第10話 二つの選択肢
お父様は相変わらず忙しいらしく、その日も、泊まることなく、本城へと戻って行った。
私は自分の部屋で――別れぎわ、お父様が私に告げた言葉の意味を、ずっと考えていた。
お父様は、私の目をまっすぐ見つめて、次の言葉を口にした。
『リア。おまえは近いうちに、二つの選択を迫られることになるだろう。どちらを選んでも、強い苦しみや悲しみ……そして、幸福を味わうことになる。幸と不幸の割合は、ほぼ同じだ。どちらを選ぶも、おまえの自由。しかし、これだけは忘れてはならん。決して、己の心に嘘はつくな。常に、一番望む道を選びなさい。さすれば、どのような結果になろうとも、後悔せずにいられるだろう。多少の未練は残るかもしれないが……それは仕方がないことだ』
――二つの選択を迫られる――?
……それって、ギルを選ぶか、カイルを選ぶか……ってことなのかな?
お父様は、二人のことで私が悩んでるの、知ってて……。
だからわざと、そんなことを……?
どうして、急にそんなことを言い出したのかが気になって、訊ねてみたけど……『おまえの未来を夢に見た』としか、答えてくれなかった。
「夢? それって、さっき言ってた予知夢――ってものですか? 自分の死期を知る時以外にも、予知夢って見るんですか?」
「……ああ。稀にだがな。必ず、二通りの夢を見る」
「二通り……?」
「そうだ。まるで、どちらかを選べとでも言うように、二通りの未来を見せられる」
「えっ?……選べとでも言うように、って……。じゃあ、幸せそうに見える夢の方を、選べばいいだけなんじゃないですか?」
それだったら、どちらかを選ぶのも、そんなに難しいことじゃないんじゃない?
なんて思ってたら、お父様はため息をつき、愁いの表情を浮かべた。
「それが、そう簡単には行かぬのだ。必ずどちらにも、それなりの問題はあり……どちらを選んでも、結果は、あまり変わらんように出来ている。幸と不幸の割合は同じだが、ただ……それに関わる人物や、出来事が違って来るのだよ」
「幸と不幸の割合が、同じ……。それじゃあ……やっぱり、選ぶのは難しそう……ですね……」
「うむ。……だが、必ず、選択せねばならぬ場面は訪れる。その夢を見た後、選択することを回避出来たことなど、今まで一度もなかった」
「……絶対避けて通れない、選択を示す夢……。私に関わる夢を、見たってことなんですね?」
「その通り。己に関わること以外の夢を見たのは、今回が初めてなのだ。今まで一度も、このようなことはなかったのだが。……何故か、見てしまってな」
片手で頭を抱えるようにして、お父様は辛そうにつぶやく。
私のことで、頭を悩ませているお父様を見ていたら、黙ってちゃいけないような気がして……。
思いきって、詳しい説明だけ伏せて、私はあの話をすることにした。
「お父様。私、今まさに……選択を迫られてるんです。お父様が夢に見たことと、関係があるのかどうかまではわかりませんけど……とても大切な選択を――」
「そうか……。それで? どちらを選ぶかは、決まったのか?」
「いえ。まだ、どうしていいかわからなくて……。ずっと迷ってます」
「リア……」
お父様は、しばらくは無言のまま、何か考えているようだった。
やがて、神妙な面持ちで口を開くと、
「このことは、言おうか言うまいか、迷っていたのだが……。やはり、伝えておくことにしよう。おまえがどちらを選んだとしても――その道には、必ず、幾多の危険が付きまとう。充分、用心することだ」
「えっ?……危険?」
「ああ、危険だ。――だが、案ずるな。おまえが直接、命の危機にさらされる訳ではない。多少の危険はあるだろうが、どれも回避出来る。ただ……」
「ただ?」
「おまえの周囲の者に、危険が及ぶことが、幾度かあるだろう。それらは、回避出来るものもあるが……回避出来ぬものも、残念ながらある」
「えっ!?……私の周囲の人が、危険に?」
「そうだ。哀しいが、避けられはしないだろう。……おまえは、きっと幾度も、涙を流すことになる」
「なっ、涙!?」
……そんな……。涙を流す、って……。
それは、いったいどんなことなの?
周囲の人達に危険が……なんて、そんなの……。
まさか……。
まさか、誰かが死……なんてことじゃないよね?
そんな怖いこと、起こるワケないよね?
……ヤダよ。
私の大切な人達に、危険が及ぶかもしれないなんて。
避けられないかもしれないなんて。
そんなの、絶対ヤダ――ッ!!




