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【完結】当て馬令嬢の楽園へようこそ! 〜傷心令嬢たちは愛よりB級グルメに溺れる〜  作者: 天地サユウ


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第八話 建国祭、当日

 王立学園の最大行事――『建国祭』当日。

 生徒たちが様々な模擬店を出店する中央広場に、お洒落なカフェや豪華な出店が立ち並ぶ。


 貴族生徒たちが優雅にお祭りを満喫している中、俺たち平民部が割り当てられた場所は、そんな喧騒から遠く離れた旧校舎裏。

 まさかの廃棄物置き場の隣という最悪の吹き溜まりである。

 

「……酷い有様ですわね。公爵家の財力で一等地を買い上げようとしましたのに、個人資金の持ち出しまで全面禁止だなんて……」

「おまけに部への支給予算はゼロ。完全に生徒会長の嫌がらせなのです……」

「ノアさんの実家の伝手で、商店街から『売上の後払い』で食材を仕入れてくれたとはいえ、こんな場所じゃ、誰も買いに来てくれないっすよ……」

 

 エプロン姿のカルミラさんたちが、重いため息を吐く。

 だが、俺は持ち込んだ大型の魔道鉄板に火を入れながら声をかける。

 

「大丈夫だよ。。むしろ好都合かな」

「ノア、それはどういう意味ですの?」

「周りに他の店がないってことは、俺たちの『匂い』を邪魔するものもないし、繊細な高級料理と違って、B級グルメは音と匂いで客を釣ることもできるんだよ」

 

 早速、俺は山盛りの豚肉とざく切りのキャベツ、ちぢれ麺を鉄板へ投入する。

 熱された鉄板から心地よい音が弾ける。

 金属製のヘラを振るい、手早く炒め合わせて、仕上げの特製ソースを回しかければ、香ばしい香りが立ち昇る。

 

「あとはマヨネーズと青のり、紅しょうがを乗せて……完成したよ。平民の屋台グルメの王様、『特製ソース焼きそば』だ」

「実家の看板メニューの一つであり、お兄さまの得意料理の一つですね!」

「うっ……なんて背徳的な香りですの……」

「とても刺激的な匂いなのです!」

「これはやばいっすね……」

「教育者としての理性が屈しそうになるぞ……」

 

 旧校舎裏から漏れ始めたソースの匂いと白煙。

 最初に釣られてきたのは、同じ肩身の狭い思いをする同志――平民の生徒たちだ。

 

「うわっ……! やっぱり、焼そばの匂いだった!」

「サロンの高級菓子なんて食った気がしなかったんだよ!」

 

 歓喜しながら、焼きそばを貪り食う彼らの熱狂。

 やがて人は人を呼び、異様な光景と強烈な匂いに釣られた貴族生徒たちまでも、次々と姿を現した。


「お兄さま、大変です! あんなに沢山の人たちが押し寄せてきます!?」

「うん、作戦成功だね」

「いいえ! きっと生徒会から大量の刺客が、お兄さまを狙って来たんです! ですが、ご安心ください! ココナがまとめて追い払いますから!」

「……いや、ココナ。普通にお金を払ってくれるお客さんだから、追い払ってはダメだよ」

「そ、そうだったのですね……。そういうことなら、ココナにお任せください!」

 

 ココナは好戦的な態度から、一瞬で完璧な営業スマイルを浮かべた。

 

「いらっしゃいませ!」

 

 実家の屋台で鍛えられたココナの接客と、カルミラさんの強欲な客捌きが合わさり、屋台は凄まじいペースで回転していく。

 

「ノア先輩、私もお手伝いするのです!」

「回復魔法なら常時展開するっすよ!」

「最後尾はこっちだ! 順番を守らない奴は出禁にするぞ!」


 剣士の動体視力で焼きそばを量産するメルティ。

 俺たちが疲れないように回復魔法を唱え続けるクロエさん。

 そして鬼の司書長の迫力で行列の整理を行うレティア先生。

 それぞれの特技を無駄に活かした結果、廃棄物置き場の横には、学園祭史上、類を見ないほどの大行列が形成された。

 

 ◇


 一方、その頃。

 メインストリートの一等地に構えられた特待生サロンの豪華なカフェでは、閑古鳥が鳴いていた。

 

「なぜ、客が一人も来ないのだ……?」

 

 ユリウス殿下がギリッと奥歯を噛み締める。

 

「殿下、客は旧校舎裏にある平民部の屋台へ流れているようです」

 

 神妙な顔つきのレオンの報告に、隣の勇者レインが目を剥く。

 

「ゴミ捨て場の横だったよね……? 何か汚い手でも使っているのかな?」

「クソッ……行くぞ、奴らの不正を暴いてやる!」

 

 怒り心頭の殿下たちは、足早に旧校舎裏へと向かう。

 だが、そこで彼らが目にしたのは、かつて自ら切り捨てた令嬢たちが活き活きと働き、茶色い麺を喜んで食べる貴族生徒たちの笑顔と熱狂だった。

 

「なんなのだ、この強烈な匂いは……?」

 

 絶句する殿下たちに、焦げたソースと動物性の脂の香りが容赦なく襲いかかる。

 繊細で上品な食事など、ジャンクフードの暴力的な旨味の前では無力に等しかった。

 

「あら、偵察にいらしたと思ったら、ずいぶんと食欲をそそられている様子ですわね?」

 

 最後尾で立ち尽くす三人の前に、カルミラさんが優雅な足取りで歩み寄る。

 パチンと広げた扇子の扇面には『愛の完全勝利』と綴られている。

 

「か、勘違いするな! 貴様らが公序良俗に反する真似をしていないか確認しに来ただけだ……!」

「そうですか。では、並んでいかれます? 最後尾はあちらで、待ち時間はざっと三時間といったところでしょうか」

「三時間だと……!?」

 

 信じられない大行列の長さに、殿下たちは再び絶句した。

 そこへ、俺もヘラを持ったまま言葉を投げる。

 

「殿下、勝負はついたようです。約束通り、これ以降は平民部への干渉は控えていただきますよ」

 

 圧倒的な熱気と抗いがたいソースの匂い。

 すべてにおいて完敗を悟ったのか、殿下は顔を真っ赤にして踵を返した。

 

「……くっ、覚えておけ! 今回はたまたま物珍しさに釣られただけだ! お前たち、行くぞ!」

 

 捨て台詞を吐いて逃げるように去っていく背中を、俺たちはすがすがしい気分で見送る。

 

 予算ゼロで、場所も最悪。

 そんな絶望的な状況から始まった勝負は、平民部による完全勝利で幕を閉じたのである。

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