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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第8章 相対の夜、別離の朝

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第7話 本領発揮?

 笑いが治まらない私を、しばらく無言のまま抱き締めていた王子は、


「笑われついでに白状するが、私にはもうひとつ……カイルに、強く嫉妬していることがある」


 唐突に、そんなことを言い出した。

 顔は見えないから、彼が今、どんな気持ちでいるか、ハッキリとはわからないけど……。声から受ける印象では、まだ少し、拗ねているようだった。


 ようやく気持ちを落ち着かせ、笑いがぶり返しそうなのを必死に堪えつつ、私は彼を見上げて訊ねる。


「もうひとつって?……え、と……嫉妬してるって、何に対して……ですか?」

「…………」


 王子は押し黙ったまま、なかなか話し出そうとしない。


「王子……?」


 先を促そうかと思った瞬間。王子はハァ、とため息をついた。

 私の背中から両手を放し、そのまま両肩へ移動させ、体を離すと、私を真剣な顔で見つめる。


「……リア。私の名はギルフォード。ギルフォードというんだ」


 今頃になって、自己紹介っぽいことを言い出した。


「……はい?」


 私は王子の意をくむことが出来ず、頭に幾つも幾つも、クエスチョンマーク浮かんでしまった。


「え……えと……。それは、もちろん知ってます……けど?」

「ならば何故――!? どうして君は、私を『王子』と呼ぶんだ?」


「――へ?……いや……どーしてって言われても……」



 ……だって、王子は王子だし……。



「言っておくが、私の弟のフレデリックも『王子』だ。君はフレディのことも、同じように『王子』と呼ぶつもりかい?」

「え……?……いえ、そんなことは……えぇ――っと……考えたこともなかった、ってゆーか……」


「……考えたことも……ない……」


 傷付いたように、王子は僅かに顔を歪めた。


「あの……王子? いったい、なん――」

「ギルフォード。ギルフォードだよ、リア。……私としては、ギルと呼んでもらった方が、尚いいが」


「え?……あ、あの……」



 ……えー……っと……。


 それはつまり、その――……。



 『名前で呼べ』――ってこと?



「ぷ――っ!」


 堪え切れなくなり、私は思いきり吹き出した。


「リア!」


 ショックを受けたかのように目を見開いた後、王子は私を軽く睨んだ。

 頬が少し赤らんでいる。――やっぱり、拗ねた子供のようだ。


「ごっ、ごめんなさ……っ。……っふ。……ふふっ。――だ、だって――だって王子ってば、なんかかわ――っ、かわい……ってゆーか……。ふふっ――……あはははっ」



 ……あー、ダメ……。


 どーしよ……。

 笑いが――笑いが止まらな……っ。



 ひたすら笑い転げる私を見て、王子は決まりが悪そうに目を伏せる。


「笑いごとではないよ。呼びにくいのであれば、『王子』のままで我慢しようとしていた私に……焦りを抱かせたのは、君の方なのだからね?……わかっているのかい?」

「あはははっ、あはっ――………は?……『焦り』?」


 きょとんとする私に、王子は恨めしそうな視線を向けた。


「君は初め、カイルのことを『カイル()()』と呼んでいたはずだ。……それなのに、気絶した彼を部屋に運び、私がセバスを迎えに行っていた、その僅かな間に、『カイル』と呼ぶようになっていたね?……そんなものを見せつけられたら、誰だって勘ぐりたくなるだろう? 二人の距離を縮めるような()()が、私のいない間に起こったのではないか、と」


「……あー……、そのこと、ですか……」



 ……意外。

 王子でも、そーゆー小さいこと、気にしたりするんだ……?



「でも、あれは……。カイルが、そう呼んで欲しいってゆーから、呼ぶようになっただけで……」


 正直に告げたとたん、彼の眉と口角が、微かに上がった。


「……なるほど。では、私も『ギルと呼んで欲しい』と、君に頼みさえすれば、すぐに呼んでもらえるんだね?」



 う――っ。



「……そ、それは……その……」

「『呼べない』とは言わせないよ? カイルの願いは受け入れられて、私の願いは受け入れられない。そんな不公平な理屈が、この私に通用するなどとは……よもや思ってはいないだろう?」



 ……う……、うぅ……。



「――ほら、ためしに呼んでごらん?……『ギル』だよ、リア。ギ・ル――」


 王子は私の頬を両手で挟み込み、強引に上向かせると、そう言って迫って来た。


「そ、そんな……。そんなこと、急に言われても……」

「急? カイルは、それほど時間を掛けて、君にお願いをしていたのかい?――違うだろう? 君達が、部屋で二人きりになっていた、あの僅かな時間に――それを求められたのだろう?」


 王子の瞳が(あや)しく(きら)めき、私を追い込む。



 ……マズイ。

 王子が、一度こんな風になっちゃったら……もう逃げられない。



「ほら、呼んでごらん? 簡単なことだろう? 『ギル』――と。ただそれだけ、声に出せばいいだけだ。一瞬で済む」

「……い、一瞬って、そんな……。そんなの、あの……」



 だいたい、そーゆー問題じゃあ……ないと思うんですけどっ?



「……ふふっ。顔が真っ赤だね。そんなに恥ずかしがることでもないと思うが――?」


 王子はさも楽しそうに、うろたえる私を観察している。

 憎らしいほど、余裕たっぷりの表情で。



 ……恥ずかしがることじゃない、って……。


 頬を両手で挟まれた、身動き出来ない状態で……どんどん顔を近付けられてるってだけでも、ジューブン恥ずかしーんですけどっ!?



「王子、あの……手を離――」

「ギ・ル。――ギルだよ、リア」



 ……う……うぅ~~~……。


 ……メンドクサイ。

 メンドクサイよ王子っ!



「あーもうっ、わかりましたっ! わかりましたから、手っ――手を離してくださいっ!」

「ギルと呼んだら離してあげる。……ね? ほら……呼んで、リア――」


 更に顔を近付け、迫ることをやめようとしない王子に、私は閉口した。

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