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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

偽り破りのオオカミショウネン

作者: 遠久ノ御方



 ——中学生になってから、あらゆる人の嘘を見抜けるようになった。

 

 それを、少年——狼森出雲は特殊能力として自覚していた。

 あれもこれも、どれもそれも、あちらこちらでも、嘘は蔓延る。


 大抵は誰もが嘘ついて生きている。それを見破れる出雲は、正義のヒーローのような気持ちになっていた。

 嘘をつかれて騙されている人を助ける。

 そんなことを続けていると、気づけば高校生になっていた。


「俺ももう高校生か……」


 いつも通り嘘つき探しをしていると、つんつんと、肩をつつかれた。

 なんだよ——と、振り返るとそこには、サングラスをかけ半袖短パンという格好の中年のおじさんだった。

 

 ——春っていっても、まだ少し寒いぞ?

 そんなことを思っていると、


「君、特殊能力を持ってるでしょ?」


「な……!」


 出雲の顔は驚愕の色に染まった。

 しまった、とすぐに顔を笑顔にした。


「やっぱり。安心して……僕も同じ特殊能力持ちだから」


 ——これは、もうバレているな……。


「わかったよ……。俺は嘘を見抜く能力を持っている。で、あんたは?」


「僕は熱、だよ」


「熱?」


 出雲が訊ねる。


「そう。こんな格好をしているのも、制御ができていないだけさ」


 出雲は能力を使う。


 ——嘘はついていない……か。


 ひとまず、嘘をついていないことがわかった。それだけで、嘘つきを何人も見てきた出雲にとって、良い判断材料になった。


「とりあえずは信用してやる。で、名前は?」


「人の名前を聞くにはまず自分から……って、そんなことはいいか。僕の名前は霧島さ」


「霧島?下の名前は?」


「それはちょっと恥ずかしいから言いたくないんだ」


 ——嘘はついていないみたいだな。こいつは信用できるかもしれない。見た目は胡散臭いが。


「俺は狼森出雲だ」


「うん。いい名前だね狼森少年。よろしくね」


 そう言って、右手を差し出してきた。

 出雲はその手をはたくと、


「で、要件は?」


 痛そうに手を抑えている霧島は、聴かれた問いに対し、少し驚く。


「え、バレてた?」


「どうせ、俺に協力しろ。とかだろ?」


「せーいかーい」


 霧島が楽しそうに言うと、出雲は呆れたようにため息を吐いた。


「絶対協力してやらないからな。俺はお前らみたいなやつとは行動を共にしない」


「まあ、そう言わず。君のその——いや、君がもし正義のヒーローになりたいんなら、ここへ来な」


 そう言い名刺を差し出す。そこには——、


『霧島特殊能力救済社』


「はあ、いらねえよ」


「まあ、そう言わずに、受け取ってよ」


 渋々受け取る出雲に満足した霧島は、帰っていった。



「すみませーん」


 出雲は玄関のチャイムを鳴らして、そう言った。

 玄関の横には——『霧島特殊能力救済社』と、書いてあった。



 あれから、一ヶ月ほど経った。

 出雲は今までと同じように正義のヒーローをしていたが、


「飽きたなぁ……」


 出雲は、寝転びながらもらった名刺を眺めていた。

 周りにはエナジードリンクの空き缶がいくつもある。目の前にはパソコン。おそらく徹夜でゲームをしていたのだろう。

 

