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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第11章 新しい日々

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第9話 後悔の念と慈愛の微笑み

「神様、寂しそうでした。強がってたけど、お父様に会いたいみたいだった。でも、それって……お父様の中に、片割れさんがまだいるって、信じてるからなんですね?」


「ああ……。幾度言おうが聞かないものだから、私も疲れてしまってな。昔は、頻繁(ひんぱん)に会いに行っていたのだが、しばらく近付かないようにしていたのだ。すると、ある日――あやつの元で遊んでいた娘が……リア、おまえが――別人となって戻って来た」


「えっ!?……お父様、それって……。私が小さい頃に入れ替わってたって、気付いてたんですか?」

「当然だ。愛する娘が別人に入れ替わっていて、気付かぬ親がいると思うか?」



 ……そんな……。


 じゃあ、お父様が桜さんに冷たかったのは……自分の子じゃないって、わかってたから……?



「それまでは、あやつの(たわむ)れにも、寂しいがゆえのことと思い、目をつむっていたが……。さすがに、これだけは許せなかった。だから言ったのだ。我が娘を、無事にここへ戻すまでは、二度とおまえには関わらんと」


「……お父……様……」


 お父様は、私をじっと見つめると、両手で私の頬を包み込み、


「長かった。……長い時は掛かったが……おまえはまた、こうして……私の元に戻って来てくれた。これほどに優しく――温かな光を(まと)う、美しい娘となって。……別の世界で、おまえを(いつく)しんでくれていた者達に、感謝せねばならんな」


 目に涙を浮かべながら、優しく語り掛ける姿に、私は胸を熱くした。



 全部、知ってたんだ……。


 お父様は、最初から全部わかってて……それでも諦めず、私を待っててくれたんだ。

 いつ戻るか定かじゃない、どんな風に成長してるかも――ううん。生きてるかどうかもわからない娘を、ずっと……ずっと待っててくれたんだ。



 そのことに心の底から感動し、感謝する一方で……私はどうしても、桜さんのことが気に掛かって仕方なかった。



 私は向こうの世界でも、こっちの世界でも……周りの人達に、すごく優しくしてもらって、幸せで……楽しい日々を送ってて……。


 でも、桜さんは私と違って……記憶を失くすこともなく、ずっと一人で孤独を抱えて、ここで生きてたんだって思うと……堪らなかった。



 今更、私がいくら謝ったって、どうにか出来ることじゃないけど……。

 それでも、どうしても――謝らずにはいられない気持ちになった。



 ごめんなさい、桜さん……。

 あなたが本来いるべきだった場所で、普通に幸せに暮らしてて……。

 あなたに向けられるはずだった、ご両親の愛情を、全部横取りして……。


 ……ごめんなさい。

 本当にごめんなさい……。



 いつしか、私の目には涙が(あふ)れ……ぽろぽろと頬を伝っては、こぼれ落ちて行った。


「リア?……どうした?」


 お父様が心配そうに、私の顔を覗き込み、優しく頭を撫でてくれる。

 その温かさが嬉しくて――でも切なくて、私は子供のように泣きじゃくった。


「ごめ……なさ――っ、い……。私……私、なんだか幸せで……。幸せ、過ぎて……桜さんに、申し訳ないって、思っ……て……」

「サクラ?……もしや……おまえと入れ替わっていた、あの娘の名か?」


 無言でうなずくと、お父様は『そうか……』とつぶやき、私を抱き締めながら、何度も何度も、頭を撫でてくれた。


「あの娘には、悪いことをした……。実の娘のように接すれば、後に――おまえが戻って来た時に、別れが辛くなろうと思い、あまり近付かぬようにしていたのだ。優しい言葉ひとつ、掛けてやったことはない。セバスやメイド達に、なるべく側にいてやってくれと……その程度のことしか、してやれなかった。その時は、それでいいと思っていた。だが……戻って来たおまえを見て、それは間違いだったと気付いた」


「私……を?」


 お父様は私の肩に両手を置き、体を離すと――寂しげに微笑んだ。


「ああ、そうだ。……リア。おまえと再会した時――おまえは、とてもはつらつとしていて、内側から輝いて見えた。一目で、あの娘ではないと……私の本当の娘だとわかった。それほどまでに、おまえとあの娘では、纏うものが――内側からかもし出されるものが違っていた。見た目は同じようでいて、全てが異なっていた。……それでわかったのだ。私は間違っていたと」


「お父様……」


「あの娘は、体の成長とは逆に、目にするたびに小さくなって行くようでな……。いつも、縮こまるようにして――今にも消え入りそうに見えた。まるで、わざと目立たぬよう下を向き……私の目を避けるため、うつむいているようだった。……あの娘を、そのようにしてしまったのは私だ。他ならぬ私なのだと、対照的なおまえを見た時、嫌というほど思い知った。後悔した。何故にもっと、優しくしてやれなかったのだろうと――。もっと頻繁に会いに来て、話を聞いてやらなかったのだろうと」


 深いため息をつき、お父様は私に背を向けた。

 また窓の外に目を向けて――しばらく、静かに眺めていた。


「……でも、あのっ。桜さんは、きっと、向こうの世界では、幸せになれるはずです! 私がずっと、幸せでいられたように……。だからお父様、そんなにご自分を責めないでください。お父様は、お父様のお考えがあって……それが正しいと思って、したことなんでしょう? だからっ」


 ゆっくりと振り向いたお父様は、まだ少し、寂しそうだった。

 それでも、笑顔を絶やさないようにして、私に気を遣ってくれてる……みたいに見えた。


「ありがとう、リア。……これから先も、私の後悔は消えぬだろうが……おまえの優しさを、嬉しく思う。本当におまえは……良い娘に育ってくれた」


「そ――っ、そんな、こと……。私、いい子なんかじゃ……」

「いいや。おまえは良い娘だ。育ての親に、私は一生――感謝し続けることだろう」


 そう言った時のお父様の顔を……私はきっと、これから先も忘れないだろう。

 少し切なげで――でも、どこまでも慈しみに満ちた、穏やかな笑顔。


 こんなに素敵に微笑むことが出来る人が、私のお父さんでよかった。

 ――心から、そう思った。

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