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Day 0-2

> “神樹区市街地 ── 冒険者の宿アドベンチャラーズ・イン


「おやぁー? 喜多ちゃんが彼氏カレシ連れてるー?」


 意気揚々と“冒険者の宿”に入った私に声をかけてきたのは、おっとり若奥様のワンコさんだった。

 ふわふわした外見に反して、現実でも“幻想世界”でもすばしっこい人で、私の数少ないフレンドの一人である。


「残念、親戚ですぅー。ワンコさんも当選組ですか」

「“そう聞いてくるということは、お主も先遣隊に選ばれたということかな”」


 右手の親指と人差し指を顎に当てて、格好つけてニヤリと笑いながら話しかけてくるワンコさん。

 時々口調が変わるのは、使ってる狼戦士のロールプレイらしい。でも、小柄な彼女がやると仔犬にしか見えない。


「“先遣隊”って、もう詳細出てるんですね」

「出てる出てるー。受付で事前資料ハンドアウト貰っておいでー」


 左手に持ったクリアファイルを振るワンコさんに見送られながら、奥のカウンターに向かう。

 ヤジ君は奥の喫茶スペースを気にしながら、後からついてきた。


「喜多さん、俺、ハラ減ってきたかも?」

「資料受け取ったら入ろっか」


 とか話しながら、グッズ類が雑然と並べられたカウンターの前に立つ。すると、その向こう側で屈んで紙袋を整理していた、酒場娘コスプレの受付おねーさんと目が合った。


「“神樹の地下迷宮”の参加意思確定にきました」

「おっと、喜多ちゃんか。当選おめでとう。隣の彼も一緒ってことでいいの?」

「はい。お願いします」とヤジ君。


 いつものおねーさん(名前は知らない)は立ち上がり、ヤジ君のキャラ名を確認すると、脇に置いてあったノートパソコンに情報を入力していった。


「じゃあ、印刷プリントしてる間に今回のイベントの注意事項を説明するね」


 入力を終えたおねーさんは、奥のプリンタが動き出したのを確認して戻ってきた。

 彼女はカウンターの下から二つ折りのパンフレットを取り出して、項目を指し示しながら話し始める。


「イベント期間は明日からの七日間。想定している一日の所要時間は二時間から三時間です。東西連絡通路とか地下街とか、時間によって閉鎖される場所でも、“幻想世界”なら基本的に移動可能……って、良い子はそんな時間までいない筈だよね」

「門限ありますからー」

「えっ、喜多さん家って厳しいの」


 不安そうな表情を浮かべるヤジ君。顔に出るなあ。まあ、その話は後でね。ややこしくなるから。


「参加者は四人一組のパーティで迷宮に挑戦することになります。パーティは、職業バランスや交流記録などを考慮した上で、既に運営側で決定してあります」


 事前の情報にもあったので、黙って頷く。ワンコさんと一緒がいいんだけど、戦士系で被ってるから無理だろう。

 ヤジ君はどうだろう。消去法で一緒になりそうな気がする。


「各パーティは、日毎に提示される共通ミッションと、“追加背景バックグラウンド”としてキャラごとに提示される個別ミッションを達成することでポイントを獲得します。一定以上のポイント獲得で記念アイテムをプレゼント。ランキングで上位のパーティにはさらに特典アイテムが送られます」


 “追加背景”って何だろ? と疑問に思っていると、おねーさんは「ちょっと待っててね」と奥に歩いて行き、プリンタから茶色い紙束を拾い上げて戻ってきた。


「はい。これが喜多ちゃんの分で、こっちが“夜兎ヤト”ちゃんの」

「えっと、あーっと」


 キャラ名で呼ばれてあたふたするヤジ君を置いといて、手渡された紙を見る。


「第三隊、第四班。追加背景は“竜を追う者ドラゴンチェイサー”」


 ──彼は故郷を旅立ってから現在まで、数多の竜種を葬り去ってきた。そんな彼の耳に、神樹区の地底に封印された“黒竜”の噂が入ってきた。彼はその噂の真偽を確かめるため、王国宰相が募集した、迷宮探索の先遣隊への参加を決めたのだ──


