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07.忘却の勇者①


──── 忘却の勇者 ────




何時かは誰も皆、忘却に消えていく。

だから俺は日記をつけることにした。

できるだけメモを取ることにした。


─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─



[勇者の勝手口]

自身の功績に対する称賛と名誉を他者から忘却する事で、

多量の経験値を得る。


勇者の勝手口を発動しますか?


【はい/いいえ】



─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


【はい】


記憶が深い霧の向こうに消えていった。


奇妙な壺から吐き出す煙が晴れると、

目の前の男は、怪訝な顔でこちらを見ている。


「誰だ、あんた?」

「シゲという勇者だ」

「そうか。その勇者がこんなところで何をしてる」

「たった今、アンタの命を助けて町に着いた」

「かわいそうに。イカれてるのか」

「…そうか。そうかもしれない」


男は不審そうな目でこちらを見ている。


「勇者様にはよくあることだな」


こちらの反応がないのに飽きたのか、

そう言って男は市街へ消えていった。。


俺は、いつものように何もなかった護衛依頼をギルドに報告した。

不審に思われようが、依頼人は無事。実際に被害はない。


こうした依頼の金については、何度か依頼人やギルドとモメたこともある。

俺はいつも魔物と出会わない、幸運な男だと思われていた。


イカれている。

そうだ。俺はどうかしている。


転生前からそうだった。俺は自分の名前すら覚えてない。

何かの病気だったことは覚えている。俺を心配してくれた人がいることを覚えている。

それを忘れないように、何度も書き留めて、箪笥の中にしまったことも覚えている。


「俺はイカれてる。それは覚えている」


気づくと、右手が小さく震えていた。

昔、記憶を失くさないように、ポケットで何かを強く握った。

誰かの指だったのか、何かの形見だったのか、全く思い出せない。


大事に箪笥の中に詰めた写真。母だったか、父だったか。幼馴染だったか。

写真の存在自体は覚えている。何度も見返してその度に、ああこの人だと思った記憶もある。

忘れたくないと泣いたことも覚えている。だが、棚の底は抜けていた。


恐らく俺は何かの病気だったんだろう。

そしてそれは生涯治らなかった。何かを忘れて死んだはずだ。

屋上の柵が開いてたのかもしれない。ストーブをつけて忘れたのかもしれない。


俺の人生には大切な何かがあった。

今も胸を焦がしているが、それすら何か曖昧だ。


転生してから、ようやく記憶に重い錨がついたようだ。

周りの人が俺のことを知って、覚えていてくれる。そして俺もそれを忘れない。


俺は喜ぶのではなく、恐怖した。

普通の人が、普通に送る日常がこんなに怖いとは思わなかった。

だから、俺はできるだけ自分の名前を広めようと思った。


もし、今度俺が忘れても、聞けば誰もが俺の事を教えてくれるように。


俺はいつもこの縛りを使う時間が嫌で仕方ない。


サカイだったら気にしないのかもしれない。

アイツは、他人なんて関係ないと言い切る本物の英雄だ。


この耐えられない苦痛の代わりに、俺の経験値は300上昇した。


─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─



名前:重松 尚重

職業:勇者

レベル:1(500→800/12000)



