プロローグ
重い瞼を開くと、水底からの赤い光の反射が眼に飛び込んだ。
赤燐――そう呼ばれる大掛かりな装置の中に沈められている褐曜石。その鉱石が放つという赤い光を間近で見た者には、次の瞬間に死が訪れるという。
しかし、揺れる水面に乱反射される赤い光は幻想的で美しく思えた。
先ほど穴の底から吹き上げた熱風をまともに受けたショックで気を失った彼は、体の左半身の皮膚が爛れる痛みによって、辛うじて目を覚ましたのだった。
傍に倒れている仲間は吐血して、既に絶命しているように見えた。なぜ自分だけがこの状況で生きているのか、彼は疑問に感じた。
痛む体に鞭を打って立ち上がると、彼は滑車の取っ手を目一杯回した。耳に障る金属音とともにゆっくりと穴を塞ぐ鉛の蓋がスライドし、赤い光を遮っていく。蓋がふさがれたことで辺りは真っ暗になった。そして、最後の力を振り絞り、手探りで傍にあるレバーを見つけて、それをゆっくり下ろすと、閉じられた蓋の下で水面に砂利が落とされる音が微かに聞こえた。
「これでいい……」
何とかやるべきことを終えた彼は、その場で床に倒れこんだ。そして、暗闇の中でそのまま死を待つことにした。
走馬灯のように頭の中を思い出が駆け巡った。
なぜ自分がここで死なねばならぬのか。どこで運命が狂い始めたのかを、薄れる意識の中で彼は思い出そうとしていた。