「……あー」


 これは、私個人をピンポイントで狙って書かれた文章かな。あの噂の“隠しパラメータ”を狙って上げてる人なんて、他にそういないだろうし。


「俺も同じ班だな。追加背景は“魔物の研究者ダークシーカー”か」

「今渡した資料は時間があるときに読んでおいてね。追加背景は称号と同じような扱いで、イベント終了後に消すこともできるけど、一度消したら戻せないから注意してください」


 そこまで言ってから、おねーさんは“幻想世界”のロゴ入りクリアファイルとパンフレットを二人分揃えてカウンターに置いた。


「じゃ、分からないところがあったら遠慮なく聞いてね」


 ◇ ◇ ◇


 ランチセットを注文して、番号札を受け取った私とヤジ君は、運良く空いていたテーブル席に座って一息ついた。

 向かいに座ったヤジ君は、受け取った資料の中から参加者リストを抜き出して、私にも見えるように横向きに置く。


 “神樹の地下迷宮 探索先遣隊 名簿”と一番上に書かれたリストの一番下に、第三隊第四班があった。

 他のメンバーを確認しようと紙を覗き込んでいると、


「“Kitty”が喜多ちゃんで、彼氏君は“夜兎”ね。あとは開拓士の“トモキ”に、神官銃士の“Tricker”と。どっちも知らない名前ねー」


 頭上からいきなり声がした。顔を上げると、いつの間にかワンコさんがヤジ君の横に座っている。

 彼は隣を見て固まっている。まあ、ゆるふわワンピの女性がいきなり音もなく出現したら驚くか。


「ワンコさん、さっきも言いましたけど親戚ですー。で、ヤジ君?」

「あ、うん」

「時々一緒にクエスト攻略してるワンコさん。スタイルいいけど人妻だから手を出しちゃ駄目だからね」

「よろしくねー」

「あ、えーと、はい」


 笑顔のワンコさんに、ヤジ君は慌てて挨拶を返した。てっ、手なんか出さねーよっ、とか墓穴ルートに進まない辺り、思考能力はそれほど損なわれていなかったらしい。


「さて……“俺は第一隊だから、残念ながら別行動になるな。ま、お互いに頑張ろうぜ”っと」


 そう言いながら、ワンコさんはひらりと席を立った。自分の班のミーティングに行くんだー、と語った彼女を見送ってから、再びリストに注目する。

 “トモキ”と“Tricker”、見覚えのある名前である。というか、どっちも今日メッセージを送った相手で、記憶が正しければ他に接点は無いはずだ。


「喜多さん、ランチ来たよ」


 リストを横に退けて出来たスペースに、おねーさんが運んできたランチプレートが置かれた。いただきます、と手を合わせる。

 スパイシーオムライスを半分辺りまで攻略したヤジ君が、サラダ用のフォークをリストに向けて口を開いた。


「とりあえず、この二人に連絡してみる?」


 んー、待って待って。鶏ハムサンドがまだ口の中にあるのだぜ。口を動かしながら頭も動かしてみる。

 ヤジ君はこっちに来たばかりだし、私がメッセージを書くべきかな。


「確かに、イベント前に会っておいた方がいいかもだよねえ。でも、何て書けばいいんだろ。いつもワンコさんに誘われてばかりで、自分から誰かを誘ったこと無いんだよね」

「似たような感じでいいんじゃないか」

「“やっほー。これから明日のイベントの作戦会議を行います! 冒険者の宿に集合! ミ☆”とかだよ」


 彼女ならそれでいいだろうけど、私はちょっとキャラが違う。フレンド少ないしメッセージもほとんど定型文だし。


「いや、構わないんじゃ? もう少し丁寧にするくらいで」


