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勇者、目指してます。  作者: とんび
世界を救う少年
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世界を救う少年~7~

♪♪♪


 どーしよ♪ どーしよ♪ どーおしたらいいのかな?♪ そーよ♪ 断れば♪ いーいのです♪ …………いや、歌ってる場合じゃないよ。本気でどうしよう。勢いとはいえ、まだ数回しか話したことのない男の子の家に遊びに行くだなんて。しかもそれが今日だなんて! もう考える時間もなくなってきてるだなんてっ! ……これも全部、光貴のせいだ。あのバカが尾行なんてしなければっ! いや、そもそも告白をめちゃくちゃにしなければっっ!! いやいや、そもそもそもあんなにバカでさえなければっっっ!!!


 てか、もう今更だけどね……。私は光貴のバカさ加減を計算して生きていかなきゃならないの。そういう運命なのよ。ああ、神様。どうか、私をあのバカ呪縛から解放してください……。


 私は瞳に溜まっていた涙を拭うと給食の配膳を待つクラスメイトの列に並んだ。ひとまず、腹が減っては戦もできぬと言うやつだ。ご飯を食べてお腹いっぱいにしてから改めて考えよう。


 さてさて、今日のご飯は何でしゃろー? ……ししゃもだっ! しかも子持ち! こ、これは今日はついていますなぁ、うっしっし。


「おい、お前、にやにやするな。気持ち悪いぞ」


 むっとして顔を上げれば、配膳着を着た光貴が配膳していた。相変わらず、サイズが合わないのか袖や帽子ががだぼだぼで、一人だけ小学生が混じっているのではないかと錯覚してしまうほどだ。


 それにしても相変わらず頬の痣が痛そうだった。今朝見たときはびっくりして思わず声を掛けてしまったけど、「うるさい。貴様の毛虫眉毛よりはマシだ」と返されちゃったら、もう心配したくも無くなるよね。……思い出しただけで腹が立ってきたっ。そうじゃなくてもここのところ光貴のことがムカついてしょうがないってのに!


「しゃべりかけないで」


 私が素っ気なく突き放すと珍しいことに素直に諦めて光貴は口を閉じた。はあ……よりによって光貴がししゃも当番だよ。こいつのことだから絶対小さいのとか、卵崩れてるのとか私に渡す気だよ。と、思ったのに、予想に反して最も大きく立派なししゃもを皿に載せてくれる。


「おお……」


 あまりの大きさに感嘆の声を漏らしていると、もう一匹載せられた。ん?


「俺のだ。やる」


 ……物で釣ろうってのか? 甘いな光貴。


「ゆ、許したわけじゃないけど、もらっといてあげるっ」


「……おう」


 ほ、本当に許したわけじゃないんだから! ……なんだか恥ずかしくなってしまって、さっさと残りの卵焼きとトマトとフルーツポンチをもらって席に着いた。しばらくすると配膳が終わり、代表で光貴が「いただきます」の号令を掛けた。途端に騒がしくなる教室。


 私も後ろの席のミキちゃんと食べようと席をくっつける。ミキちゃんは神之宮中学に入学して最初にできた友達で、大人しくて、ちょっと恐がりで、可愛らしい女の子――


「律、話がある」


 憮然とした面持ちで光貴が話しかけてきた。ししゃものこともあるし、こいつはこいつですごく反省しているのかも知れない。少しだけなら話を聞いてやっても良いかなという思いが芽生えていた。


「な、なによ。ししゃも食べるんだから手短にしてよね」


 光貴は突然、勢いよく頭を下げると大声で言った。


「悪かった! 本当に俺の勘違いだったんだ!」


 こ、光貴がこんなに素直に謝るところ、初めて見た……。じゃなくてこれじゃあ昨日の放課後の二の舞じゃない! ミキちゃんもどこか熱っぽい視線でこっちを見てるし。ああ、そんなに顔を赤くしないで! これはそんなんじゃないんだから!


「わ、わかったから、もう良いから! あんたがまともになってくれたならそれで――」


「これを見てくれ」


 ずいっと差し出されたのは一枚のカード。



『Dark Dirty Organization

code name “Scotch”

No.132-224-0087-34』



 裏には磁気を読み込むためのラインとICチップのような物まで埋め込まれていた。これは……。


「DDOのメンバーだけが持つことが許されるDDOメンバーズカードだ」


 光貴が深刻な面持ちで辛そうに言葉を紡いだ。


「ちょ、ちょっとまってよ! DDOってあんたの妄言じゃなかったの!?」


「残念だが、妄言じゃない。現実に世界はDDOによって侵略されようとしている」


「そ、そんな……。でもこのカード、どう見ても本物にしか……」


「ああ、すごいだろ。俺が作ったんだ」


 満面の笑みでそうのたまった光貴に私も笑みを返してやった。


「ていっ!」


「ああっ!」


 そしてDDOカードは私の手によって窓の外へ。おー、よく飛ぶなぁ。


「貴様っ! あれの元はTUTAYAのカードだぞ! 勝手に使われたらどうするつもりだ!」


「あんなにしておいて使えるわけないでしょっ! バカ! もういい! 二度と話しかけんな!」


 その後も光貴は私に話しかけてきていたが、私は完全に無視することに決め込んでミキちゃんとだけ話しをしていた。私の後ろにいる光貴が気になるのかミキちゃんはずっと縮こまったままだったけど。全部光貴のせいだ。

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