とある少女の憂鬱
中学から我が家に帰り着くとキッチンから声を掛けてきた母親に適当に返事をして自分の部屋へと向かった。
年頃の少女にしてはやや殺風景と言えなくもない部屋に入ると通学カバンを机の上に置いて崩れる様にベッドの上に倒れ込んだ。
「早く大人になりたい」
誰に聞かせる訳でもない呟きは彼女の遣る瀬無い想いの集大成だろう。
ベッドに顔を埋め幾度となく溜息を吐いている少女"道瓜麗那"は下校途中に見かけた光景を思い出していた。
女性が愛おしそうに赤ちゃんを抱いていてその横には顔が緩み過ぎてクチャクチャになってる男の人。
若い夫婦に新しい家族。
周りに居た人達もみんな自然と笑顔になってたと思う、私一人を除いては。
大好きなひとと愛し合って結婚して幸せな家庭を作る。
何処にでもありふれた世界の日常を目にする度にこの世界から弾き飛ばされる気分になる。
私には絶対に叶わない希望、辿り着けない未来を見せつけられて八つ当たりをする様に思いっきり睨んでしまった。
その場に居たくなくて逃げる様に帰ってきた。
「私に比べたらジュリエットは幸せよ」
大好きな相手から愛していると言って貰えるからと独りごちる。
埋めていた顔をチラリと覗かせて時計を見る。
時間を確認するとガバッとベッドから飛び起きて髪と制服の乱れを整える。
机の上やベッドの周り、壁のあちこちに貼られた幸せそうに写る写真たち、幼い頃から常に一緒にいた証。
楽しい時は一緒に喜び、悲しい時は涙を舐めて慰めあった思い出の数々。
其れ等を一頻り眺めた後、最近のお気に入りを手に取って優しく唇を落とす。
高揚した気持ちを数回深呼吸をして落ち着かせると何事もなかった様に部屋を出て行った。
大好きだけど愛していると言って貰えない相手に会いに行くのだろう。
自称、悲劇のヒロインで薄幸の美少女"道瓜麗那"は気付いていない。
大好きな相手にだらしない顔でハートの視線を送っている娘を母親が生暖かく見ている事を。
ご飯をあーんしたがったり鬼気迫る勢いでお風呂に一緒に入りたがる妹に痛い視線を送っている兄の事を。
あどけない顔の裏に黒い笑顔を見せている弟の事を。
独り暮らしをしたがる理由があんまりなので絶対に成人するまでは許さないと心に誓う父親の事を。
自称、悲劇のヒロインで薄幸の美少女"道瓜麗那"は気付いていない。
愛するカール君15歳は老齢だという事を。
ペット好きを拗らせてケモナーに至り犬用翻訳機無しで意思の疎通が出来ると信じても、
ミニチュアダックスのカール君に全てを捧げ、全てを受け入れてた事が全てノーカンになる事を。
自称、悲劇のヒロインで薄幸の美少女"道瓜麗那"は気付いていない。
あの駄犬は飼い主の事をなぁ〜〜んとも思っていない事を。
尻尾さえ振ってりゃチョロいもんだと馬鹿にしている事を。
なぜそんなことが判るのかですって?
それは私、猫界の女王ペルシャのミール様がカールに一番愛されてるからに決まってるじゃない。
当然でしょ!
此れが、なろう初投稿作品になりました
女子中学生の名前の読み方は
ルートビッヒ・リェーニァ
嘘です、ドウカレイナになります。
本編では大活躍する予定です、たぶん。