第十四話 アリの人生
アリとキリギリスどちらかと聞かれれば、たぶん俺はアリだろう。冬になったら死んでも良いとはとても思えない。
石橋を叩いて渡りたいし、見えない未来の不安のために備えて構えて生きていたい。
だから決してキリギリスになりたいとは思わない。
それでも羨ましいと思うのは、自分が決してそうなれない事を知っているからだ。方向性はともかくそこまでしてやりたいと思える事がないからだ。
やっている内容事態はどうでも良いし、興味ない。
仕事は好きだし、誇りもある。仕事内容によっては満足感や充足、カタルシス、達成感も十分得られる。
責任も義務も軋轢もない世界は羨ましい。だが、俺は遊んで暮らしたいとは思えない。それはかえって苦痛だ。
俺は仕事や勉強以外にはあまり取り柄がない方だから。
スキューバダイビングやヨットセーリングは勿論、ビリヤードやダーツなんてやった事がない。
普通の生活していたら、ヨットなんて生で見る経験もない。
どうしたらそんなに色々やる暇があるのか不思議に思うが、遊ぶために生きているのなら、そういうものなんだろう。
俺には想像もできない世界だ。
中島理子とメアド交換して別れた。向こうからせがまれたから教えたのだが。
一つだけ質問しても良いと言われたなら、聞いてみたい事がある。
何故、そんなに遊びたいんだ?
そこに何か得られるものはあるのか?
それによって、お前は何か満たされたり、達成感やカタルシスを得る事ができるのか?
それは、それ以外の全てに優先される程に、重要な事なのか?
しまった。これじゃ一つじゃないな。
聞きたいのは、遊びという要素は、人生の中心に据えられるものなのかどうか、だ。
それ以外の全てに代えられぬ程に重要なのかどうか。
俺には理解できない感覚だから。
そうなりたいとは思わないが、知らない感覚だから興味がある。知りたいと思う。
理解したいとは思わないが。
世代の違いなのか、性格・感性の違いなのか。後者だと思いたい。
変な女だけど、迷惑被らなければ、目の前でうろつかれなければ嫌いじゃないと思う。
会って嬉しいタイプの人間じゃないけど、俺に無関係なところで楽しそうにしている分には、一人くらいなら知り合いにああいうのがいても良いかもしれない。
迷惑かけられないならという注釈付きで。
見ていて苛々するから、そばにはいて欲しくない。
だから、赤の他人あるいは、顔見知りの距離でいたい。
確実に振り回されそうだから、それ以上の関係にはなりたくない。
まともに相手なんかしたら、胃が痛くなるのは確実だ。
俺は静かで平穏な、安定したアリの人生を送りたい。
少なくとも、騒がしく人迷惑なキリギリスに振り回されて、平穏な生活を乱されたくはない。
暫く更新停滞して、他の小説を書きます。
すみません。