第11話 未来を示す鍵
「とにかく、今から覚悟しておきなさい。私の経験上……それは決して避けられぬ」
「……お父様……」
私の不安を感じ取ってくれたのか、お父様はそっと私の頭に手を置くと、数回優しく撫でてくれた。
「突然の哀しみに、人は、耐えられぬ時があるが……ある程度の覚悟をしておれば、何も知らぬままに奪われて行くよりは……たとえ気休めであろうとも、いくらかは救われることがあるのではないかと思ってな……。余計なことであったなら、すまぬ」
「いいえ。知らせてくださって、ありがとうございます。……お父様の、言う通りだと思います。何の覚悟もないままに、そんなことが起こったとしたら……たぶん、耐えられないと思いますから……」
「リア……。脅しつけてしまったようで心苦しいが……。おまえには、いつでもこの父がついているということを、どうか忘れないでおくれ。どのようことが、おまえの身に起ころうと……私はずっと、おまえの味方だ。いつでも頼ってくれて構わないのだよ」
「……はい。ありがとうございます、お父様」
……どうしよう。
知らせてくださってありがとう……なんて、物わかりのいいこと言っちゃったけど……。
でも、やっぱり怖い……。
これから先、いったい何があるの?
私の周囲の人が、危険にさらされるなんて……避けられない時もあるだなんて……。
……嫌だ。怖い。怖いよ……。
「あのっ!……えっと……お父様?」
「うん? なんだね、リア?」
「あの……二つの選択って……どんな選択だったかまでは、教えていただけないんでしょうか?」
「……そうだな。私の予知夢というのも、そこまで詳しく――細部まで読み取れる訳ではないのだが……。これだけは伝えておくとしよう。おまえが選ぶべき選択は……どうやら、あの者と関係したところで示されるらしい」
「『あの者』?……あっ! もしかして、神様のこと……ですか?」
「そうだ。あの者にも……そろそろ、終焉の時が近付いているようでな……」
「え? 終焉、って……」
「あやつも、大分長く生きた……。すっかり、力も弱まってしまっている。哀れではあるが……寿命というものなのだろう」
「寿命? 神様が?」
……そんな、嘘でしょ……?
だって、見た目があんなに小さいんだもん。
寿命だなんて……実感なんて湧くワケないよ……。
「近いうちに、おまえは再び、あの者に会うことになるだろう。その時が……選択の時だ」
「選択の……時?」
「そうだ。おまえがどちらを選ぶかによって……未来が変わる」
「私がどちらを選ぶかで、未来が……。それはいったい、どんな選択なんですか? 神様と再会した時に示されるって……。じゃあ、選択を示すのは、神様なんですか?」
「それは私にもわからん」
「えっ!?……だって、お父様は予知夢を――」
「私が見たのは、二つの未来だけだ。おまえがどんな選択を迫られるか、そして、誰に示されるかまでは、夢には詳しく現れなかった」
「そ……そーなん、ですか……。あっ。でも、二つの未来はわかってるんですよね? どんな未来だったんですか?」
「……知りたいか?」
「えっ?……そりゃあ……やっぱり、気になりますし……」
「先ほども言ったが、二つの未来は、関わる人物や出来事が違う。どちらの未来も、おまえの身近にいる人間が、危険にさらされることになるのだぞ?……それでも、知りたいか? 誰が、どんな危険に遭うのか……それを知ることによって、避けられるのであれば、まだよかろうが……決して、避けられぬ未来だ。それでも、事前に知っておきたいか?」
「……そ、それは……」
誰が危険な目に遭うかわからない、二つの未来……。
その危険が、誰に訪れるのか。
その危険が、どの程度のものなのかも、お父様は知ってるんだ……。
……ダメ!
やっぱり、知るのが怖い――。
「ごめんなさい、お父様。私が浅はかでした。……知りたく、ありません……」
「リア……」
お父様は、辛そうに目を伏せた。
だけど、すぐに顔を上げると、大きな温かい手で、私の頭をゆっくりと撫でてくれる。
「未来など、知らぬ方が幸せなことが多いものだ。変えられぬ運命なら、尚更な……」
実感のこもったつぶやきに、涙が溢れそうになる。
だって、お父様はずっと一人で……変えられない未来の夢を見続けて、今まで生きて来たに違いないんだから。
きっと何度かは、不幸な未来を変えようと――どうにかして変化をもたらそうと、試してみたこともあったかもしれない。
でも、どんなに試しても、試しても……夢に見た未来から、逃れることは出来なくて……そのたびに、傷付いて来たのかもしれない。
……何の根拠もないことだけど。
私が勝手に、そう感じただけ……だけど。
お父様を見ていたら……何故だか、脳裏にそんな映像が浮かんで来た気がして。
……錯覚だったのかな?
気のせいだったのかな?
真偽はわからないけど……。
お父様なら、きっとそうして来たに違いないって、素直に信じることが出来た。




