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Part,13

 シェリアに揺さぶられ、少年は目を覚ました。

「ショウ、起きて。シーナがいなくなったの!」

 焚き木の火は消えていた。自分でも知らず知らずのうちに熟睡していたらしい。

「……なんだって?」

 まだ半分しか覚醒してない頭を軽くふりながら、ショウは立ち上がる。

「だから! シーナがいなくなったの!」

 いらただしげにシェリアが言うと、ようやく彼の頭は正常にもどった。

 馬車の荷台に駆け寄ると、本来ならそこで眠っているはずの少女の姿が見当たらない。

「散歩じゃないのか?」

「そうかもしれないけど。危険じゃない?」

 公女の指摘は正しかった。いくら結界をはっているとはいえ、そこを離れれば危険であることに変わりはない。ましてや今は夜中なのだ。

「あいつの行きそうな場所は? 思い当たる場所はないのか?」

「思い当たる場所……」

 しばらく考えるそぶりを見せていた公女様は、少ししてポンと手をたたく。

「そうよ! あそこだわ!」

「あそこ?」

 眉をひそめるショウに、シェリアは視線を向ける。

「ほら、あの湖。夕食の時に三人で話したでしょ?」

『こんなところに湖があったんだ』

 確かに話した。

『俺もさっき見つけたんだけどな。ああいうところは浅いようで実は深かったりするからな。むやみに近づかないほうがいい』

 だが、注意もしたはずだ。いくら記憶喪失とはいえ、そんな無謀なことをしなくてもいいだろ。

 ショウは胸中でつぶやく。だが文句ばかり言っていても仕方がない。

「捜してくる。シェリアはここで待ってろ」

「嫌よ。アタシもいくわ」

 世間知らずの公女様がついてきたところでしょうがないだろ。足手まといになるのがオチだ。

 そう言おうとして振り返り、ショウは口をつぐんだ。なぜなら目の前の公女様の目が。あまりにも真剣だったから。

「気づかなかったのはアタシの落ち度だわ。でも、シーナは大切な友達なの。友達を捜すのは当然でしょ? お願い。足手まといにはならないから」

 真摯しんしな瞳。彼女なりに責任を感じているのだろう。

 落ち度と言われれば、ショウ自身そうだった。ある程度のことは教えたし大丈夫だろうとたかをくくっていた。素人は何をするかわからない。もっと考慮すべきだった。こっちは探検家、プロなのだから。

 それを口にしようとしてショウは再び口をつぐむ。今はそんなことをしている場合じゃない。反省なら、あとからいくらだってできるのだから。

「わかった。その代わり俺のそばから離れるな」

「うん!」

 こうして馬を残し二人は夜に消えた。

 実際、生命の危機と言われるような事態にはならなかったのだが。

 代わりに、二人は黒髪の少女からとんでもない事実を聞かされることとなる。

「ショウとシーナって、知り合ってから長いの?」

 道の途中でシェリアが問いかける。

「ミルドラッドに来る少し前だから時間的には君と大差ない。ジアノの少し前の道で倒れてた」

「倒れてた?」

 不思議な言葉にシェリアが怪訝な顔をする。

「文字通り倒れてたんだ」

 いや、あの場合は寝ていたと言った方がいいのかもな。ふと少し前のことを思い浮かべショウは苦笑した。

 リネドラルドへ向かう途中で出会った黒髪の少女。そのままにしておくのも気がひけたから宿に運んで。

 本当なら、目が覚めた時点で宿の主人に事情を説明して別れるつもりだった。だが、いざ目を覚ましてみると自分のことがわかなないと言う。

(『これは夢ね』なんて変なこと言ってたしな)

 もちろん、それはまりいが本当に記憶喪失だからというわけではなく、ショウ自身、勝手に勘違いしただけなのだが彼はそれに気づいていない。

「ねぇ、ショウ。シーナって本当に記憶喪失なの?」

 シェリアの声にショウの思考は中断された。

「リネドラルドのことも知らなかったんだぞ? そうじゃなかったらなんなんだ」

 ここまでくるとわかるだろう。察しのとおり、ショウは極度の心配性のだった。だがいわゆるお人好し、とはまた違う。

 自分は探検家なんだ。そんなことをしていたら自分の身がいくらあってももたない。

 ショウは自分にそう言い聞かせていた。とは言いつつも、まりいを助けた時点で怪しいところなのだが。

 実際に今までそうしていた。行き倒れがいたら最低限の食料を置いていくだけにしていたし、ましてや一緒に旅をすることなどなかった。助けを求めるふりをしながら金品を奪おうと襲いかかってきた人間と遭遇したこともある。その度応戦してきたし、無理だとわかればすぐに荷を置いて逃げ出していた。元々、必要最低限のものさえあればいいのだ。金は必要だが命に比べれば軽いもの。もっとも、反撃に応じるだけの技能が充分に備わっていなければそんなことはできないしショウにはそれがあったため滅多なことで襲われることはなかったが。