「はぁ……どーしよっかなー」


 出雲は思考をやめて勢いよく立ち上がる。

 その眼には、期待の感情が渦巻いていた。


「やってやるか!」


 笑いながら言い放った。



「で、僕のところに来てくれたと……」


「ああ、そうだ。でも、他の人は?」


 霧島は静かに首を横に振り、


「残念ながら僕だけだよ。この救済社は最近できたからね。おまけにこんなひどい場所になっちゃって。特殊能力者は見つけてもくれないのさ」


 確かにこの『霧島特殊能力救済社』都心から外れた裏路地にあった。


 ——人もいなかったしな……。


「だから、自分から探していたってわけさ」


「でも、どうやって俺を見つけたんだ?」


 相変わらずサングラスをかけていて、眼は見えないが、霧島は不気味な笑みをする。


「たまたま、嘘を見破っているところを見ちゃったのさ。話しかけるのは相当な賭けだったね」


「はっ、本当かな!」


 出雲は嘘をついていないことを確かめると、安心しきった顔で言った。

 とりあえずは信じて大丈夫だと認識したようだ。


「たまにお前みたいに嘘をつかない奴もいるんだ」


「へぇ……」


 霧島は何処か含みのある声で返した。

 パンッと手をたたき、話を変える。


「それじゃあ、早速明日、仕事だから!もちろん報酬も出るよ!」


「わかった。で、どんな相手なんだ?」


「それはね——」


 くつくつと笑いながらサングラスを片手で押さえ、上を向く。

 

 ——何をカッコつけているんだ。早く教えろよ。


 そして、目を合わせて——目は見えていないが——言う。


「——特殊能力は透明化だよ」


 思いもよらぬ特殊能力に声を出す。


「透明化!?そんなのどうやって見つけるんだよ」


「普通に透明化を解除した後だよ」


「もし間違えていたら?」


「君が確認すればいい」


 霧島が急に別の部屋に移動した。

 ゴソゴソと物音がする。


 今出雲がいるのは応接室で、それ以外にも部屋はいくつかあるようだった。


「何やってるんだ?」


 声を張って霧島に聞く。普段あまり大きい声を出さないため、少し疲れた。

 返事はない——が、すぐに戻ってきた霧島は、


「これで、捕まえるんだよ!」


 取り出したのは虫取り網だった。

 出雲はすぐに立ち上がる。


「帰らせてもらう」


「ちょちょ、ちょっと待って!」


「なんだよ……ふざけているのか?」


 その言葉を否定し、必死に話し出す。


「ごめんごめん。でも、この会社の金銭的な面から、これしかなかったんだよ!」


「そんなにカツカツなのに、報酬なんてだせんのか?」


「もちろんさ!そんなに無計画じゃない。お金はないけどそれを解決する方法くらいはあるよ!」


 体の激しい動きからサングラスがずれ、霧島の眼があらわになる。

 出雲は初めて見る霧島の素顔に、イメージと違ったのか少し驚く。


 ——元気だな、うるさい。でも、嘘はついていない。


「あんた、なんでサングラスをかけているんだ?結構イケメンだぞ、イケおじってやつだ」


「そりゃ、どうも。じゃあ、今日は解散で」


 無理やり解散の方向に持っていこうとする。

 しかし、出雲にも止めるほどこの会社に居たいとは思っていないので、素直に受け入れた。


「わかった。帰らせてもらう。で、連絡は?」


「残念ながら、僕はケータイ持っていないんだ」


「は!?どう言うことだよ!」


「ま、いーからいーから」


 じゃあねー、と言って玄関を閉められた。


「ちっ、協力者に対する態度がなっていないだろ」


 と、帰り道で悪態をつく。


「それにしても、全く嘘をついていなかったな」


 自分の特殊能力がなくなったと、不安になったため、試す。

 30人ほどに聞いた。ちゃんと嘘を見抜いていた。


「まあ、あいつが正直者のアホってことか」


 遠くで警察のパトカーの音が聞こえた。

 