─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─











「それは健忘症の一種だ」

「健忘症?」

「俺の友人も頭に一発貰ってから成った。

 死ぬような病気じゃない。だが、治らないのは確かだ」

「そうか」

「ああ。その時、何かがあった感情は覚えてる。だがそれ以外は忘れる」


それは冒険者ギルドの依頼で、中原の森と南の小国家群を繋ぐ都市を訪れた時のことだ。


あの、初日にあっさりと城を立ち去ったケンジさんという勇者は、

定期的に俺の元を訪れて、有用な情報を与えてくれる。


初めは驚いたが、彼は亡んだ王都の衛兵組やギルド間とは違った情報網を持っているようだ。

聞けば、他の勇者にも定期的に接触しているようだ。

当然こちらからもできる限り協力して魔物への共同戦線を張っている。


彼は堂々とした迫力を身にまとっている。

この汚い地下の賭場だろうが、構わずに先の席にいた人間を蹴り出した。


ケンジさんは左右に分けた前髪の間から、鋭い眼光を覗かせた。

俺はこの人の隙を未だに見た事がない。


「これは若いヤツ特有の病気だ。まず間違いない」

「ケンジさん、何故そう言い切れる」

「俺は最期の方は認知症だったからな。お前とは近い症状だった」

「何かがあったんだ。きっかけは。事故だったのか、元からなのか…」

「だろうな」


俺は尋ねた。


「認知症とはどんな違いがあるんだ?」

「知らねえよ。医者に聞け」


ケンジさんは不機嫌そうな顔をした。

そして木のコップに入った酒を飲み干した。


「健忘症は何を食ったのか忘れる。認知症は飯を食ったこと自体を忘れるんだ」

「そうか、すまん」

「いいか坊主。もう治ったんなら、病気のことは忘れろ。他に覚えることは腐るほどある」

「…ああ。そうだな」

「戦争で名前を残すなんてろくでなしだ。うまく殺せば、勲章がもらえる。

 もっと殺して、勲章を渡す側になりたいのか?」

「俺は世間に名を残したいんだ」

「…そうかよ。まあせいぜい勝手にしろ」

「生きた証が欲しい。おかしいことか?」


ただ、くだらないと呟いて、ケンジさんは酒を呷った。


周囲には管を巻いた猥雑な男たちがたむろしている。

ここでは武器を腰から吊ってない方が悪い。

こんな場所では名を上げたいなんてありふれた会話だ。

俺たちはいつも吐き溜めで飲んでいた。


「だが、やらないと分からないだろう。お前はクソ真面目だからな」

「そうらしいな」

「勘違いするな。今のは皮肉だ。馬鹿って意味だ」

「ああ。俺は完全にイカれている」


俺には全く反意がない。


「だから俺が鍛えてやる。剣の振り方から、殺したいやつを殺すには、

 どんな道を通ればいいのかまで全部だ。まともにしてやる」


ケンジさんはタバコに火をつけて、煙を上へ吐き出した。


「これは契約だ。その代わり魔王を1体必ず殺せ」

「請け合おう」


俺にとって願ってもない話だ。

必ず誰もが忘れられない功績を積んで、勇者の重松尚重、シゲの名をこの世界に広める。


たぶん、俺は誰かと約束したんだ。

あの握ってくれた手を俺は忘れない。夏の草原で、確かと一緒に歩いたはずだ。


───「もし君が忘れても、誰でも知ってるくらい有名になっちゃえばいいんだよ!」───


そして、花のような笑顔と温かい気持ちを俺はもらった。

はたして正確にそんな言葉だったかは、もはや分からない。

だが、誰かとの大切な約束だったはずだ。記憶にはなくても、心は覚えている。


何も持たず、裸のままで死んでいくとしても、

その声は耳の奥でかすかに聞こえ続けるだろう。


貴方がくれたぬくもりを、俺は生涯忘れない。

こんな遠くまで来ても、はっきりと覚えている。















そして俺にとって決して忘れられない日々が過ぎ去った。

前世を通しても最もつらく、苦しく、報われない日々だ。


まず俺は良心というものを失った。

それが存在しない世界では、全ての人間が、

自分の利益のためなら、簡単に人を殺せることを知った。


そして、そこでは用心深さと狡猾さが良心の代わりだった。


ケンジさんにとって俺は、まさしく足手まといだった。

綺麗なことから汚いことまであったが、大半は唾を吐きかけたくなることだった。


人間としての心を取り戻せたのは、

いくらか実力がついて、彼の片腕分くらいの働きができるようになるころだった。


その頃になると、初日から2週間の俺はまともじゃなかったと自分でもよくわかる。

人の理性は最初から備わってるものじゃない。自力で勝ち取るものだ。



「実際、俺のしごきに耐えられるやつは珍しい」

「そうか。ひどいものだった」

「三日で逃げ出すと思ってたよ。そうなりゃそれでもよかった」


俺とケンジさんはいつかの吐き溜のような酒場で飲んでいた。


俺がこのあと真っ先にするのは、ケンジさんと共闘した数か月の記憶を、彼から全て奪う事だ。

日々の後半では、南の小国家群に近いいくつかの都市を救い、魔物の軍勢をかなりの数、二人で攻め滅ぼした。


何体かの知性ある悪魔との戦い。危険な迷宮でのアイテムの確保。

戦いに必要なことはすべて実践で習得した。


