プロローグ こうして私は引き篭もった
「どうしてそんな嘘つくの!」
悲痛な叫びと共に、私の頬を叩いた平手の痛みが忘れられない。
全ては私が浮気の誤解を解けなかったせいだ。
私は階段を踏み外し怪我しそうだった女性を受け止めたにすぎない。
何故この事実を彼女に上手く説明することができなかったのか。
私に足りない物は何なのか。
自分に足りない物を探す為に、自室に引き篭もった。
今の時代スマートフォンがあればインターネットを通じて、自分に足りない物を探求することができる。
私は変わる、そして次こそは誤解を生まない男になる。
この誓いを胸に自室に引き篭もった。
そして一週間後、私は飽きていた。
部屋に篭っている間にしていたこといえば動画を見たり、本を読んだり、
掲示板への書き込みだけだった。
自分の思う誤解の解き方に近い物を片っ端から目に通したつもりだったのだが、
動画を見るのも、本を読むのも、掲示板へ書き込むのも全て日常的にやっていることだった。
趣旨が違うとはいえ、平常時と似た行動を繰り返すと、どうやら心は落ち着いてしまうらしい。
生き物が平常な時を好むというのは本当なのかもしれない。
しかし紛いなりにも私は誤解の解き方を探求していたのだ。
もうあの時の様な思いはしない。
どんな疑問にも、柔軟に対処できる男になっているはずだ。
新しい自分を世間に見せる時が来た。