第7話 二度目の謁見
勉強と剣の稽古を繰り返す日々にも、すっかり慣れた頃。
もう少しで夕食――という辺りで、その知らせは私にもたらされた。
「えっ!? 国王様が来る? ここに?」
「はい! 先ほど知らせが届きまして。明朝、こちらにいらっしゃるそうです」
セバスチャンは、ソワソワってゆーか、ウキウキってゆーか。
とにかく、すごく嬉しそうに、私に報告してくれたんだけど……。
「姫様? 浮かないお顔をしていらっしゃいますが……どうかなされましたか?」
「うん……。国王様には、いろいろと訊きたいことがあるんだけど、どー切り出したらいいのか、わかんないよーな話ばっかりだからさぁ。もー、どーしよーかなって」
「ピョ? 『どう切り出していいかわからない話』……でございますか?」
セバスチャンは、私をじーっと見つめてから、不思議そうに顔を傾ける。
……まあ、そーゆー反応になるよね。
この話は、セバスチャンにだって、したことないんだから。
私自身、信じられないよーな話だし……荒唐無稽、って感じなんだもんなぁ。
どー話せばいーんだか、さっぱりわかんないよ。
「んー……。セバスチャンには関係ないことだから、気にしなくて大丈夫。これは、私と国王様の問題だから」
「はぁ……」
セバスチャンは、納得したんだか、してないんだか。
判断が難しい顔をしていたけど、これ以上、何か訊かれても困るだけだから、放っておくことにしよう。
……さて。
どーしたもんかなぁ?
国王様に面会した時、どうやって話を切り出そうかと、私はずっと考えていた。
夕食の時間も、湯浴みの時間も――夜、眠りに就く、ギリギリの瞬間まで。
とにかく、その日一日、ずーーーっと考え続けた。
次の日。
国王様を前にした私は、ひたすら緊張していて。
前日に、頭でシミュレーションしていたはずのことを、綺麗さっぱり忘れ、頭が真っ白になっていた。
どっ、どーしよー……。
訊きたいこと、いっぱいあるのに。
これから、どーする予定だったかが……。
あぁあっ!! 全ッ然、思い出せない!!
「リア?……どうしたのだ? 顔色が優れぬようだが?」
そっと頬に触れる、大きくて温かい手。
一瞬、ビクッとしちゃったけど、その後、何故だか、急に甘えてみたくなってしまって。
私は、片手を国王様の手の甲に重ねると、大きな掌に、自ら顔を近付けた。
「リア?」
少し戸惑ったような、国王様の声。
私はハッと我に返り、慌てて手を離して頭を下げた。
「すっ、すみません! あの――っ、失礼しましたっ!」
国王様は、両腕でそっと包み込むように、私を抱き締め、
「何を謝ることがある? おまえは、私の娘だ。ただ一人の、愛しい娘なのだから……遠慮なく、甘えてよいのだぞ? その方が、私も嬉しい」
穏やかな声で語り掛けると、優しく頭を撫でてくれた。
「国王、様……」
胸がジ~ンと熱くなって、ホッとして……。
私はそうっと、国王様の胸に顔を埋めた。
大きくて、広くて、たくましくて……どこまでも温かい、国王様の腕の中。
なんだか、小さな頃に戻ったみたい。『このままずっと、こうして甘えていたい』なんて思ってしまう。
やっぱり、信じられないよ。
国王様が、桜さんに冷たかったなんて……。
こうしてるだけでも、優しさや温かさが伝わって来る。
父親が、娘を大事に想う気持ちが、しみじみと感じられるのに……。
「あの、国王さ――。……いえ。お父、様……」
勇気を出して呼んでみる。
国王様のこと、桜さんがなんて呼んでたんだか、全然わからないのに。
……ちょっと、軽率だったかな?
「……ん? どうした?」
国王様が自然に受けてくれたから、安心して先を続ける。
「えっと……実は、お父様にお訊きしたいことがあるんです。聞いていただけますか?」
「うむ。なんだね?」
「あの……急にこんなこと言って、驚かれるかもしれませんけど……。私、会ったんです。会って、いろいろ聞いたんです。その……神様に」
一瞬だけ、私を抱き締める手が、ピクリと反応した気がした。
驚いたためなのか、緊張しているためなのか、それはわからない。
でも、確実に、国王様は神様を知ってる。そう確信した。
お父様は、私から静かに体を離す。
くるりと背を向けて、窓辺までゆっくり歩いて行くと、外を眺めながら訊ねた。
「それで? 全て聞いたのかね? 私の……いや。初代国王とのことを」
お父様は、特に取り乱す様子もなく、落ち着いた声のままだった。
「やっぱり。お父様は知ってるんですね、神様のこと? 神様が、すごく子供っぽくて、短気で……ホントは、とても寂しがり屋だってこと」
お父様は、一度ちらりと振り返り……何かを思い出したかのように、フッと笑みをこぼした。
「子供っぽくて、短気で……か。確かにそうだな。……まったく。困った神様もいるものだ」
そう言いながらも、お父様の声には、優しさと親しみが込められていた。
まるで、イタズラ好きの弟のことでも、話してるみたいだった。
そんな温かさが感じられたことが、何故だか、無性に嬉しくて。
私は、ホッと息をついてから、次の質問を投げ掛けた。
「お父様は、神様と――元は、同じような存在だったって聞いたんですけど……。あの、それって、どういう意味なんですか? 私、神様の説明を聞いただけでは、よくわからなくて……」
しばらくの間、沈黙が続いた。
お父様は、ふと、何か思いついたかのように、私をじっと見ると。
「リア。これから、少し昔話をしようと思うのだが……聞いてくれるか?」
「え? 昔話?」
「ああ、そうだ。私の記憶も、だんだん薄れて来ているのでな。うまく話せるかどうか、自信はない。退屈させてしまうかもしれんが……それでも、聞いて欲しい」
「……はい。聞かせてください。お父様の話が、聞きたいです」
「うむ。ありがとう。……では、始めるとしようか」
お父様は、昔を懐かしむように目を細めると、遠い過去の記憶を、ぽつぽつと語り始めた。