彼は異世界や勇者などろくに知らないくせに、驚異的に適応していた。


「苦痛だとか抜かすなよ。とっとと功績を経験値に回せ」

「かまわないのか。ケンジさんは俺のことを殆ど忘れることになる。

 ただ、戦闘以外の記憶が残るだけだ。逆に俺は全てを記憶している」


ケンジさんは不遜な態度で言った。


「お前なんて初見でも殺せる。必要があれば再度俺に接触しろ」


そして、タバコの火をテーブルに押し付ける。


「加えて定期的に、お前からの情報を手紙で寄越せ。場所はいつもの所だ。

 俺からは絶対に他人が知らない暗号を教えてある。それがあれば、俺は記憶がなくても手紙を信じる」


俺は頷いた。


「仕方ない。そうしよう」

「甘えるなよ。俺はお前みたいな坊主と飲んだことは忘れたい」


彼は鬱陶しそうに吐き捨てた。

俺の縛りでは、食事時など、功績に関係ない日常の記憶は消えない。

それは理解しているのだろう、心底嫌そうな顔をしている。


「他にも、疑った俺に殺されそうになったら暗号を叫べ」

「分かった」

「じゃあ、やれ」


俺はテーブルに白い煙を放つ壺を呼び出した。

ケンジさんは、ふと、こちらを見下ろしながら言った。


「坊主。覚えておけ。殺し合いだけが人生じゃない」

「だが、俺には必要なことだ」

「まあ聞け。俺の訓練に耐えたヤツへのご褒美だ」


それは彼にしては珍しく、罵声ではなく、言い聞かせるような口調だった。


「俺も戦いが全てだと思ってた。だが急に全てが嫌になる時は来る」

「驚いたな。ケンジさんでもか?」

「俺でもだ。そういう時は家庭を持って田舎へ越せ。退屈になったらまたやればいい」


2本目のタバコの煙が棚引いていく。

ほんのしばらく俺たちは無言だった。


「俺はもうそれを知っている」


意外そうな顔をされた。

しかし自分でも驚くほど断言した。


「そうではないと教えてくれた女性がいたからな」

「もう女がいるのか」


俺は初めてこの人にかすかな苛立ちを覚えていた。


彼女は勇者ではなくただの女性だった。彼女の世界は平凡で、いつも必死だった。

その姿に俺は救いをもらった。

確かに、俺の人生とは相いれないだろう。

有名になるために戦う俺の気持ちは分からないだろう。

だが、そうでなくとも、幸せになる道は複数ある。それが人生だった。


それを教えてくれた。


「いや、そうではない。そういう関係ではないが…。彼女も勇者だが、ケンジさんとの接触は許可できない」

「だったらその女とはよく話しておけ。お前ならできる。俺は喧嘩にしかならない」


彼はおとなしく引き下がってくれた。

俺は気になったことを聞いてみた。


「先ほどケンジさんは言ったな。戦いが嫌になったと」

「そうだ。妻子と孫をもって病院で死んだ」

「ではなぜ今も戦ってるんだ?」


ニヤッと笑った。


「戦争が好きなんだよ」


なるほど。確かに人種が違う。これはメルとは喧嘩にしかならない。

俺は無言で【はい】を選択した。


白い煙が彼を包み込んだ。

煙が晴れると、普段通り不機嫌な顔をした彼がいた。


煙を使うのは誰かひとりでいい。

その効果は功績に関わった関係者全員に及ぶ。

これで彼との日々で関わった全ての人から俺の活躍の記憶が消えた。


俺は席を立った。


「おい坊主。おいシゲ。お前、俺と今飲んでいたのか?」

「だったらどうする。ケンジさんとは飲み仲間だろう?」

「…気になっただけさ。俺にしては珍しいこともあるもんだと思っただけだ」

「何の話だ」

「どうやら俺はお前のことが嫌いじゃないらしい。そう感じる」


彼は一度だけ振り返った俺に声かけた。


「お前の目標がなんだかは知らないが、とにかく、頑張ってみることだ」

「ああ、そうしよう」


地上への階段を上り、俺は南の小国家群へと帰っていった。














「ねえ、見なさい!これ私が必死に考え……こほん。

 実は新しい魔法を覚えたのよ。貴方の品評を聞きたいわ!」


メルは自分のスカートを抑えながら、

山際の見上げるような岸壁に対し90度の垂直に立っていた。

彼女の艶やかな黒髪だけが地面に向かって流れ落ちている。


「それが新しい魔法か」

「ええ!」


あれからまたしばらくの時間が経った。


単独でいくつもの国家間の依頼を受け持ち、魔物を殲滅しては人々に忘れさせる日々が続いた。

今回の依頼は、メルが滞在している拠点の町に飛来する毒物を放つ魔物への対処だ。


規模は多少大きいが、これまで渡り歩いた戦場に比べて格別に厳しい状況ではない。

過去に最大で町をひとつ巻き込んだ防衛戦の指揮を執るはめになったこともある。


冒険者30名程度の依頼であれば、十分に小規模と言えた。

証拠を用意し、十分な報酬を使えば、冒険者ギルドは動かせる。


今回の依頼者は俺だ。

もっとも、その功績も事が終わればすべて忘却される。


いや、今は考え事よりこちらを優先しよう。

先ほどからメルは俺の回答を心待ちにしているようだ。


彼女は水属性の魔法を選んだ。

そして知る限りレベルを上がっていない。

その範囲で、壁に張り付けるような魔法は多くない。


「氷魔法で張り付いてるのか?」

「…」


俺の言葉に彼女の目が死んだ。

違うのか?