 この男は何でもない風に言うけれど、大丈夫かなあ? ちょっと悩ませておくれ。


 と、悩み始めてから十数分。

 ランチを食べ終わるまで散々悩んだ挙句、簡素なお誘いメッセージを二人に送ると、予想以上に早い返信が届いた。

 “Tricker”の中の人は資料を受け取りにこっちに向かってる途中だった。


「“トモキ”は?」

「入口でイベント情報見てたみたい。奥のテーブルで昼飯食べてる二人組です、って送った」


 二人で店の入り口の方を眺めていると、しばらくしてから、緑色のキャップをかぶった気弱そうな少年が、こちらを窺うようにしながら店内に入ってきた。

 私たちに気付いた少年に向かって、ヤジ君が手を上げて軽く振る。少年は私たちのテーブルにやってきて、恐る恐る口を開いた。


「えっと、明日のイベントの打ち合わせって聞いたんですけど……」

「うん。“トモキ”さんで合ってる?」


 少年は安心したように表情を緩ませて、ヤジ君に会釈をした。


坂槇智樹さかまきともき、中三です。さっきは助けてくれてありがとうございました」

「あー、助けたのは俺じゃなくて」


 ヤジ君に指差された私は、トモキ少年に向かって右手を上げる。そう、助けたのは私なのだぜ。


 ◇ ◇ ◇


 恐縮しきりのトモキ少年をヤジ君の隣に座らせて、改めて自己紹介をしているところに現れたのが、四人目のパーティメンバー、鳥飼恭介とりかいきょうすけ氏だった。

 アロハシャツに白いズボン、扇子を片手にやってきた二十代半ばに見える鳥飼氏は、雑誌から応募したらうっかり当選したので、明日から有給を取ったのだと朗らかに言い放った。


「まあ、代わりに盆休み返上で働くことになりましたけどね」


 本人がそれでいいらしいので、深く突っ込まないことにした。

 “幻想世界”を始めてから三年と、私と同じ程度の経験者でもある彼は、普段は池袋で仕事をしているらしかった。


「まだ資料を読めてないんで、明日のイベント前にもう一度集まって作戦会議、ということにしませんかね」


 私の隣でそう告げた鳥飼氏に、私とヤジ君は頷き、トモキ少年は首をかしげる。

 半月前に“幻想世界”を始めた彼は、今回のイベントが初参加ってことで、いまいちわかってない部分も多い。


「トモキ君、受付でもらった資料は読んだ?」

「いえ、まだイベントのスケジュールしか」


 事前資料ハンドアウトには、スケジュールや参加者リストだけではなく、今回の特別クエストの背景となるシナリオの導入部分や、“追加背景”、ヒントとなる豆知識、追加エリアでの特別な注意事項なんかが記されている。

 特に今回は、新宿地下での初めてのイベントなので、いろいろ気にしないといけない部分がある。

 資料をちゃんと読んでいなかったばっかりに、ダンジョンマスターの裁量を超えてシナリオを破綻させるような行動をとってしまうとどうなるか、というと。時間と温情があればリトライできるけど、ほとんどの場合は参加賞を渡されて、はいさようなら、である。


「今回は期間長いから、いきなり失格ってことは無いだろうけどさ」

「イベントを楽しむためにも、資料はきっちり読んでおいた方がいいんですよ」


 私と鳥飼氏の言葉に、トモキ少年はなるほど、と腕を組んだ。その様子を見て、鳥飼氏が再び口を開く。


「しかし、そうですね。今日はこれで解散、というのも味気ないですし……どこか近場のミッションを御一緒する、というのはどうでしょうかね」


 ◇ ◇ ◇


> “神樹区郊外 ── フラワー・ガーデン”


