ろく。
それからも俺は陰日向なく鍛錬に勤しんだ。
擬似サッカーだけでなく、色々と。
なんせ相手は『ラッキースケベの百貨店』レベル。
使える小技を身に付けなければ、メグの『アンラッキースケベ』発動を防げる気がしない。
今のところ、主な被害者(?)は俺のみのようだ。父や使用人には発動しておらず、またメグの反応を見るに『今まではなかった』と思われる。
(……もしかしたら『攻略対象限定』で発動するのかもしれん)
俺は紛うことなきモブ面だが、立場的には『ビッチヒロインが真っ先に籠絡した相手』という、小説上の設定でも全くおかしくはない。
(ぬぬ……『物語の強制力』というやつか。 恐るべし小説設定!)
なにしろ俺は、『ヒロインを男爵家の養女にすることに異を唱えた嫡男(※モブ)』である。
小説上のビッチヒロインが『乙女ゲームのスタートに立つ為に』、まず手始めに男爵家嫡男を籠絡す──小説内では触り程度しか語られずに、或いは裏設定でのみ語られるレベルの扱いならば、充分考えられる。
当然ながら詳細は作品によって違うが、『男爵家の養女』、というだけでテンプレ要素は満たしていると言っても過言ではない。
「──さっきからなにを考えてんのよ?」
「いや……」
お茶休憩は恒例となりつつある。
メグはすっかり上手く茶を淹れられるようになった。
マグリッド先生と共にメグの淹れた茶を飲みながら、ふたりが仲良く談笑している中、俺はこれからについて考えていた。
「学園入学前に、女性の友人を作っておきたいところだな……」
「え?」
そう、女性の友人が欲しい。
メグだけでなく、俺と共通の……できれば子爵位くらいの貴族と伯爵位以上の高位貴族に、それぞれ欲しい。
伯爵位以上、とは言ったが、高位貴族の方の爵位は高ければ高いほどいい。
なんせ学園は寮生活だ。
『小説設定・あるある』的に『学園内では身分差は関係ない──等とうたいながらの小さな社交場』。
則ち、権力は大事。
それに共通科目や休み時間は俺が傍にいれるが、男女で別れる科目も多い。
寮は男子禁制なのでまだしも、学園内が危険だ。仮に『アンラッキースケベ』が攻略対象限定だとしても一人にはさせられない。
「メグにですの? うふふ、心配性ですのね」
マグリッド先生が揶揄うようにそう笑うと、メグもニヤニヤしながら乗っかった。
「……ははぁん、私をダシに女の子と仲良くなる気でしょ!」
「勿論、俺とも友人になってくれないと困るな」
「──はぁ?! なななななんで」
「そんなわけでマグリッド先生、誰か友人になってくれそうな方をご存知ないですか?」
マグリッド先生の経歴には触れないようにしているが、彼女はもともと高位貴族の出身。
彼女の友人あたりから、伝手はありそうだ。
「それは……まぁ、ですがメグはコミュニケーション能力も高く、マナーも着実に身に付けてますわ。 入学すれば自然とできるのではありませんこと?」
「いえ、共通の友人を予め作っておかないと。 メグの友人が俺と仲良くなかった場合、何かあった時に俺に報告して貰えない可能性が出てきてしまう」
「「!」」
「……ふ……ふん! 一人でだって切り抜けられるわよ! ……でもまぁ、そこまで言うなら……私だって女友達は欲しいし」
相変わらずツンデレなメグの横で、マグリッド先生は「ふふ、そういうことですか~」と上品に笑いながら言う。
そこには何故か、安堵が窺えた。
「てっきりジェラルド様のお相手探しも兼ねるのかと」
──ああ、確かにそれだとなにかと面倒かもしれないな。
「違いますよ。 ウチは商家ですし、爵位にはこだわりがありませんので」
それに、メグにきちんとした相手が見つかるまで、俺のことはお預けだ。
婚約者なんかできたら、それこそ俺が『婚約者にメグとの不貞を疑われるもメグを切り捨てることも出来ずに、婚約はこちらの有責で破棄。なんなら更なるざまぁが待っている』という、別の小説テンプレパターンを歩むに違いない。
『乙女ゲームに転生した小説』フラグを回避しても、そんなのは本末転倒……御免こうむる。
俺のことは兎も角、マグリッド先生の言葉のおかげでひとつ重要なことに気付いた。
(そうそう、メグが友人の婚約者を籠絡してしまっても困るな)
「むしろ、できれば第三者が付け入る隙のない程、アッツアツで仲の良い婚約者のいる女性が望ましいのですが」
「随分と限定的ですわね……でも心当たりは無きにしも非ず。 ──いいでしょう、承りましたわ!」
そう言ってマグリッド先生は、何故かメグに力強いサムズアップをして帰っていった。
そして何故かメグは「アンタももう休憩は終わりよ!」と言って、お茶休憩を乱暴に終了させた。
ツンデレというか、ツンギレである。
なにがキレる要素だったのだろうか。
……女性は難しい。