「家の方か?」


 何かが家で起きているのか、不安になった。

 その心配が杞憂で終わるように、期待しているが、家に着くと——家は、燃えていた。


「なんで!」


 出雲は走り出す。

 だが、静止の声は聞かず、家の前まで来ると、黒い煙を吸ってしまい、足を止めた。


「きみ!危ないよ!」


 近くにいた消防士が出雲を家から引き離す。


「でもっ、ここは!俺の家なんだ!」


「ここが君の家?ここには男の人1人しか住んでいないと聞いたよ」


 消防士が言う。

 そこに1人のスーツの男が近づいてくる。


「君は私ときてもらう」


「なんで!」


「今回の事件は、連続放火魔がやったことだ。だが、犯人の目撃情報がない。一切だ。君も何か心当たりは?」


 そんなことはどうでもいい。頭が混乱していた。

 まず、自分の家じゃない。そこが疑問だった。嘘じゃない。ここは自分の家だと、そう確信していた。


「わかった。ついていく」


 一度冷静になり、そう応えた。


 いくつかの質問をされた。

 出雲はいくら、ここは自分の家だと言ってもまったく信じてもらえなかった。

 関係ない質問もされていた。


「とりあえず。君は自分の家に帰りたまえ」


「——っ!」


 期待はずれだと言うような顔をされ、帰らされた。


「くそ!」


 拳を壁に打ち付ける。すると、指から血が流れ出した。

 自分の帰る場所を探し求め、見つけたのは——、


「——ここしかない」


『霧島特殊能力救済社』だった。

 チャイムを押す。時間帯的に迷惑だろうか、そんなことを思っていたが、


「やめとけ、俺らしくもない」


 ガチャリと、ドアが開く。


「で、どうしたの?」


 出てきたのは何やら汗をかいているサングラスの男——霧島だった。


「なんで汗をかいているんだ?って顔をしているね……これは僕の特殊能力が影響しているんだよ」


「あっそ、あと俺をここに泊めてくれ」


「なんで?」


「家がなくなった」


 少し沈黙の時間が流れる。

 わかった——と霧島は言い、出雲を家に招き入れた。


「で、何があったの?」


 風呂に入り、霧島の寝巻きを借りると、リビングのソファーでそう言った。

 霧島の家の家には違和感があった。生活感がないのではなく、ありすぎるのだ。

 まるで、無理やり作ったような、そんな部屋だった。


「そのままだ。家がなくなった」


 それ以上深くは聞かなかった。

 時刻はすでに12時になっていて、出雲は眠ってしまった。



 眼が覚めると、美味しそうな香りが出雲の鼻腔をくすぐった。霧島が朝食をつくっていたからだ。


「朝飯にしよう」


 と言い、霧島はリビングの少し低い机に朝食を置いた。

 だんだんと出雲の意識がはっきりしていく。

 出雲が完全に目を覚ましたことに気づくと、霧島が言う。


「今日は透明人間を捕まえる日だ。これでも食べて力をつけなよ」


「透明人間……俺の家を燃やした奴は、目撃情報がなく、監視カメラにも一切映っていなかった」


 へぇ、と霧島は気の抜けるような声で返事をし、


「そいつかもね」


 感情の色を感じさせない声色で言った。

 出雲の心にふつふつと、怒りが込み上げてくる。

 

「霧島、透明人間は罰を受けるのか?」


「そいつが罰を受けられるように、頑張るさ」


 霧島が嘘をついていないことが分かり、出雲はホッと息を吐いた。

 

 ——それにしても相変わらずサングラスをかけてんだな。


 いつもなら言葉にしていたが、今回は心のうちに留めておいた。

 出雲は自分の家を燃やされたことで、あまり話したくないのだろう。


「それじゃあ、行こうか。君の恨んでいる透明人間の元へ!」


「ああ!」


 出雲は立ち上がり、声を荒げながら応えた。



***



「あれが、透明人間さ」


 そう言って霧島は1人のサングラスをかけた中年男性を指さした。

 出雲は写真と顔を見比べてみる。一致した。


「あいつが……!」


「今は堪えてくれ……頼む」


 出雲は霧島を睨むと、いつものヘラヘラとしたふざけた表情ではなかったため、素直に聞き入れた。

 お願いを聞いてくれた出雲にホッとした霧島は慎重に標的に近づく。


「奴の名前は霧灯秀だ」


「そんなことどうでも良い。あいつは透明人間。それだけで十分だ」


「ま、そうだよね」


 コソコソと話しながら尾行していく。

 右へ左へ曲がっていく。そしてついたのは——、


「ここは……!」


 さびれた工場だった。

 中に入っていく。2人も続いて中に入ると、


「ふっふっふ!早く出てきなよ!お二人さん!」


 霧灯秀が仁王立ちで待っていた。


「誘われたか!」


「なんでバレてんだ!」


 出雲が喚く。街中ですれば迷惑だと思われるような声量で——だ。


「最初から気づいていたよ」


 右手にはナイフのようなものが握られている。


「くそ!逃げるぞ!ここは!」


 霧島が出雲の手を掴み、走り出す。出雲は腰が抜けている。無理やりにでも連れて行く。

 後ろからは追ってくる足音が鳴り響く。


「なんなんだよ……!この——放火魔!」


 霧灯に向かってそう叫んだ。結局は何もできない。

 ただ怒りの感情に任せて行動すれば良いものでもないと、出雲は学んだ。

 


