第6話 理解者
チャンバラごっこ――もとい、剣の稽古を終えた私は、額の汗を手の甲で拭い、師匠を振り返った。
……うん。
思った通り、まだ眠りこけてる。
「師匠! 起きてください、ししょーーーーっ!!」
近寄って大きく揺さぶると、ムニャムニャと、何やら聞き取れない言葉をつぶやいた後、師匠はパチっと目を開いた。
「う……?……おぉ~……。そーじゃったそーじゃったぁ。稽古、だったのぉ……」
「何寝ぼけてるんですか! 師匠が眠り込んじゃったから、稽古は勝手に済ませちゃいましたよ?」
「……おおー……。なるほどのぉ。……ふむ……むぅぅ……ふぉ? 『師匠』とは……誰のことかね?」
「あなたのことです。……すみません。オルブライト先生のことを『先生』って呼んでるんで、ややこしーなと思って。これからは、『師匠』って呼ばせてもらってもいいでしょーか?……ダメ……ですか?」
「ふぉあっほっは!……いんや、べつに構わんよ。どう呼ぼうとも、あんたの勝手さね。……けんどまあ、少々照れ臭いかのぉ……。ふぉあっほっは」
「では早速。――師匠。今日はここまでってことで、稽古は終わりにしてもいいですよね?」
ずっと居眠りしてたんだから、強いことは言えないはず。
そう思った私は、にっこり笑顔で、師匠にお願いしてみた。
「そうさのぉ~。……ふむ。構わんよ」
「ありがとうございます! じゃあ、これで失礼しま――」
「もう身についたかね?」
「……へ?」
唐突に訊ねられ、私は一瞬、ぽかんとしてしまった。
「剣術じゃよ。もうすっかり、身についたんじゃないのかね?」
「え?……いやっ、まさか! まだ習い始めてから、十日も経ってませんよ? その程度で身につくなんて、考えられま――」
「いやいやぁ。あんたなら大丈夫じゃろう? 一度目にすれば、たいがいのことはこなせるんじゃないかね?」
「――っ!」
師匠の言葉に、唖然とする。
『一度目にしさえすれば、たいがいのことはこなせる』?
どーしてそんなこと……師匠が知ってるの?
私……まだ誰にも、そんな話したことないのに……。
確かに、私は向こうの世界にいた時から(特に、スポーツに関しては、だけど)、一度目にすれば、だいたいのことはこなせてた。
こなせてた程度なら、まだよかったんだけど……。
本気でやってたら、それこそ、日本のトップレベルにまで、達しちゃってたんじゃないかと思う。
だから、嫌なヤツだけど……私はずっと、手を抜いてたんだ。向こうの世界では、何ひとつとして、真剣にやろうとはしなかった。
周りから、明らかに浮いちゃうのがイヤだった。
――ううん。イヤってゆーより、怖かったんだ。
……でも、そのことを……どーして、この人は知ってるの?
「ふぉあっほっは! そんな顔せんでも、ちょいと見れば、そうい人間じゃーっちゅうのは、わかっちまうもんさね。ワシが、特別な能力を持ってるっちゅうこっちゃあない」
「し……師匠……」
「だからのぉ。ワシなんかは、あんたにとっちゃあ、不必要な人間なんじゃろうて。……ふぉあっほっは。それでも、この老人にはなぁ、あんたみたいな子を見ていられるっちゅうのは、何よりも楽しい……毎日、褒美を貰えとるようなもんなんじゃよ。だからのぉ、お役目を辞退する気にゃあ、どぉ~しても、なれんかったのよ。……すまんなぁ、こんな老人の暇潰しに、付き合わせてしもうて」
そう言って、師匠はにっこりと笑った。
その笑顔は、まるで、祖父が孫を見守ってるみたいな……優しさと温かさを感じさせるような……心に、じんわりと染みて来るような笑顔で……。
何故だか、急に泣きたくなってしまって。
その後、私は涙を堪えるのに、すごく苦労した。
誰かが、私のことを、ちゃんとわかってくれてる。
そう思えたことによる、安心感。
嬉しさと感動と、ちょっぴりの切なさが、急激に心を満たして……溢れ出しそうになっちゃったのかもしれない。
「ありがとうございます、師匠。……不必要なんかじゃ、ないですよ。私にとっては、そういう人がいてくれたってことだけで、すごく嬉しいから……。だから、あの……これからも、よろしくお願いしますね」
『何を』お願いしますなんだか、自分でも、よくわからなかったけど。
気が付くと、そんな言葉が口に出てた。
私を見返す師匠の瞳は、とっても綺麗な……透き通るような海の色をしていて……。
『吸い込まれそうだな』なんて考えていたら、師匠は、全てわかってくれてるみたいな顔で、うんうんと何度もうなずいた。
それを見た私は、またホッとして……にっこりと笑い返したのだった。
先生にシリルにグレンジャーに……って、ヒーロー去った後なのに、何故続々と新キャラ登場!?
などと、驚かれている方もいらっしゃるかもしれませんが……。
この二人と、そして先生は、ギルルート(シリル)とカイルルート(先生とグレンジャー師匠)に関わって来るキャラですので、お披露目程度に思っていただければ……と思います。