氷による攻撃と防御は水属性の範囲だ。


「そうよ」

「そうか」

「…正解よ」


彼女は片足を崖から引きはがした。

パキンと音がして、氷の破片が辺りに散った。


「走破性をあげる狙いか」

「…そうよ。よかったわね。大正解よ」


言葉と裏腹に彼女の声は全く喜んでいない。

そして岸壁と直角で何歩か歩いた。


なぜつまらない顔をするのか。

やはり人の気持ちは難しい。まして女性となれば理解の外だ。


しかし理解する努力をやめてはいけない。


俺は原因を考えた。

そうか。彼女が求めているのは品評だったな。

正当な評価が欲しかったのか。


「メルの足の速さを生かす良い選択だ」

「…あっそう。まあそういうことよ。もうどうでもいいけど」

「しかし、仕組みはわかったが、何の魔法を使ったか分からん」

「…!そ、そう!しょうがないわね。知りたいの?」

「頼む」

「じゃあ教えてあげるわよ。しょうがないわね」


彼女の顔に表情が戻ってきた。

やはり品評はきちんと口にすべきだな。

彼女は機嫌がよくなったようだ。


彼女の見識は広いとは言い難いがこちらとは種類が違う。

ぜひ聞いておきたい。


「正解はアイスピラー、氷柱の魔法よ」

「たしか、地面から氷の槍を出して攻撃する魔法だな」

「さすがにシゲは知ってるのね。それを反転させて足の裏から出してるの。

 出す規模がすごく小さいから魔法の容量も節約できたわ」


彼女はそう言って嬉しそうに笑った。

まるでそこだけ花が咲いたようだ。


興味深い。

エレメンタル系のピラーは全ての属性にあるが、すべて攻撃や罠の魔法だ。

アイスピラーを魔物への攻撃として認識していたらできなかった発想だ。


いわば、氷のスパイク、という訳だ。


「これなら靴代も…」

「節約のための魔法なのか…」

「よく分かっ…違った!違うわよ!…いえ、もういいわ。そうよ。走るとすぐダメになるから」

「おかしいことではないぞ」


彼女は金銭への執着を悟られるのを嫌う。

だが、何も恥じることはない。不思議な人だ。


「よっ、ほっ、わっ。どう? まだ練習中だけど、見直した?」


そう言ったメルは周囲の高い木々を軽快に移動した。

通ったあとの幹には氷の破片が張り付いている。


「見事なものだ。それに誤解してるようだが、俺は最初からメルを尊敬している」

「!そ、そうなのね! …あっ、そうだ、今は数秒だけど、天井だって走れるのよ」


彼女は木から伸びた枝に蝙蝠のようにぶらさがった。

彼女が嬉しそうに笑った。理由は分からないがずいぶん楽しそうだ。


そして不幸なことに、彼女はその長いスカートから手を放してしまった。

長い布が腹のあたりまで落ちて、メルの顔にバサっとかかった。


「…あっ」


メルは小さく呟いた。


俺はとっさに顔を背けた。

静かな着地音を聞いて視線を戻すと、

スカートをおさえた彼女はこちらに背を向けている。


「…メル、俺は何も見ていない」

「…。じゃあ私は周囲の警戒に戻るわ」


彼女は顔も見せずに去っていった。

俺は無言でそれを見送った。彼女の背中が小さくなって消えていく。



メルにとっては幸運なことがあるとすれば、

俺が縛りを使えば、この出来事も、忘れられる可能性がある事だ。


経験上、依頼中の出来事の大半は功績と判定されるため、

この旅路の大半を彼女は覚えていられないだろう。


「仕方ない事だ。この苦痛も強さのためだ」


普段、彼女を討伐依頼から遠ざけるのは純粋に彼女の身を案じてのことではない。

功績が絡むような依頼でなければ、彼女の記憶は失わせずに済むというエゴだ。


「まだ立ち上がれる。俺は進めるはずだ」


しかし、縛りの判定によっては、彼女と俺のこれまでの日々のうち、いくつかが忘却される。

気づけば俺は膝をついて息を乱していた。

最近、誰かから忘れられるたびに、ひどく胸が苦しむ。


メルに縛りを使うことになるのは初めてだ。だから感傷的になっているだけだ。

今は、あの大切な誰かとの約束を守るだけだ。


「まだ進めるはずだ」


車列の出発に送られるわけにはいかない。

無理やり立ち上がって足をひきずる。


メルの成長を見るのは喜ばしい。

忙しい中でも、彼女のために時間を作ったかいがあった。


彼女には、通り一遍以上の友情を与えられているはずだ。

だから、どうか俺を忘れないでほしい。







5台の馬車が狭い山道を進む。後方の1台は魔物に絡まれていたが、無事に切り抜けたようだ。

もちろん俺が先頭を走る馬車にも魔物は寄ってきていたが、それは中位の冒険者に任せることにした。

彼らの強さは縛りの緩い勇者と同等とは行かないが、近いものがある。


この辺りの魔物を今更狩るのは効率的でない。

それよりもストックを貯めることだ。

不審がられたが、俺は雇用主なので文句は出ない。


俺はシャムシールを構えると、勢いよく振り抜いた。

高速の曲刀が空気を切り裂く。


そしてその斬撃は消滅した。

俺が腕を振ったという事実が貯蓄される。

腕は振る前の位置に戻っている。


─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─



[在庫整理剣]