「いやぁ、無理だったね」


 霧島はリビングのソファーに座りながら言った。


「あんたのせいだろ?」


 向かいの椅子に座る出雲が言う。

 それは失敗した霧島を責めるような眼だった。


「ま、そうとも言えるね」


 開き直った。そんな霧島に苛立ちを覚えた出雲は、


「あぁー!くそ!」


 近くにあった段ボールの箱を踏み潰した。

 ストレスをそれで発散していると、霧島が、


「考えようか、あいつにどうやったら勝てるのか——を」


「ああ、そうだな」


 出雲は一度冷静になり、霧灯を倒す方法を考える。


 -——どうすればいい……?


「そういえば、透明化しなかったね」


 ——透明化をしなかった……まさか、制限があるとか?


「制限があるとか……は、ありえるか?」


 霧島は出雲の意見に声を上げる。

 そんな反応をされた出雲は少し嬉しくなり、


「どうだ……あっているんじゃないか?」


「確かに……そう考えていた方が妥当だな」


 霧島は出雲の意見に納得した。

 だが——、


「それじゃあ、どんな制限なんだろう」


「それは……」


「あの時を思い出してみるとするかね……」


 あの時——逃げた時は、霧灯に誘われて、ナイフを持って追いかけられた。腰が抜けた出雲は無理やり走らされていて、後ろから追いかけられた。


「なんで追い付かれなかったんだろうね……」


「追いつかれなかった……腰が抜けていたのに、どうしてだ?」


 まさか——と続け、


「足が悪いのか?」


「そういえば、そんな映画あったね〜」


「透明化を使いすぎると、足を悪くする?」


「特殊能力には代償がある。それで、奴の代償は足を悪くすること……そういうことだろ?


 何やら不敵な笑みを浮かべながら言う。

 その意見を出雲は肯定する。

 

「ああ。そういうことだ。足を悪くするから、出来るだけ能力を使わないようにしている」


「じゃあ、走ろうか。絶対に追いつかれないように。残念だけど僕の特殊能力は使い道がないかな」


「確かにそうだが……お前の能力は一体なんなんだ?体温を上げる?それとも周囲の温度を上げる?」


「それなら君も暑いはずでしょ?」


「確かに……」


 霧島は、少し下がってきたサングラスをしっかりと整えて言う。


「実はわからないんだ。僕にもね……」


「わからない?俺は自覚していたぞ……能力を得た瞬間から」


「どうなんだろなぁ……まったく、わかんねぇや」


 少しはにかんだ笑みで言った。

 

 ——嘘はついていない……か。


 出雲は能力を使った——否。

 正確には能力は発動し続けている。

 知りたくない嘘も知ってしまう。それが苦痛で人間不信になってしまったのだ。

 

「お前みたいに……正直な奴は初めてだよ。世の中全員が嘘つきだと思って生きてきた。でも……でも……」


「もう、大丈夫さ。少し話をしよう」


 そう言って、霧島は出雲を抱きしめる。

 その日は胸襟を開いて話し合った。



 朝起きると霧島は先に起きていて、


「それじゃあ、リベンジと行こうか!」


 と、出雲に向けて言い放った。

 出雲はすでに昨日の語り合いから、お互いの話をしたため、霧島を信用しきっていた。


「おう!」


 放火のことなど忘れたように。

 初めて、友人と呼ばれる存在ができたからだろう。



***


「よぉ、昨日ぶりだな!霧灯——っ!」


「ふっふっ。そうだな」


「いくぞ、霧島!」


「ああ!」


 2人は走り出す。場所は昨日の工場だ。

 ナイフを持った霧島は、片手に持っていたスイッチを押した。

 重いものが床に擦れる音がする。扉が閉まっているのだ。


「まさか!」


「そのまさかさ!君はもう、逃げられない」


 出雲は高い位置にいる霧灯と同じ高さまでよじ登る。

 そして右手には——ナイフが握られていた。


 ——殺す気でいけ、そうじゃなきゃ、殺されるよ?


