それにまだウサギ肉しか食べてない、きっと美味い料理も見つかる。」
そう声をかけたが彼女のテンションは低かった、料理の味を、そして期待が外れた寂しさを誤魔化すように彼女の酒のペースが上がっていた。
頼む前に聞かなかった俺も悪いのだが彼女は酒を飲むのが今日が初めてだったらしい………そう言うことは先に言ってくれ………
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