自分が繰り出す斬撃を保留できる。

保留した際の疲労と共に斬撃を開放する。


斬撃貯蓄数 15073発 / ∞発



─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


15073発。それが俺の斬撃を溜めた数だ。

貯蓄の数に限度はないので、できるだけ溜めるようにしている。


俺は試しに一発だけ斬撃を解放した。


直立不動の俺の目の前で、不可視の斬撃が木の枝を切り裂いた。

次は、シャムシールを左から右に斬りはらう。

すかさず新たな斬撃を解放した。

実際の斬撃とスキルから放たれた斬撃が同時に木の幹を真っ二つに切り裂いた。


「今日の調子は普通か」


たった二発の解放ではいくらも疲れない。

強敵であれば一回の戦闘で150発は使う。

俺の戦闘の要のステータスは体力だ。


いくらもしない内に鈴蘭畑に到着した。





キャンプ地となった場所には大きな植物の魔物がいた。

高原の風通りの良い場所、一番の風上だ。

ここで根を張って、辺り一帯を支配するつもりのようだ。


高さ3メートルほどの巨大な花が、蔦をうねらせて冒険者たちに打ち掛かっていた。


「ピキュ…ギィィ…!」


大きな花を開いてこちらを威嚇している。

何名かの冒険者たちは魔法を使えるようで、

火属性の魔法を使って花に嫌がらせをしていた。


「強いぞこいつ…!気をつけろ、酒をもってこい!ぶっかけて燃やすぞ!」

「ダメだ、切っても再生する!根っこから潰せ!」


俺は10名ほどの冒険者の間を素通りした。


「おい、何もしてない兄ちゃん!あんたは下がってろ!」

「時間をかけるな。俺が処理する」


花の魔物の蔦がこちらに向かって疾走する。

シャムシールを振った。


「ピキュァァッ!」


ぼとりと蔦が地面に落ちた。


─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─



斬撃貯蓄数 15071発 / ∞発



─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


余裕は十分ある。

斬撃の在庫をひとつずつ出してくれ、などといった制限はない。


同時に斬撃を3発分、解放した。


俺の全力の斬撃と全く同じ攻撃が、左右と上から魔物に襲いかかる。

風を裂く鋭い音が多重に鳴った。


「ピキュ…ィ…、イギギァ…」


魔物はすでに全体を裂かれ、力を失い始めている。

さらに続けて解放した4発目が大きな花弁を刈り取った。


そのまま右手のシャムシールで粉々になるまで切り裂き続ける。

魔物はバラバラになって地面に崩れ落ちた。


「つええ…。なんだこりゃ…」

「あんた、ストック剣って、トバしで言ってるわけじゃなかったんだな…。

 わるかった。勘弁してくれ」


俺は何度目かのやり取りを繰り返す。


「ああ、問題ない。俺はストック剣の使い手シゲだ。その気持ちは覚えておいてくれ」


こうして実力をみせるのも、これから始まる集団行動には必要なことだ。

実力を認めさせなければ話にもならない、まして従わせたければ確実に上だと思わせることだ。




「ではまずシゲさんから頼む」

「勇者シゲだ。今回の件の直接の依頼者だ。報酬は俺から出る。働きに期待する」


俺はキャンプに張った天幕の中で、ギルドの職員と、主だった冒険者パーティのリーダーと顔を合わせていた。

皆が一様に不思議な顔をしていたが、俺の先ほどの実力を聞くと素直に納得した。


「俺は近辺の魔王の異界を偵察する」


俺は天幕内の地図を敷いたテーブルの前で言った。


「今は昼だから異界の拡張は起こらないが、魔王に気取られないよう慎重に行動する。

 日が暮れるまでに報告に戻る。以上だ」


俺の言葉を聞いて、この町の冒険者ギルドの実質的な代表の男が話を引き継いだ。

屈強で、無駄口を叩かないタイプの大男だった。


「聞いたなお前ら。

 依頼者であるシゲさんの報告如何によって、ここにそのまま泊まって採取作業を続けるか、

 異界から距離をとって夜間は山間部に引き上げ、明朝に改めてここに戻って作業をするか決める。

 当然その場合は採取できる鈴蘭が減るが、どの道、作業は突貫だ。異論があるものはいるか?」


その言葉に、集まった皆は沈黙で肯定を返した。

予定は馬車を連れた道中で再三決めたことの再確認だ。


最善は鈴蘭畑と魔物殲滅。しかしこの規模では難しい。

魔王の異界が近くにあることが事態を複雑にしていた。


日数はかけられない。

あちら側を刺激するようなことをして異界が広がれば、国として状況はより悪化する。

ましてや魔王の異界に飲み込まれれば、それは死を意味していた。


次善案だ。少人数で鈴蘭を採取してポーションにし、それで町を救う。


今はちょうど、メルがこの丘の調査を行なっているはずだ。

魔王の異界調査から帰ってくる頃には、ある程度解決の目星がつくかもしれない。




俺は細かい調整や伝達事項の始まったテントの中で出発の準備をしていた。


これから今出発というそんな時だ。

見慣れた顔が天幕のカーテンをめくって入って来た。


おもわず、俺は安堵しそうになる自分を立て直した。


メルだ。

こんな場所に似合わない彼女は、しかし、顔は真剣そのもので、

この事態に対してきちんと向き合おうとしているようだった。



「こいつよ!丘陵の中心の魔力が集まる場所にいたわ。

 一帯から鈴蘭の毒が風に乗って街へ飛んでいくのを見たの」


メルはテーブルの上に、小さく怯えたように動く鈴蘭の魔物を置いた。


「青い魔力の粒まで見えたから、間違いないわ」


そして男たちの迫力に負けない様子で状況を説明した。


俺は驚いた。

こんなに早く原因を見つけることができたのか。


彼女は土で汚れた両手を払った。

会議を続ける横で、チラリとこちらを見て口元をあげていた。


表情はこう言っていた。


(「どう?薬草採取の勇者の力は?」)


