肩すかし。でも本気で怒る
一日一筆複数連題です!
お題「剣店㈱」「存在しない番組」「黄色のハンケチ」
剣には様々な種類がある。のはご存じだろう。
短剣、長剣、刀、ナイフ、グラディウス、ククリ、エストック、ダガー、カッツバルゲル、等々。
その全て、剣の技術の粋を集めた店がある。
それが、剣店㈱。㈱がついているのは決してここが株式会社だからではなく、初代店主の蕪良奈が自らの名前を都合よく入れた結果だ。
そんな店を十代受け継ぎ、十一代目に就任した株仲玲人は、うんざりしていた。
「何を紹介するべきか」
ギラリと光を反射する剣に向かって玲人はずっと眉間にしわを寄せている。
というのも、来月初めにこの剣店㈱がテレビで紹介されるのだ。
骨董好きの富豪が知り合いのテレビ局員にこの店のことを言ったところ、それが話題となったらしい。今頃そんなものを売って成り立っている商売も珍しい、と水面下で企画が進行している。
「うーん」
玲人が悩んでいるのはそんな企画で祭り上げられる一押しの剣。有名になるのならいっそ秘蔵っ子を出してしまおうと息巻いていたのだが、全部が全部秘蔵っ子のようなものでどれか一つは選べそうになかった。
「全部映してくれないかな」
さらっと無理難題を言い放ち一本の刀を手に取る。
「お前、ちょっと弱くなってんな」
手にしたのはスティレット。その時代横行した鎖帷子に対抗するために開発された剣。玲人はその先端の輝きが鈍くなっているのに気付き、手入れをしようとした。
ずしりとした重みを感じながらポケットに手を突っ込み、黄色い布を取り出す。
これは「叛化治」。かつて謀叛を治めた名将琢河原左房が愛用していたといわれる砥ぎ布。初代は左房から直接叛化治の作り方を教わり、それ以外で自分の剣の手入れはしなかった。
いつしか叛化治は代々伝わる家宝となり、初代の叛化治は家に丁寧に保管されている。玲人が使っているのは十一代目の叛化治。一代ずつ作り変えることによってより高等な剣の手入れを望んだ三代店主伊蔵の遺志が継がれている。
「待ってろよ、もっと輝かせてやるからなぁ」
にこにことしながら剣を砥ぐ。さながら少年のように手入れを進める玲人のもとに一人の青年が訪ねてくる。
「お前さ、騙されてんぞ」
店に入るや否やそんな言葉を発する青年の名前は磐城明嗣。幼いころから玲人と共に生きてきた幼馴染で玲人の良き理解者である。
そんな明嗣が放った「騙されてんぞ」という言葉。それに玲人は心当たりがなかった。
「オレオレ詐欺なんか引っかかってないが」
「お前が言ってた番組なんか存在してないが」
...
沈黙。決して手からは離さないが、玲人の手からスティレットが落ちるような音がした。
「え、存在しない...?」
無言でうなずく明嗣。
「新番組の可能性は...」
「ないけど。そんな番組露程も話題になってないけど」
黄色い叛化治によって砥がれた剣の切っ先が、鎖帷子から、電話先へ。
如何でしたか?
やばい今回のは支離滅裂ですねなんだ叛化治って。砥ぎ布なんてあるかよ。
あるっぽい。