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Part,27

 鳥のさえずりに、まりいは重いまぶたを開けた。

 視界に映ったものは見知らぬ部屋に見知らぬ天井。

「……?」

 ここは一体どこなんだろう。

 そうだ、シェリアを助けにラズィアにむかってシェリアと服を交換して、それで――

「起きた?」

 元気な声とともに扉が元気よく開けられる。そこには数日振りに顔を合わせる公女の姿があった。

「もう大丈夫なの? アクアクリスタルは?」

 体を起こし、まりいはシェリアに尋ねる。

 そうだ。偽物だとばれて捕らえられそうになった。そこにショウが駆けつけてくれて……。まりいはそこからの記憶がなかった。

「ちゃんとここにあるわ。ほら」

 シェリアの首元は金色の鎖で輝いていた。その先にあるのは青い宝石。

「あなたが取り返してくれたのよ。ショウと一緒にね。

 ここに来るまで苦労したんだから。石とショウをつかんだままなかなか離さなかったもの。よっぽど必死だったのね」

 シェリアの言葉にまりいは瞬時にして顔を赤らめる。本当に記憶になかったのだ。アクアクリスタルを取り戻すことに必死で、ショウが来て『もう終わったんだ』って言ってくれたから安心して――

 一人うろたえているまりいをよそに、シェリアは窓を開けた。そこから入ってきたのは涼しい風と日の光。

「着替えたらちょっと外に出てみない? ずっと寝てるのも退屈でしょ?

 まずはリューザのところに行って、それから街ね。一日中かかるから覚悟しときなさいよ」

「え?」

「シーナが言ったんでしょ? 『街を案内して』って」

 いたずらっぽく笑うシェリアを見て、まりいも自然と笑みがこぼれた。もう大丈夫。ご両親ともちゃんと仲直りできたんだ。よかった。本当によかった。

「アタシちょっと外に出てるわ。早く準備してよね」

 本当に終わったんだ。騎士団が来て公爵も捕まって、アクアクリスタルもちゃんと取りもどすことができて。

 遠ざかる後姿を、まりいは嬉しそうに見送った。



 その頃、ショウは一人の騎士と話をしていた。

「無理を言ってすみませんでした」

「元々あの公爵もいい話は聞いてなかったからな。陛下の勅命だったんだ。そんなに気に病むことはないさ」

 赤毛の大柄な男――リネドラルドの騎士団長は、そう言ってショウに視線をおくる。

「ちょっと見ない間に大きくなったな。背も伸びたんじゃないのか?」

「……そんなに伸びてない。同年代に比べたらまだ小さい方」

「なんだ。背気にしてたんだな」

「ギルドおじさんっ!」

 顔を赤くして怒鳴る少年を見て、団長は――ギルドは笑みをもらした。

「そうそう。子供はそれくらい可愛げがないとな」

「俺はそんなんじゃ――」

「子供だよ。お前は」

 再び視線を向けられて、ショウは言葉を失う。それは先ほどとは違う鋭いものだった。

「確かにお前は強いし賢い。だがな、それは同年代の連中から見ての話だ。

 所詮お前はまだ子供なんだよ。知らないことのほうが多すぎる。無理に強がろうとするな。父親の姿を追い続けるのもどうかと思うぞ?」

 少年の返事は返ってこない。それは事実を肯定しているからか他のものからなのか。苦笑すると、ギルドはショウの頭上に手を置いた。

「俺も陛下――レインもお前のことを心配してるんだよ。もちろんアスラザも……トキサもな」

 ギルドの大きな手の下で、ショウは一度だけ体を強張らせる。それは親しい者の名を聞いたからか、それとも他のものからなのか。

「無理に今の仕事を続ける必要はないんだ。なんなら前みたいに俺が口を利いてやってもいい。そうすりゃゆくゆくは騎士になれる。お前には素質もあるし世が世ならいっぱしの貴族なんだからな」