俺も自然と口元があがる。

無論、その様子を見て彼女は満足そうに微笑んだ。


しかし、このやり取りだって彼女は忘れてしまうのだと思うと、また胸が痛んだ。

だが、今は考えるべき時じゃない。



メルは俺を鈴蘭の採取に誘ってくれた。

それを断って、なぜか態度が冷たい彼女を置いてテントを後にする。


「なんだ…。なにが原因なんだ…。

 相変わらずメルの怒りのツボはどこにあるのか分からない…」


俺はぶつぶつと言いながら移動を開始した。





そうして俺は小半刻も移動して、

ひときわ高い丘のうえにある岩場の一帯にたどり着いた。


いくらも苦労せずに岩場をするすると登っていく。

岩場の半分あたりに来たところでいくつかの丘の後ろに魔王の異界が見えた。


「あれだな。なかなかの規模だ」


黒い領域が広がっている。


「天候があるタイプか」


丘陵はある地点を境に夜が広がっていた。

そのさらに向こうでは大陸が終わり、水平線が広がっていた。


「まずは大きさを把握しないと始まらないな」


俺は岩場を駆け下りて、異界と並行に移動した。

何度も出現する植物の魔物を処理しつつ、別の高原にぽつんと生えた杉の木に登った。

ここの魔物は、ギルドの一人前なら対処に苦労しない強さだ。


海までの距離は分かっている。

高度が同じなら、簡単な道具と地図さえあれば、三角測量で正確な位置情報が割り出せる。

俺は腰袋から分度器と水平器を取り出した。


どうやらこの魔王の異界は、海岸線に沿って南北にへばりつくように存在した。

南北に18km、東西に8kmほどの大きさだ。

こちらの世界の距離に換算して地図に書き込んでいく。






作業を続けながら、

俺は異界の性質についてケンジさんから聞いたことを思い出していた。

俺たちはしばしばこの世界のルールについて議論した。


「いいか坊主、つまりこの戦争ってのは、人類と魔物の陣取りゲームだ」


古く雑多な酒場の一角。

俺たちは大きくスペースを取って、汚いテーブルの上に荷物を好きに置いていた。

文句を言った他の客は床に転がっている。


「陣取りゲーム?」

「ああ」


ケンジさんは大陸の地図の上に真っ黒なコーヒーをこぼした。

地図に描かれた土地が茶色く変色した。


「これが異界だ」


ケンジさんは続けて言った。


「ここに入ったら二度と出られない。終わりだ」


大陸の各地をジワジワと染みが侵食していく。

綺麗な場所を汚して染みこんでいった。


「一度完全に異界化すると、向こう30年は人が住めない土地になる。

 魔王が死ぬか、よしんばその土地から撤退させたとしても、

 食料地帯でこれをやられると目も当てられない」


俺は広がり続ける染みを服の袖で拭いとった。

豊かな平原地帯が茶色く染まっている。


染みの侵食自体は終わったが、地図の色は落ちないままだ。

あきらめて、他の広がり続ける染みの前に、指をおいて、変色の流れを止めた。


「そうだ。留めておくしかできない」


ケンジさんは満足そうに言った。


「人間の側は魔王と異界化を拒む障壁の魔法を必死に張る。

 そして少しずつ周辺の魔物を駆除し、障壁の範囲を広げていく。

 陣取りゲームの意味がわかったか?」


俺は考え、納得し、無言で頷いた。

ケンジさんは酒を煽っている。


「完全な異界化にはどれくらいかかる?」

「約2年だ。魔王が同じ場所に留まると、昼夜が関係なしの完全な奴らの土地になる」


彼は再度、酒で舌を湿らせた。


「そこからさらに異界を広げるか、別に移動してまた仕事を始めるかはそいつ次第だな」


ケンジさんは零したコーヒーから、一滴を指先で掬った。

そしてそれをまだ大陸の綺麗な一点に落とした。そこからまた染みが広がっていく。


「将棋で言えば、魔物は歩で、魔王ってのは飛車と角だな。

 突然やってきて、こちら側に大きく食い込む。最初の王都じゃこれをやられたわけだ」


つまり、こうして魔王の進撃と、人類の反撃を繰り返し、