 “幻想世界”で一面の花畑になっているこのエリアは、現実世界では靖国通りと明治通りに面した花園神社がある場所だ。

 花畑の西側、拝殿に当たる場所は小高い丘になっており、中央に石舞台が築かれている。

 このエリアの入り口は、石舞台とは反対の東側、大鳥居に当たる位置になる。


   ミッション開始のログが表示された直後から、軽装の傭兵戦士ハイランダーはエリアの一番奥、石舞台へと走り始める。

   その後を、移動速度の劣る神官銃士ホーリィファイア妖術士ソーサレスが追いかける。

   そして、パーティリーダーである開拓士エクスプローラは一人、右手にある泉の方に向かっていた。


「敵はこっちで食い止めるから、慌てず確実にね」

「は、はい」


 このエリアは、特定のミッションをクリアすることで、素材アイテムである薬草や花の栽培ができるようになる。栽培を繰り返すほどより上質な素材が手に入るようになるため、エリア開放が早いほど後が楽になったりする。

 トモキ少年がまだエリアを開放していない、と聞いた私たちは、第三隊第四班のデビュー戦をエリア開放ミッション“石舞台の魔物”に決めた。

 このミッションで試したいことがある、という個人的な理由もあった。


「ヤジ君、鳥飼さん、そろそろ足元注意で」

「ん」

「ははは。恭介でいいよ、喜多さん」


 爽やかな笑顔で返す鳥飼氏。だけど、実は「なら私も美咲みさきって呼んでください」って答えることを期待してんのかしら。と頭によぎる程度の腹黒さが見える、ような……。

 いけない、集中しないと。


   傭兵戦士が花畑の間の細い道を辿って走る。

   ミッション開始から十秒が経過して、石舞台のジェネレータから《石の小鬼ロックゴブリン》が三匹出現する。

   褐色の帽子を被った灰色の肌の小鬼は、原始的な片手斧を振り回しながら丘を降り始めた。


「やっぱ花畑避けると時間かかるよ」

「ちゃんと道通ってね」


 私が一人ソロで挑んだとき、このゴブリンたちに花畑を散々に荒らされ、悔しい思いをした。

 ミッションのクリア条件は“泉の水を三回花畑に運ぶ”だけだから、それでもエリアの解放に支障は無く、普通に“フラワー・ガーデン”を利用できてはいる。

 けど、少し前に掲示板の噂を見て、私はこのミッションに“隠し条件”があることを確信したのだ。


   傭兵戦士がいち早く花畑を通り抜け、その手に持った巨大な鎚が、丘を下ってきたゴブリンに振り下ろされる。

   直撃を受けた一匹が霧散し、残りの二匹が足を止めた。

   黒い僧衣の神官銃士は、道の途中で立ち止まり、回避力上昇の《祝福》を発動し始める。

   対して、露出度の高い白いドレスに身を包んだ妖術士は、細長い金属製の錫杖ロッドを構えたまま、歩みを止めることなく呪文の詠唱を開始した。


 移動しながら呪文って、どういう操作してるんだろう。気になるけど、もう余所見はできない。

 ジェネレータから第二陣が出現してしまう前に、ゴブリン三匹をさっさと片付けないと。


   二匹目に通常攻撃を行った後、傭兵戦士のすぐ横を抜けようとした三匹目に対して《迎え撃ちインターセプト》を発動。

   振り下ろされた鎚が横薙ぎに軌道を変え、ゴブリンの腹に突き刺さり、さらに吹き飛ばした。


「水汲みましたっ」

「よし。花畑の手前まで戻って、アイテム欄から使うんです」


 《祝福》発動後の待機時間で手が開いていた鳥飼氏が、トモキ少年に指示を出した。参謀キャラに任命しようか。


 ──“花畑を傷つけずにクリアせよ”


