第八話 欠陥人間
憂鬱だ。
合コンなんて、いったい何年ぶりだろう。
酒を飲むのは嫌いじゃない。けど、それに女がつくのは微妙だ。
俺はどちらかと言うと口下手だ。女を口説くのは苦手だし、一言二言話しただけで、恐いと泣かれた事もある。
どうやら俺は、特に親しくない異性と話をする時、緊張のあまりより無表情に、より抑制的になる傾向があって、それが相手を怖がらせる要因になるらしい。
別に堅物というわけでも、清廉潔癖というわけでもない。
ただ、女と上手く付き合えた経験が少ないから、苦手なだけだ。
別に好きな女がいるわけでも、特定の恋人がいるわけでもないから、遊びで付き合うくらいなら悪くない。相手がいればだが。
だけど、まともに女と付き合える自信は正直ない。
自分の事で精一杯で、できる事なら余分な時間は、自分の勉強に充てたいし、仕事もしたい。
この世にデートも気遣いも凝ったプレゼントも必要ないけど、抱かせてくれるという女がいたら付き合っても良い。ただし、愚痴や文句は聞きたくないし、安眠・休息・プライベートの侵害・妨害はされたくない。
勿論そんな都合の良い女はいないし、だいたいがそれじゃ恋人じゃない。
何か問題があるとしたら、恋をしてないのが問題だろう。
恋愛感情なんかなくても女を抱く事は可能だが、ビジネスじゃなければ、たいていは色々面倒な事になる。
好きでもない女のための苦労や面倒なんて正直ごめんだ。
『覚は私のこと、そんなに好きじゃなかったでしょ?』
そうじゃない、と反論できなかったのは、本当にショックだったからか、それとも実は図星だったからだろうか。時間が経つ程に、自信がなくなる。
俺が、有子を愛していなかったとすれば、俺はただの一度も女を愛した事のない薄情な男なんじゃないか。俺は本当は誰も愛せない人間なんじゃないかと思うと、とても恐くなる。欠陥人間としての烙印を押されたみたいで。
深く考えない方が良い。あまり考え過ぎない方が良い。
だいたい俺はしつこ過ぎる。何年前のことだと思ってるんだ。きっと有子は忘れている。
別に有子に未練があるわけじゃない。有子を思い出しても、少しも苦しくはない。過去のことだ。
気になっているのは、あの言葉だけ。鮮明に覚えているのは、あの時の言葉と口調だけだ。他にはない。
たぶん俺は執念深い質なんだろう。だけど、有子には何の想いも感じていない。好きでも嫌いでもない。有子の顔は、思い出せそうで、もう思い出せない。俺は薄情な男だ。
忙しい日々にまぎれて、忘れられないと思った記憶ですら、簡単に忘れる。
俺が恐いのは、たぶん自分自身だ。