第8話 国王様の昔語り
昔。
もう、どのくらい昔かは忘れてしまったらしいけど、神様の言うように、お父様(正しくは初代国王)は、神様と同じような存在――双子の片割れみたいな存在だったらしい。
長い時間、二人きりで、あの桜の木の中で……ただ日々を見送るように、静かに過ごしていた。
でも、ある時。
初代国王――神様の片割れは、そんな日々に耐えられなくなって、以前から気になっていた、人間の側に行きたいと、密かに思うようになった。
双子の片割れのような存在は、神様にそのことを告げ、外に出て行こうとしたんだけど。
神様も言ってたように、彼は大反対だったから、ケンカみたいになってしまった。
ケンカしては出て行き、また戻って来てはケンカして、また出て行き……。
そういうことを何度か繰り返して、とうとう、初代国王(神様の片割れ)は出会ってしまったんだ。運命の人、二人に。
運命の人。
一人は、もちろん、初代国王が恋をした女性。
もう一人は、初代国王の器となった人間。
その器となった人には、もともと、特殊な能力がそなわっていたらしい。
自分の器となる人を探していた神様の片割れが、器となった人と出会った時。
彼はすでに、瀕死の状態だったそうだ。
言い方は悪いけど、チャンスと思った神様の片割れは、彼に取引を持ち掛けた。
『私に、その体を共有することを許すなら、おまえの命を救ってやろう』と。
取引は成立し、神様の片割れは、人間の体を得ることが出来た。
もともと能力者だった人間の力と、己の力も相まって、更に強大な力を得た神様の片割れは、当時、荒れに荒れていた、この国の英雄として活躍し……。
結果、初代国王の座を手に入れた神様の片割れは、恋した女性を妻に娶り、ザックス王国の始祖となったのであった。
……とゆーのが、お父様がした昔語りのあらすじだ。
でも、その話の中には、私が一番知りたかったことは出て来なかったから、思い切って、訊ねてみることにした。
「あの……つまり、初代国王様と、神様の片割れさんが同化した存在が、えっと……この国を興したってことなんですよね? 神様が言うには、初代国王様は、人間の器を交換しながら生きてるってことでした。だから、今の国王様も初代の国王様も、中身は同じだって。……でも、あの……ホントにそんなこと――」
あり得るんですか?
訊ねたかったけど、口には出来なかった。
だってそんな……器を交換なんて、そんなこと……。
お父様は小さくため息をつくと、少しの間、空を仰いでから、私に向き直った。
「そこがあの者の、困ったところなのだ。……あれは少し、思い違いをしている」
「思い違い?」
「そうだ。あの者は、私の中に、今でも己の片割れが存在していると思っているようだが……それは違う。私は、私でしかあり得んのだ。私は――いや、代々の王は、初代国王の記憶と、ほんの少しの能力を、受け継ぎ受け継ぎしながら、生きて来たに過ぎん。あの者の片割れなど、とうの昔に――初代国王が亡くなったと同時に、この世から消滅してしまっているのだよ」
「え……? 記憶と、少しの能力を……受け継ぐ?」
「うむ。初代国王は、己の死期を悟った時、次期国王に選ばれた者にだけ、記憶と能力を受け継がせてから亡くなったのだ。その行為……一応、儀式と呼んでいるが。その儀式を、後世まで続けて行くようにと遺言してな。……リア。おまえも、私の死期が迫った時には、記憶と能力を引き継ぐことになろう」
「わ、私も?……でも、あの……死期が迫った時って、どうやってそんなの――」
「それも、王と定められた者に、もともとそなわっている能力のひとつだ。……わかるのだそうだ。己の死期が近付くと、予知夢とでも言うのか……それを見るのだよ。その夢によって、己の死が近いことを理解するのだ」
「自分がいつ死ぬか、夢に見る――?」
「……そうだ。なかなかに厄介なものだろう? この国の王となることは」
寂しそうな微笑みに、胸がキュウっとなる。
……自分の死期がわかっちゃうなんて、ヤダな……。なんだか、怖い。
でも、歴代の国王様達は、そうやって……初代国王の記憶と能力、そして、この国を継いで来たんだ……。
私がずっと黙っているから、心配になったのか、お父様は申し訳なさそうな顔をして、
「すまない、リア。いきなりこんな話をして……。おまえが混乱するのも無理はない。誰だって、初めは信じられんだろう。このような、現実離れした話は」
そう言って私に近寄ると、優しく頭を撫でてくれた。
「いえ、そんなこと……。信じます。信じられます。だって、私は実際に、神様に会ってしまったから――」
……あの、寂しがり屋で短気な、可愛い神様と。
「でも、さっき……神様はまだ、お父様の中に片割れさんが存在してるって――思い違いしてるって言ってましたけど、どうして神様は……」
「――そう。そこなのだ。あの者には、これまでにも幾度も……おまえの片割れは、もうどこにもいないのだと……ただ、その者の記憶が、私の中にあるだけなのだと、数え切れぬほど説明して来たのだが……。頑として、理解しようとせん。……いや。理解出来ない訳ではなく、認めたくないだけなのだろうが」
「認めたく、ない……?」
「認めたら、あの者は本当に……一人きりになってしまうからな。それが怖いのだろう」
「……ああ。そっか……」
神様みたいな存在が、他にもいるとは思えないもんね。
だとしたら……ホントに神様は、この世に独りぼっちなんだ……。