「……ごめん。できないよ」

 ギルドの手の下で、ショウは小さくつぶやいた。

「 今度で最後なんだ。王からの命もうけているし。

 私情は関係なく、この依頼は最後までやりとげたい。……たとえどんな結果になったとしても」

「そうか」

 ここまで言われれば引き下がるをえない。全く誰に似たんだか。ギルドは苦笑すると手を離した。

「ショウーー?」

 自分を呼ぶ声に、少年は顔をあげた。そこには先ほどまでのあどけない表情はない。

「行くのか?」

「ああ」

「たまには顔を見せろよ。俺達はお前の『おじさん』なんだからな」

「ありがとう……おじさん」

 それだけ言うと、少年は姿を消した。少年の後姿を見送りながら、ギルドは笑みを深いものに変える。

「俺はずっと独身だし、レインも子がいなかったからなぁ。だから余計あいつが息子のように思えてしょうがないんだろうな」

 やがて、自分を呼ぶ部下の声に彼自身も場を後にする。

「アスラザ、息子は大きくなってるぞ。だから、お前も早く顔を見せてやれ」

 ここにはいない友人につぶやいた言葉は、誰に聞かれることもなく空にとけた。



「ショウどこにいたの?」

 少年の姿を見つけシェリアは声をかけた。

「騎士団の団長と話してた。もう少ししたら持ち場に帰るってさ」

「そう……」

 ショウの横顔を、まりいはまじまじと見つめる。やっぱりショウはすごい。あんなすごい大人の人達と会話ができるなんて。

 もっとも、少し前まで彼自身が子供だと諭されたばかりだったのだが、まりいの知るところではない。

「それで? 用があって呼んだんだろ?」

「そうそう。リューザが呼んでるの。二人に来てほしいって」

「神官長が?」

「ほら早く早く! きっと待ちくたびれてるわよ!」

 シェリアに腕をつかまれ、二人はずるずると神殿にむかった。


「お二人とも、どうもありがとうございました」

 まりいとショウの姿を認めると神官長は深々と頭をたれた。

「頭を上げてください。私そんな立派なことしてないです」

 うろたえながら答えるまりいをショウは苦笑しながら見ていた。立派かどうかは別として、とんでもないことやらかしてくれたくせに。

「いいえ、育ての親として礼を言わせてもらいます。わたしにはこれくらいのことしかできませんから」

 再び頭を下げられて今度こそ二人は恐縮してしまう。

「リューザ、他にも用があったんじゃないの?」

 シェリアのわざとらしい咳払いに神官長は笑みをもらした。

「そうですね。では役者もそろったようですし本題にうつらせていだだきましょう」

 リューザの含みのある言葉に、まりいとショウは顔を見合わせた。

「ミルドラッドにあるアクアクリスタルは二つ。フロンティアを求めるための手がかりなの。それはもう知ってるわよね?」

 シェリアの言葉に二人はうなずいた。うなずきながら、二人別々のようで同じことを考えていた。


 確かにアクアクリスタルは成人していない皇族の女子しか扱えないみたいなこと言ってたからな。

 そういえば神官長に聞かれて変なこと言ったな。『相棒』って、今考えるとすごいことじゃないのか? ……まあ、深い意味はなかったけど。


 確かにラズィアで公爵がそんなことを言っていた。でも石は少し光っただけで何も起こらなかったし。その後ショウが助けにきてくれて。そのまま抱きついて倒れた――ってシェリア言ってた。それって……


「二人ともどーしたの?」

 シェリアの言葉に二人は慌てて我にかえる。

「なんでもない。話を続けて」

 ショウの言葉にまりいはこくこくとうなずいた。首をかしげた後、公女は話を進めた。

「アクアクリスタルは二つではじめて道を示す。『大切な想いはここにある』『離れていても願いは叶う』……」

 言葉とともに、シェリアは二つの石を重ね合わせる。

「アムトリーテよ、汝の娘、シェリアの名において道を示したまえ」

 途端にあたりがまばゆい光に包まれ視界がさえぎられる。

 視界が元にもどったのはそれから数分後。四人の目の前に現れたのは全てが青い色の女性――水の精霊、アムトリーテだった。

「水の主よ。勇敢な子供達に道を示してあげてくだされ」

 年老いた神官にアムトリーテは微笑むと、一条の光となって消える。光が指し示す方向は、東。

《ありがとう。姫を守ってくれて》

 去り際に、まりいは精霊の声を聞いたような気がした。

「これでアタシと石の役割は終わりね」

 そう言うとシェリアはペンダントをはずし、まりいの首にかける。

「これはあなたが持ってて」

「でもこれって大切なものなんじゃ――」

「アタシがいいって言ったからいいの。大丈夫。アタシはこっちを持ってるから」

 そう言って金色の鎖を自分にかける。

「お父様達だっていいって言ってくれたもの。それにリューザのお願いでもあるんだから」

 神官長の方を見ると、始終変わらぬ笑みで三人を見つめていた。

「石は役目を終えました。今回の功労者であるあなたが持っていてください。護符としての役目は充分にありますよ」

 ここまで言われると断ることができない。まりいは素直に受け取ることにした。

「この一件はもしかするとみなさま方にとっては吉兆だったのかもしれませんね」

『え?』という視線を向けた三人には目をくれず、神官は笑みを浮かべながら淡々と話す。

「この石は確かにフロンティアとかかわりがあります。ですがあくまで道を示すだけ。しかもミルドラッドの血筋をひく女性――シェリア様だけしか扱えないんです。

 そこから先は、当人の努力次第。どこで情報を手に入れられたかは存じませんが、公爵も愚かなことをなさいましたね。野心など持たなければ安定した暮らしができたものを。まあこの国のためにとってはよかったのかもしれませんが。

 ……みなさまどうされました?」

 神官の問いかけに三人は慌てて首をふった。

 もしかしたらこの街で一番すごいのは公主ではなくこの人なのかもしれない。三人の思考がみごとに一致した瞬間だった。

「さ、話はここまで。これから街に行くわよ?」

 軽い咳払いをしてシェリアが二人に言う。

「悪いけど俺はパス。仕度がまだできてない」

「そんなの後からすればいーじゃない」

「そういうわけにもいかないだろ。明日出発するんだから」

 明日。その言葉に二人は口をつぐむ。

 そうか。もう明日になったらミルドラッドから離れるんだ。シェリアともお別れなんだ。

 でも、これは悲しい別れじゃない。だったら今を楽しむしかない。

「仕度がすんだら後から行く。だから二人で行ってこいよ。約束してたんだろ?」

「わかった。じゃあ先に行ってる」

 少女二人は約束を果たすため街へくりだした。

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