 ゴブリンたちを花畑に侵入させない。なおかつ、プレイヤー側も花畑に入らない。

 この条件は、一人では絶対不可能、二人でも手が足りず、連携のよく取れた三人パーティでようやく達成できる程度の難度だと思う。

 クリアしたら再挑戦できないエリア開放ミッションにおいて、そんな隠し条件は無いよ、と掲示板では速攻で否定されていた。


   妖術士の呪文が発動し、三本の《火焔槍フレイムランス》が石舞台に飛んでいく。

   三十秒が経過して再出現した六匹のゴブリンに、赤く燃える槍が突き刺さり、一匹を残して黒焦げにする。

   そして、最後の一匹に、丘を駆け上った傭兵戦士の鎚が襲いかかった。


 って、ヤジ君、今の威力って。


「それって、素材消費したんじゃ?」

「ああ。再挑戦できないミッションだから、全力出すぜ」


 あくまで根拠は掲示板の噂でしかなかったから、達成できれば儲けもの、って考えで提案したのだけど、噂を知らなかった三人は興味津々だった。

 面白そうじゃないか。僕でよければ。ぜひやってみましょうかね。と来て、テンションが上がったまま今に至るのだ。


「えーっと、まあ、ほどほどにね……」

「二回目汲みましたっ」


 このミッションに“何か”があるのは確信してるんだけど、それを説明するのがちょっと難しい。

 ここまで来たら、せめて変なことになりませんように、と願うばかりなのです。


「喜多さん、そろそろ再出現リポップですかね」

「了解」


   行動加速の《祝福》を追加で発動した神官銃士は、花畑を出たところで腰を落として小銃を構えた。

   丘の中腹では、妖術士がスタミナの回復を終えて立ち上がろうとしている。

   石舞台がジェネレータの発動を意味する紫色のエフェクトで覆われ、そこに九匹のゴブリンが出現した。

   行く手を遮る傭兵戦士を避けるように、ゴブリンは左右に散開して丘を下ろうとする。


「ヤジ君、左は頼んだ」

「はいよ」


   傭兵戦士は右に移動し、待機時間が終わった《迎え撃ち》と通常攻撃で端から三匹を食い止める。

   丘を下り始めた残りのゴブリンの群れに、再び《火焔槍》が突き刺さり、その数を減らす。

   直撃を免れ、爆発の余波から抜け出してきた一体を、魔力が込められた銃弾が貫いた。


 白い派手なエフェクトを残して消えるゴブリンを見て、ああ、その弾丸もきっと特製なんだろうなあ、と思ったり。

 私だけ何も消費しないスキルばかり使っているのが、ちょっと心苦しくなってきたかも。

 ゴブリンの再出現までの短い時間で、状況を確認する。


「四人パーティだから、次からずっと十二体。この調子だと、食い止めるのはあと一回が限界かな」

「水の方はどうです、トモキ君?」

「三回目の水汲み中です」


 なら、次を耐えればミッションクリアだ。

 四度目の襲撃に合わせて、ミッション中、一度しか使えない大技スキルを準備する。


   《大旋風ワールウインド》。

   傭兵戦士が振り回す戦場鎚によって、出現したばかりのゴブリンたちは即座に消滅していく。

   十二匹のゴブリンを根こそぎ撃破して一息ついたところで、ミッション終了のログが表示された。


 ◇ ◇ ◇


 ミッションクリアの報酬とゴブリンから手に入った素材の分配を終えると、トモキ少年のゲーム機で特別条件達成によるイベントが始まった。

 全員が注目する中、花園の妖精は花畑を守ってくれたお礼を長々と、これ、飛ばせないかな。


「称号“花園の守護者ガーデン・キーパー”に、ボーナス栽培枠が二十日間、ですね」


 花園の妖精から“トモキ”に与えられた特別褒賞は、かけた手間に見合った内容ではあった。

 どちらもより上位のクエストで手に入るものの、初心者である彼にはまだ手が届かないはずだ。


「最初は微妙ですけど、栽培を繰り返せばいい素材が手に入るようになりますよ」

「はい」


 トモキ少年に対して栽培に関する説明を終えた鳥飼氏は、“幻想世界”に接続していたミニノートパソコンを畳んで鞄に収めると、さて、と姿勢を正した。


「それでは、喜多さん、ツグヤ君、トモキ君。明日からのイベント、よろしくお願いしますね」


 あー、そうそう。

 ミッションの前の自己紹介で、ヤジ君の本名が次弥つぐやだったという事実が判明したりしたけど、それは瑣末なことだ。

 どんな名前でもヤジ君はヤジ君だよ。少なくとも私は意地でもヤジ君と呼ぶよ。

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