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プロローグ

プロローグ


 男は道を急いでいた。

(まずいな。このままじゃ遅刻しちまう。前の村でゆっくりしすぎたかな)

 男は――とは言っても、まだ少年だが、馬を急がせる。一刻も早く王都へ、城へたどりつくために。

「頼むぞ。相手は王様なんだからな」

 手綱を持つ手に力が入る。

(それにしてもなんて遠いんだ。まぁ仕方ないか。王には昔からお世話になってたしな)

 ヒヒーン!

 突然馬がとまる。

「わっ! ぶねっ!」

 慌てて台車につかまる。土台がしっかりしていたため、かろうじて外に放り出されることだけはまぬがれた。

「なんだよ、急に止まったりして……」

 そこで手綱を持つ手が止まり視線がある一点に釘付けになる。

 少年の視線の先にあったもの。それは、道端に横たわる一人の少女だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「お客さん、連れの方は大丈夫かい?」

「はい。もうだいぶ落ち着いたみたいです」

「それは良かった。ではこれで。何かあったらすぐ呼ぶんだよ」

 人のよさそうな宿の主人が部屋を出て行く。

 ここはカザルシアのとある離れ村。 ジアノ。

 あの後少年は、少女をここまで連れてきた。となると、当然城にたどり着くのは当分先になる。

「仕方ないよな。行き倒れをほっとくわけにもいかないし。王もきっとわかってくれるさ」

 そう自分に言い聞かせる。

 自分が助けた少女。

 多少、気をとがめつつもベッドの上に視線を移す。

(変わった格好だよな。このあたりじゃ珍しい。よほど遠いところから来たんだろうな)

 少女は今、気持ちよさそうに眠っている。

(何であんなところに倒れていたんだ? まずはそれを聞かなきゃな。今さら村に帰るわけにもいかないから、連れて行くしかないだろうな)

 少年が一人、物思いにふけっていると、少女が目を覚ました。

 焦げ茶色の長い髪。明るい茶色の瞳が眠たそうにしている。

「気がついたか?」

「ここは……」

 そう言いながらも、意識はまだ夢の中らしい。目がうつろなままだ。

「ああ、ここは……。あっ、おい、まだ立つな! 危ない――」

 ドサッ、ゴンッ!

 急にベッドからおりたため、立ちくらみをおこしたのだろう。支えようとしたが間に合わず、結果として少年の上に少女が倒れこむという形になってしまった。

(だから言っただろ)

 胸中で嘆息すると同時に一つの疑問にたどりつく。

(……『ドサッ』はわかるけど何で『ゴンッ』なんだ?)

「おい、起きろよ。……おい?」

 少女は再び瞳を閉じ、それきり動かなかった。

「おい、おいっ!」

 激しく肩を揺さぶるも、目を開けようとしない。

(まさかこのまま動かないなんてことないよな……ん?)

 少女の後頭部を見る。

 そこには大きなコブができていた。目の前には洋服棚。

「なるほど」

 ため息を一つつき、少女を再びベッドへ移す。

(誰かに似てるな。可愛いし。……じゃないだろ! 何を考えてるんだ俺は!)

「まずは頭冷やさないとな」

 自分にそう言い聞かせ、水を借りるために部屋を後にする。


 そして少女は、別の場所で――別の世界で目を覚ました。

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