お互いの領地を広げていくのがこの戦いの肝になるわけか。


俺は納得して言った。


「唯一の救いは、異界は夜しか広がらず、魔王が来れば魔力の拡散ですぐにわかる点か」

「昼は人間。夜は魔物の時間ってことさ。それに、魔王は馬鹿みてえな魔力を隠す気がないからな」


俺は深くため息を吐いた。

魔王たちは強すぎる。そしてその異界も厄介極まりない。

転生最初の広間で、チートだなんだと騒いでいた俺やサカイなど、実に的外れだった。


ここ最近では人類はかなり押されている。

順当に行けば、あと200年ほどで人類の居場所はなくなるようだ。


「だがこちら側にも桂馬はある」

「それはなんだ?」

「わかるだろ坊主」


不意にケンジさんはニヤリと笑みを深めた。


「俺たち勇者だよ」







「異界調査は初めてじゃない。やり方は心得ている。問題ない、いつも通りだ」


俺は自分に言い聞かせ、手順通りに異界に近づいた。

魔力を感じ取り、その魔王がなんとなく闇属性だと直感した。

魔王は5つの魔法属性のどれかに属しており、それを探ることが異界の性質解明の大きな一歩になる。

まるでいつ事故が起きるか分からない工場で、機械を修理するような繊細な作業だった。


1kmほどまで近づくと、かなり詳細に境界線を観察できた。

俺は体力のステータスをあげているので、かなり目がいい。


異界の中には1体の魔物が確認できた。

大きな植物のような魔物で、鈴なりになった花の内側には、

赤黒い目玉のようなものがついている。


「ピキュイ…?」


夜の闇をあびて、そいつはやることもなさそうにただ佇んでいる。

ときどき退屈に負けたのか、体をうねらせていた。


観察を続けると、やはり中の魔物は闇属性だと確信できた。

いまのところこの異界には、昼夜逆転以外の特徴は見られない。


「キュイキュイ。キキキ…。…。…ピキ?」


そのうち、その魔物はこちらの視線に気がついた。

ふと、その植物はそんな見た目のくせに、笑ったと感じた。




「目を合わせたか。あの魔物は見たことがない。できれば一匹くらい持ち帰りたいが…」


おもわず息が詰まった。

急に背中に悪寒が走る。


「これは、馬鹿な…。いったい何が起き…」


地平線の彼方でうごめく魔力が爆発した。

そこからは息を飲む暇もなかった。


世界が一斉に塗り替わり始める。

地平線の彼方から膨大な魔力が全世界を侵食していく。


一瞬にして背後まで悍ましい魔力が駆け抜けた。


馬鹿な…。

いきなり何故…。


一気に殺到した魔力が遥か後方で壁に衝突したように止まった。

その部分で食い込むように、ガキンと、巨大な歯車が正常な世界に食い込んだ。


足元から世界が塗り変わっていく。

振り返ると、鈴蘭畑はすべて紫に、地面は黒色に、青空はわずか数秒で真っ黒に塗り変わった。


巨人が踊りうねって丸い顔を空に固定する。それが月になった。

黒い空にいくつもの画鋲が突き刺さる。バチンバチンと音が鳴り響き、何千という星が生まれた。


天井から吊り下げられた扇風機のような花束が、丘陵に穏やかな風を送り出し始める。


後から見れば綺麗な夜空かもしれない。

しかし形成される瞬間をみればはっきりとわかる。


これは断じて、星の輝く夜空などではない。

これは魔王が描いた異界だ。


「なぜ今…。動きはなかったはずだ…。それも真昼に」


疑問に思う暇はない。


「これは…」


俺は目を疑った。


「ピキ…?」

「ギュイ、チチ」

「ィァチュキキキ…」

「ピキュイ!キュイ!」


悍ましい数の鈴蘭の魔物が目を覚まして、立ち上がり始める。丘陵一帯すべてだ。

もはや地面は安全ではない。丘陵はヘドロのように柔らかく揺蕩っている。


そして魔物は一斉にこちらを見た。

天辺の花弁から赤黒い瞳がのぞく。まるで赤い海だ。


おびただしい鈴蘭の花が空中に打ち上がった。

視界の限り、黒い鈴なりの玉が破裂して黒い煤を弾き飛ばした。


