17/21
俳諧師から学ぶ文章テクニック
俳諧の弟子が師匠にこんな句を読み上げました。
「米を洗う 前に蛍が 二つ三つ」
これに俳諧の師匠が、よろしからず、と感想を。“に”だと、蛍が“宙を飛んで”いないというのだ。
前に蛍がただ存在して停止している図。悪く言えば死んだ蛍があるとも解釈できる……
そこで弟子は考えました。
「米を洗う 前へ蛍が 二つ三つ」
助詞を“に”から“へ”に変更してみた。
しかし、師匠はまだ渋い顔。蛍の動きが直線的で情緒が足りないという。A地点からB地点へまっすぐ飛ぶだけの情景に解釈できる……
さらに弟子は熟考して、
「米を洗う 前を蛍が 二つ三つ」
ここで俳諧の師匠が「よろしい」と答えた。“を”を加えることで蛍の動きが一方的なだけでは無くなりました。
夏の夜の水辺に蛍たちが“乱れ飛ぶ”ありさまが浮かびでたからです。
上記の三つの俳句はどれも日本語として、間違っていないし、意味は通じます。
助詞を変えただけの三つの俳句のわずかな違いを理解するのは難しいことでもあります。
だけれども日本語の微妙な味わいを吟味し、一字を大事にし、最高の文章にしあげる話として有名なお話です。
この俳諧師と弟子については特定できず、江戸時代の松尾芭蕉と宝井其角説。明治時代の中村秋香の「秋香歌かたり」説。落合直史「将来の国文」説があります。




