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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第6章 それぞれの想い

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第9話 忠誠の誓い

「カイルさんはこれから先も……護衛を続けてくれるのかな?」

「え――?」


「だって、カイルさんが守りたかったのは桜さんで、私じゃないんだもん。……なのに、このまま側にいてくれるなんて……思ってちゃいけないよね?」

「……姫様……」


 カイルさんは驚いたように目を見開き、しばらく私を見つめてから、穏やかな口調で告げた。


「姫様は……私がこんなに早く戻って来た理由を、ご存じないですよね? どうしてだと思いますか?」

「……え? どうしてって……えっと……」



 そー言えば、どーしてなんだろ?

 カイルさんは、桜さんを捜しに行ったんだから、たった一日で戻って来るなんて、考えてみれば変……だよね?



「理由なんてわからないよ。桜さんを捜しに行ったカイルさんが、私が神様から聞いた話を、そんなに早く知るはずもないし……。万が一、どういった方法でかはわからないけど、その事実を知ったとしても……戻って来るのが早過ぎるよね?」



 私が神様を怒らせて放り出されてから、王子とセバスチャンに事情を説明したり、セバスチャンに泣かれたり、王子が小さい頃の私に会ったって話を聞いたり……え~っと、王子にプロポーズされたりはしてたけど、昨夜出掛けたカイルさんが、ここまで戻って来られるほどの時間があったとは思えない。



 ……じゃあ、どーして――?



「昨日、エレンが言っていたという話を、覚えていらっしゃいますか? 神様のいらっしゃる方角が、一瞬白く光ったと」

「――え?……あ、うん。もちろん覚えてるよ。あの後、エレンさんからも直接聞いたし」


「そうですか。……それを私も見たんです。今日の朝方に」

「えっ、カイルさんも!?」



 ……そっか。じゃあ、やっぱりあれは……。

 エレンさんが見たってゆーのも、神様が力を使った瞬間――花を咲かせた時、だったんだ……。



「あの光を見た瞬間、何故か胸騒ぎがしました。姫様の身に、何か起きたのではないかと……。私のいない間に、姫様に危険が及んでいるのでは、と」

「カイルさん……」


「そう思ったら、走り出していました。ルドウィンへと続く道ではなく、ザックスへと戻る道を」


 カイルさんはそう言うと、自嘲(じちょう)するように薄く笑った。


「おかしいですよね。何の根拠があるわけでもないのに……。ただ胸騒ぎがしたというだけで、私はあのお方の捜索よりも、姫様の元へと戻ることを優先させた。――いえ。実際は、考える余裕なんてなかった。どちらを取るかなんて選択肢は、浮かんでも来ませんでした。その瞬間は、『戻らなければ』という感情だけが、私の心を占めていたんです」


 まっすぐに私へと向けられる、カイルさんの真剣な眼差し。

 その瞳に魅入られたように、私はしばらく、身動き一つ出来なかった。


「姫様。あのお方がご自分のいるべき世界へ、無事にお戻りになられたのならば……私のあのお方に対する役目は、既に完了しています。これ以上、姫様のお側にいることは……許されないのかもしれません」



 ……え?


 側にいることは許されないって、そんな……!



 『辞めないで!』

 ――思わずそう言いそうになったところを、ぐっと堪えた。


 辞める辞めないは、カイルさんの自由。私が口出し出来ることじゃない。


 それはわかってる。わかってるけど……。



「姫様は、あのお方とは違う。お姿はこんなにも似ていらっしゃるのに……中身は全然違う。それなのに――」


 カイルさんの手が、ゆっくりと私の顔に近付く。私は戸惑って、カイルさんを見つめることしか出来なかったんだけど……その手が頬に触れそうになった手前で、ぴたりと止まった。


「……カイル、さん?」


 私が呼び掛けると、カイルさんはハッとしたように手を引っ込め、僅かに赤く染まった顔を横に向けた。


「申し訳ございません。……俺は何をやってるんだ――?」



 最初の言葉は私に。後の言葉は、自分に対して言ってるみたいだった。



「カイルさん、どうしたの? 具合でも悪いの?」

「いえ!……いえ、そうではございません。私は……」


「……えっ!? ちょっと、カイルさんっ?」


 カイルさんはいきなり身を(かが)め、片膝をつくと、手の甲を上にした状態の右手を、私の前へと差し出した。


「……へ?……えっと……。この手って、何?」

「騎士は主君に忠誠を誓う時、両手を組んで主君の前へと差し出します。そして主君は、両手でその手を握り締める。――これが主従関係を結ぶための儀式です」


「……忠誠? 儀式……?」

「そうです。忠誠を誓う儀式です。……しかし、私はまだ、見習いの身。正式な主従関係を結ぶことは、許されておりません。ですが――」


 カイルさんはまた、私をまっすぐに見つめた。


「私は、今、この場で――姫様に一生お仕えする、お許しをいただきたいのです。もしも、姫様が、私を受け入れてくださるのなら……どうか、この手にお触れください。見習いの私は、片手を取っていただくことで、姫様のご了承を得たという(あかし)としたく存じます」


「……一生仕える……って、それ……」



 ――本気なの?



 ……ううん。

 それより、そんな大切なこと……簡単に決めちゃっていいの?


 私は、桜さんじゃないんだよ?


 カイルさんだって、さっき言ってたじゃない。『姿は似てても、中身は全然違う』って。


 ……なのに、いいの?

 私なんかに忠誠誓うって……ホントにそれでいいの?

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