いったい何億個の鈴蘭の花か。

三百六十度すべてだ。逃げ場はない。


俺は白い煙の壺を呼び出す。

逡巡する猶予はない。一切を出しきらねば死ぬ。



─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


名前:重松 尚重

職業:勇者

レベル:4(32870/96000)

攻撃:2 防御:0 速度:1

体力:3 魔力:1


[勇者の勝手口]

自身の功績に対する称賛と名誉を他者から忘却する事で、

多量の経験値を得る。


・勇者スキル

[在庫整理剣]

自分が繰り出す斬撃を保留できる。

保留した際の疲労と共に斬撃を開放する。


斬撃貯蓄数 15020発 / ∞発


[信心の残高不足]

貴方の周囲では任意の属性の魔法を無効化される。


[臍金による再誕]

このスキルは貴方が死亡した際に発動するか確認される。

周囲の貴方に関する全ての記憶と引き換えに、

貴方はその場で蘇生される。


─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


「ッ!!くっ…うおおおおお!」


俺は30発の斬撃を全方位に投げ放った。

破裂音と炸裂音が鳴り響く。花は砕けたが、黒い煤が爆散する。


「…ちっ、相性が悪い」


毒の幕が粘っこく視界を塞ぐ。

大きく一息いれた。


俺は強く地面を蹴って走り出した。

頭上に向けて秒間10発で全力の斬撃を放ち続ける。


それは空気の流れを作り、打ち上がり続ける黒い鈴蘭の爆弾を吸い上げた。


本領を発揮した鈴蘭の丘がうねりをあげた。

目の前の黒い丘陵に裂けるような悲鳴が響く。


「ピギィィエェエエ…!!」


ビルほどもある巨大な鈴蘭の魔物が地面を裂いて立ち上がる。

もはや悲鳴それ自体が振動を起こした。


車も飲み込みそうな大きさの黒い花弁の中心に赤い魔力が収束する。


シャムシールは構えない。

真横に5発。縦に5発。爆音が前方をなぎ払った。


「ピキュッ…ギ…!」


賽の目状の斬撃が巨大な鈴蘭の花の魔物の茎を細切れにした。

悲鳴すら飲み込んで巨体が吹き飛ぶ。


「合流優先。キャンプに戻り、異界を突破」


十文字の斬撃を2メートル感覚で繋げるように地面に投げ放ち続ける。

攻撃力2の斬撃が深々と地面を抉り出す。

爆音と共に、発芽前の鈴蘭の根がまとめて地表にちぎれ飛んだ。


「だが標的が俺ならこのまま囮になって引き剥がす」


さすがに200発の一斉解放は息が乱れる。


「まともに相手はできん」


頭上への斬撃を止める。

違う勇者スキルを発動した。


俺の周囲の空間は冷たく冷え込んだ。

いや、そう錯覚しただけだ。魔物にとってはまさしくそうだろうが。


勇者スキルは人でも魔物の魔法でも止まらないこの世界唯一の力だ。


神への不信が俺の周囲を満たした。

人の意思だけが俺の心の戸棚を開く。


─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


[信心の残高不足]

貴方の周囲では任意の属性の魔法が無効化される。


【闇属性に設定します】

設定変更可能時間まで 残り180秒


─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


だいたいの魔物にはこれをやっておけば効く。


周囲の何万という鈴蘭の爆弾が一斉に悲鳴をあげて消え去った。

今度は爆散せず、ゆっくりと小さくなって消滅していく。


俺は高い丘と岩場地帯に登って息を整えた。

ひとまずの窮地は脱した。あの鈴蘭畑は移動できない。


「現時点では、状況確認が優先だな…」


すぐにでもキャンプに戻ろう。

この広さならキャンプの場所も異界に飲まれているはずだ。


俺の鼓動は早まっていた。

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