第七話 副幹事
日本は温泉・銭湯などが世界一多い国ではないかと思う。全国各地至るところに大小様々な施設がある。
スパ、つまり天然温泉は、わざわざ山や郊外まで行かなくても、市街地にもある。天然や源泉にこだわるのは、つまりその効能を期待するからだ。
癒されたい。それは身体だけではなく、心も含めてだ。だから、いくら効能の素晴らしい天然温泉でも、不潔なところへは行きたくないし、内装も悪いよりは良い方が良い。
なるべく落ち着ける雰囲気の所に行きたいと思い、同僚に相談すると、
「じゃあ、女性陣も何人か誘って行くか」
と言われた。
正直言うと、一人で行きたかったのだが、なんとなく断り辛い雰囲気になってしまったので、仕方なく男女六人で行く事になった。当然、食事と酒付きである。しかも、言い出しっぺの一人という事にされてしまい、副幹事に任命されてしまったのは、大きな計算違いだ。
独身の男三人、女三人という組み合わせは、もしかしなくても狙っているだろう。
「……高杉、お前、彼女いたんじゃなかったのか?」
幹事役の同僚、企画担当の友人に尋ねると、
「それはそれ、これはこれ。だいたいな、これは彼女イナイ暦五年以上のお前のための企画なんだぞ」
「頼んでない」
有り難迷惑だ。
「そういうこと言うな。梶木もノリノリだし、受付のユキナちゃんだって喜んでるんだから」
「誰だ、それ」
受付なら知らない筈はないが。
「深川由貴奈ちゃんだよ。今年入社の」
「あの内巻きロールの新人か」
「そ。可愛くて巨乳の」
「巨乳? そんなに大きかったか?」
「いや、Dくらいだけど。だけどそれくらいありゃ十分だろ? それともお前、オッパイ星人だっけ?」
「別に。あまりこだわりはない」
ただ、面倒臭いのと煩いのは苦手だ。
「良く見てるんだな」
「毎日見る子のチェックくらいするだろ?」
「顔は見るけど、それから下は別に。セクハラだとか何とか言われるのは面倒だ」
「……お前、渇れてるな」
そんな事言われたくない。
「別に渇れてるわけじゃない」
たぶん好みだったらチェックするだろうけど、そうじゃないから見ないだけだ。
「お前、トシのワリにふけてんだよ。ユキナちゃん、俺とお前が同期だなんて思わなかったって言ってたぞ?」
「……そんなに老けてるか?」
「見た目はそれほどじゃねーけど、言動がオッサン臭いだろ?」
「…………」
ちょっとショックだった。
「ま、俺が二十六歳くらいで、お前が三十歳らしいから、共にプラマイ二歳ずつ? そんなたいした誤差じゃないけどな」
それはそうだが、なんとなく複雑な心境だ。頼もしく見られるとか、貫禄があると見られるのなら嬉しいが、老けていると言われるのは。おとなげないと言われるよりは、確実にマシだが。
「高杉は深川狙いなのか?」
「いや、ユキナちゃんは惜しいけど、お前に譲ってやるから、ガンガン行け」
「…………」
もしかして、始まる前から、既に決定事項なのだろうか。
「選択の余地はないのか?」
「来生ちゃんは梶木のお目当てだし、俺はユキナちゃんがダメなら、アキちゃん狙うから」
「なら、お前が深川でも良いんじゃないか?」
「彼女にバレると殺されるから、口が堅そうなアキちゃんの方が良い」
「…………」
ため息をついた。
「……嫌だと言っても拒否権はないんだろ?」
「贅沢言うな、井上。一番若くて胸が大きいユキナちゃんだぞ。嬉しくないのか」
「向こうにだって選ぶ権利はあるだろ?」
すると高杉はニヤリと笑った。
「安心しろ。幸運の女神はお前に微笑んでいる」
俺は深いため息をついた。