第2話 震える手
「姫様! 姫様、お起きくださいませ。そろそろ、ご夕食のお時間ですぞ」
……ん……?
誰か、呼んでる……?
夕食……って……。
「姫様っ!」
まだぼうっとする頭を、ゆるゆると横に向ける。
「ん……。あー……おはよ、セバスチャン」
「な――っ! お、おはよーではございません! 夕食でございますっ!」
「……夕、食……?」
ああ……そっか。
部屋に戻ってから、ベッドに倒れ込んで……。
なーんか、いろいろ……二日間のこと、思い出したりしてて……。
……んで、いつの間にか――眠り込んじゃってた、ワケか……。
むくりと起き上がり、ゴシゴシと瞼をこする。
「ごめんねぇセバスチャン。眠っちゃってた、みたい……」
「それは拝見すればわかりますが……。様々なことがございましたからなぁ、お疲れなのでしょう」
起き上がろうとする私の背を優しく支えながら、セバスチャンは労わるように声を掛けてくれる。
「うん。だいぶ疲れたよ。……あ。でも、セバスチャンも疲れてたんじゃ……。もう大丈夫なの?」
「は、はい……。お恥ずかしいところをお見せしてしまいまして、申し訳ございませんでした」
恥ずかしそうに視線を逸らし、やたらと目を瞬いてるセバスチャンをぼーっと眺めてたら……何故だか、唐突に抱きつきたくなって来た。
寝ぼけ眼で、ぎゅむむっと、首元(?)に抱きついてみる。
「ピギャ…ッ!? ひっ、ひひ……っ、姫様っ!?」
当然のことながら、セバスチャンはびっくりしたように、翼をバサバサさせた。
「姫様っ、い――っ、いかがなされましたっ?……姫様っ? 姫様ーーーっ!?」
「……ごめん、セバスチャン。もう少し、このまま……」
「ピャ?……姫、様……?」
……あー……、あったかい。
ふわふわもふもふで……気持ちいーなぁ……。
こーしてると、どーしてだかホッとする……。
「……えへっ。ごめんね? セバスチャンの顔見たら、なんか急に……。あはははっ」
体を離したとたん、妙に照れ臭くなって……その恥ずかしさを振り払うように笑った。
「はぁ……?」
セバスチャンは不思議そうに首をかしげてたけど、すぐに気を取り直したみたいで、
「さあさあ、ご夕食でございますぞ! じきにアンナとエレンが参りますので、お早くお支度願いますっ」
翼をバッサバッサさせて急かした。
アンナさんとエレンさんが、テーブルセッティングしてくれている間。
私は椅子に座りながら、ちらちらとドアの方に目をやり、あることを気にしていた。
『あること』。
王子がそろそろ、この部屋に来るんじゃないか――ということ。
……だって。
昨夜も今朝も、一緒にここで食べたんだし。
夕食だって、一緒に……。
「どうかなさいましたか、姫様? 何やら、落ち着かぬご様子ですが……」
「えっ!?……あ、うっ、ううんっ?……何でもないよっ?」
「……さようでございますか? ならば、よろしいのですが……」
セバスチャンは、イマイチ納得行かない――って感じで見てたけど、へららっと笑ってごまかす。
……王子、さっき怒ってたみたいだったし……。
今日は、一緒に食べないの……かな?
明日帰るって言ってたのに……。
このまま、気まずい状態のまま、お別れすることになっちゃったら……ヤダ、な……。
「ね――、ねえ、セバスチャン? 今日は、その……王子は、一緒じゃないの?」
「――は? ギルフォード様でございますか? ギルフォード様は、本日は、お一人でお召し上がりになりたいと申されましたので、客間の方に、ご用意させておりますが?」
「そっ、そーなんだ?……そっか。やっぱり……そーゆーこと、なんだ……」
そういうこともあるかもって、予想してたはずなのに。
何故だか、胸がズキズキと痛んだ。
……王子、やっぱり怒ってるんだ。
私の顔見て食事するのが、嫌なんだ。
だから一人で……。
でも、そうしたら――。
「姫様っ? どうなされましたっ?」
「――え、何……? どうかしたの、セバスチャン?」
「どうかしたの、ではございません! お顔の色が優れませぬ上に、お手が震えていらっしゃいますぞっ?」
「……え? 震え……?」
下を向いて確かめると、セバスチャンが言うように、膝の上に置かれた私の手は、小刻みに震えていた。
「……あれ?……何、これ?」
両手を僅かに上げ、呆然と見つめる。
「お……おかしいな。どうして、こんな……。震えが……止まらない……」
……やだ。なんで――?
どーして私、こんな……いきなり……。
「姫様!」
「――っ!」
声のした方へ目を向けると、そこにはエレンさんがいて……。
私の両手を自分の両手で優しく包み込んで、目が合うと、穏やかに微笑んだ。
「姫様。どうか、落ち着いてくださいませ。……何の問題もございません。問題ございませんから――」
「……エレン、さん――?」
エレンさんは私の両手を柔らかく握ったまま、その場で両膝をついて私を見上げた。




