第12話 先生の意見
お父様の話を聞いてから、神様のところへ行くのが怖くなっちゃったな……。
ずっと、もう一度会いに行ってみようって、思ってたのに……。
だって、次に神様に会う時が、二つの選択を迫られる時だなんて……。
どんな選択だかわからないけど、どっちにしろ、神様のところに行ったとたん、運命は動き出しちゃう……ってことなんだよね?
どっちの未来に進んでも、私の身近な人が危険にさらされる。しかも、絶対に避けられない。
そんなこと知っちゃったら、もう……体も心もすくんじゃって、どうしていいのかわからないよ。
第一、危険って、どの程度のものなの?
……まさか、生死に関わる……ってほどのことじゃないよね?
お父様は、私が泣くことになる――って言ってたから、かすり傷を負う程度の危険じゃないんだろうし……。
……ダメだ。
やっぱり怖い。
私、ホントに……どーしたらいーんだろう?
「おい、どうした? 気分でも悪いのか?」
「……えっ?」
ハッとして顔を上げると、珍しく、先生が心配そうに覗き込んでいた。
「あ……。すみません。勉強中、でしたよね……」
「いつもであれば、顔を洗って出直して来い――とでも言うところだが。顔色が悪いぞ? 気分が優れないのであれば、続きは明日にしてもいいが――」
「いえ、大丈夫です。……ちょっと、考え事ってゆーか……悩み事があるだけですから」
「悩み事? 元護衛君と、隣国の王子のことか?」
「『元護衛君』って……。もー。ちゃんと名前で呼んであげてくださいよ。……二人のことも、もちろんありますけど……。今は、別のことで悩んでます」
「ほう? 君が、色恋のこと以外で悩んでいるとは、珍しいな。聞いてやるから、話してみたまえ」
……なんか、すっごく失礼なこと言われてる気がするけど……。
今は、言い返す気にもなれないや……。
「あくまで『もしも』の話として、考えて欲しいんですけど……。先生は、ある予知夢の持ち主から、『二つの未来が示される夢を見た。どちらの未来に進んでも、身近な人が危険にさらされる。しかも、絶対に避けられない。その選択が示される場所は、どこどこだ』って言われたら、どーしますか? 選択を示されるってゆー場所へ、すぐに向かうことが出来ますか?」
「なに? 二つの未来だと?」
「そーです。どっちかの未来が、自分の選択によって、確実に起こるんです。どっちに進んだとしても、身近な人に危険なことが起こる……。それがわかってて、選択が示される場所へ行けますか? 怖いって思いませんか?」
「……これはまた……予想外だったな。君のことだから、もっとバカバカしいことで悩んでいるのかと思っていたが」
「……先生……」
またしても、すっごく失礼なこと言われてるけど……(さっきと)以下同文。
「それで? その二つの未来とやらで、それぞれ何が起こるか――誰に危険が及ぶのかまで、わかっているのか?」
「……いえ、全然。ただ、絶対避けられない選択肢が二つあって……そのどちらかを選ぶかによって、未来が変わる。誰かまではわからないけど、身近な人に危険なことが起こる……ってことだけが、確実なんです」
「ならば、さっさと選択が示される場所とやらへ、行けばよいではないか」
「えっ?……だ、だって、身近な人が危険にさらされるんですよ? どっちの未来でも、確実に、ですよ? さっさとなんて、そんな簡単には……。先生は、怖くないんですか?」
「怖いか怖くないかと訊かれても、確実に起こる未来なのだろう? 変えられないのであれば、さっさと行ってさっさと起こしてしまった方が、より建設的ではないか。悩むだけ無駄だろう? 変えられないのだから」
「そっ――れは、そーなんです……けど……」
頭ではわかってるけど……。
でも、やっぱり怖いんだもん!
「『一人でその場所へ行くのが怖い』と言うのなら、ついて行ってやらんこともないが?」
先生の口から出た言葉に、きょとんとする。
「……はい?……あの……私、たとえ話をしたつもりだったんですけど……。なんで、まるでホントのことみたいに……なっちゃってるんですか?」
「悩み事があると言って、話し始めたのは君ではないか。今のがその、悩み事というものなのだろう?」
「……いや、だから。悩んでるのは事実ですけど、今のはたとえばな――」
「ふざけるな! あのようにややこしいたとえ話、君に作れるはずがなかろう?――まったく。私をバカにするのも、たいがいにして欲しいものだな」
え……っ?
……えー……っと。
先生の今の言い方だと……バカにされてるのは、むしろ、こっちの方じゃ……?
――なんで私、怒られなきゃなんないんだろ?
「確かに、今の話は、作り話のような内容ではあるが……。だからこそ、真実味があるというものだ。……君は、人の意見を聞きたいと思った時に、わざわざややこしい話をでっちあげるかね? そんな面倒なことはしないだろう?」
「う――っ。……そ、それは……」
「君の相談事が、信じられんような内容だったとしても……君が、思い詰めた顔で話し始めた時点で、真実だということは間違いない。君は本当に、二つの未来の選択を迫られているのだ。そうだな?」
「う……うぅ……」
……ここで、『はい。そうです』って、気軽に返事しちゃっていいものかどうか……。
だって、どっちかの未来で、危険な目に遭うのが……もしも、先生だったりしたら……。
「余計な気を回すな。たとえ、君が選んだ選択先の未来で、危険に遭遇するのがこの私だったとしても……君には一切、関係のないことだ。何故なら、その未来とやらを、君は知らんのだからな。そもそも、文句をつける筋合いがない」
「先生……」
「さっさと、その場所とやらへ行って来たまえ。ここで、何日もぐずぐずされていては、勉強どころではなくなり、かえって迷惑というものだ。君が選んだ未来とやらで、危険に遭うのが、私以外の身近な人間だったとしたら、その時は……慰めの言葉ひとつくらいは言ってやる。危険というものが、思いのほか大きく、その者の命に関わるようなものだったとしたら、気が済むまで、悲しみに付き合ってやろう。……もう迷うな。君が望むのであれば、今からでも一緒に行き――全て、この目で見届けてやる」
先生の手が、ぎこちなく私の頭上に置かれ……ぎこちなく、数回撫でる。
相変わらずの、不器用な優しさに……思わず胸が熱くなり、涙が滲みそうになった。
「おい。泣くのだけは勘弁してもらうぞ。……私は涙は嫌いだ」
「あははっ。私だって嫌いです」
先生の気持ちに感謝しつつも、照れ臭くて、口には出せなかったけど……。
私は、目元をゴシゴシこすりながら、心の中で、そっと『ありがとう』とつぶやいた。
第11章はここまでとなります。
お読みくださり、ありがとうございました!
いよいよ、次が最終章です。
もう少しだけ、お付き合くださいませ。