 十四歳。まりいの世界では中学生になるが、ショウやシェリアの世界では人それぞれだった。学生として勉学に励む者もいれば、労働源として働いている者もいる。それでもショウのように、危険を伴う仕事につく者は少なかったが。

 彼がこの歳で探険家という仕事をしているのにはちゃんと理由があるのだが、それはまた後に話すとしよう。

 まりいをここまで連れてきた理由。それを知りたかったのは、他ならぬショウ自身だった。もちろん、色々な場所をみれば記憶を取り戻す、何かを思い出すきっかけになるかもしれないと思ってのことではあったのだが。

『行くっ! 行きます!』

 一緒に来るかと尋ねてすぐに返ってきたセリフ。それまでのおどおどした態度とは違い、まっすぐな瞳でショウを見つめていた。もしかしたらショウがまりいを同行させたのは無意識のうちにこの表情に圧倒されたせいかもしれない。

「シーナ、この前から様子が変だったの。これの話をした時くらいから」

 そう言った公女様の首にはペンダント――アクアクリスタルが輝いている。

「よくわからないけど、何か事情があるんじゃないかしら? 時々、思いつめた顔してたもの」

 シェリアの指摘にショウは目をみはる。

 全く気づかなかった。確かに口数は減っていたが初めて会った時からそうだったのだ。旅の疲れもあったのだろう、そうふんでいた。

(女ってわからない)

 十四の歳にしてそれを悟る探検家の少年だった。

 だが、どちらにしてもここまで彼女を連れてきたのは自分なのだ。

「プロなら最後まで面倒みないとな……」

 人知れず少年がそうつぶやいたその時だった。

「ショウ、あそこ!」

 そこには、湖のそばに横たわるまりいの姿があった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 チ、チチ……。

 鳥のさえずる声が聞こえる。

「シーナ!」

「お願い、目を開けて!」

 どこからかショウとシェリアの声が聞こえる。

「……シェリア?」

 二人の見守る中まりいはうっすらを重いまぶたを開けた。

「よかった。心配したんだからっ……!」

「シェリア、一体どうしたの――」

「それはこっちのセリフ」

 急にシェリアにしがみつかれ、そのうえ泣かれてしまい、まりいは、おおいに戸惑っていた。さらに追い討ちをかけるように、残りの一人が言葉を続ける。

「シェリアが血相変えて『シーナがいなくなった』って言うだろ。それで」

 ショウの言葉によって、ようやく、まりいは全てを思い出した。

 湖に行ったことも、水の精霊にあったことも。

 この世界が夢なのか現実なのか。それは結局わからずじまいだった。

 だけど――

「シーナ? 顔色が悪いぞ」

「本当。早く休まなきゃ」

 二人が私のことを心配してくれている。それを嬉しく思っている自分は、確かにここにいる。これは、きっと現実なんだ。

「二人とも。心配かけてごめんなさい」

 たくさんの感謝と申し訳なさと。

 まりいは二人にむかって深々と頭を下げた。

「……これからは単体行動はとるなよ。仮にも三人で行動してるからな」

「うん……」

 肩を落とすまりいに、シェリアは横からそっとささやいた。

「ショウったら、もっと別の言葉使いなさいよ。あなたが一番必死になって捜してたんだから」

「え?」

「余計な事は言うな」

 予想外の発言にきょとんとするまりいと、そっけなく、でも顔はうっすらと赤いショウ。二人の反応が面白くてシェリアはくすりと笑みをもらした。

「でも、本当に心配したのよ? これからはちゃんとアタシにも言うこと。いいわね?」

 本当に、二人はいい人たちだ。

 だからこそ、言わなければならない。

 自分が変わらなければ何も変わらない。

 だから――

「二人とも、聞いてほしいことがあるの」

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