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「じゃあ千鶴、身体も冷えるだろうから中へ入ってよ。少しなら持て成し出来るよ」
琥珀は笑いながらそう言った。
しかし先程も見たが、店の奥にも家が繋がっている様には見えないし、他にも部屋があるという訳でもなさそうだ。
琥珀の言う中、とは何処なのだろう。
「悪いから気を遣わなくて良いわよ。雨宿りさせてもらっている身なんだし」
私は気になる気持ちを抑えながら遠慮した。
すると琥珀がまた笑いながら、私の濡れた髪を手ですいた。
突然でビクッとしたが、琥珀は直ぐに手を離して私の手を握った。そして少し強引に引くと、微笑んだ。
「こんなに濡れてたら風邪を引いてしまう。千鶴こそ、僕が勝手にしてるんだ。気にしないで」
琥珀の優しい笑顔を見て、ここは断ったら逆に失礼だと思って「じゃあ……」と、御言葉に甘える事にした。
琥珀は私の手を握ったまま、精算する台まで歩いた。そして琥珀が菓子棚を軽く押すと、まるで隠し扉の様にキィッと開いた。
こんなになっていたら気付くはずもない。
琥珀は私の手を離すと、「どうぞ」突然中へ通してくれた。