 霧島に言われた言葉を思い出し、斬りかかる——脇腹に衝撃が走った。

 出雲は吐血する。あまりにも強い力からか、内臓が潰れたのかもしれない。


「な……かま、か……?」


「違うよ〜」


 その声は聞き覚えのある声。


「……ま、さか」


 出雲の脇腹を蹴ったのは——、


「き……霧島ァ————ッ!」


 ——霧島だった。


「一応こっちは『ダブルむとー』って言われてんだから、舐めんなよ?」


「相変わらずダサい名前だな。それにしても、こんなガキをボコボコにしろなんて……面倒な仕事だ」


 出雲が体を動かし、睨みつけながら、


「お前、裏切ったのか!」


 横たわり血を吐き出しながら訊く。

 

「もともと敵だから、裏切っては……ない、よね?」


 ふざけた笑顔で言う。

 だが、シュンと感情が抜け落ちた顔になり、


「お前は相手が嘘をついているから、という理由で殺しを正当化し、自分はやっていないと——自分に嘘をついた。」


 後ろで腕を組んで霧灯が見下ろしている。

 だから——と続け、


「お前は俺と共に来てもらう狼森少年——いや、オオカミ少年」


「そんな……!」


 出雲は——オオカミ少年は涙を流す。

 全て思い出した。自分に嘘をつき続け、最終的には人に嘘をつく。

 それらを全て忘れ、まるで自分がヒーローにでもなったかのように、嘘から人を守った。


「じゃ、おやすみ〜」


 ちくりと、小さな痛みを感じる。

 こうして、オオカミ少年は意識を手放した。



「それにしても強く蹴りすぎたね。これじゃあ、死んじゃうかも?」


「大丈夫だ。すぐに組織の奴らがくる」


 霧灯が言った。


「いやぁ、今回も面白かった……!」


「悪趣味な奴だ」


 霧島はにこりと笑い、


「じゃあね、オオカミ少年」


 再度、そう言った。


***


「また捕まえたんですか!?」


「ああ。そうらしいな」


「霧島先輩はいつも先を行く。なんででしょうかね!」


 尊敬の念を孕んだ眼で、パートナーに聞く。


「しらん。自分で考えろ」


 元気な少女とは対照的に言うもう1人の少女は、


「そろそろ、被検体が運ばれるらしい。まったく、可哀想だな」


「なんですか?同情しているんですか?」


 元気な少女が無機質な声色で聞く。

 その質問に首を振り、応える。


「ちがう。客観的な事実を言ったまでだ」


「あっそ」


 興味を失ったように別の方向を向いた。


「あ!来ましたよ!センパーイ!」


「お、お前か!今回も楽しかったぞ!」


「次は私が行きたいです!」


「おう!自分で見つけるんだぞ!」


「はい!」



***


 オレの意識が覚醒すると、目の前は真っ暗だった。

 視覚も聴覚も嗅覚も遮断されている。

 だんだんと思い出して行く。


「————」


 声は出ない。


『外せ』


 機会を通したようなその声は、なぜか、聴覚を失ったオレの耳に入り込んだ。

 それは、聴覚を失った勘違いだったのか、真偽はわからない。

 しかし、そんなことはどうでもいい。

 

「嘘をつかれた」


 オオカミ少年か、オレにぴったりだな。因果応報って奴だ。

 だが、次は——失敗しない。

 必ず復讐する。霧島に。


『それがどうした』


「復讐する、霧島に。オオカミがお前の首をいつか、噛みちぎると言っておけ」


『切れ』

 

 喋れなくなった。

 霧島だけは絶対に許さない。

 必ずオオカミが、お前を噛みちぎる。

 そう、オオカミ少年は決意した。



「オオカミショウネン————ははは!楽しみだねぇ!」


 霧島が狂気を感じさせる笑いをしながらそう言った。


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