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当て馬令嬢の楽園へようこそ! 〜傷心令嬢たちは愛よりB級グルメに溺れる〜  作者: 天地サユウ


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第七話 決別宣言と宣戦布告

「……見つけたぞ、カルミラ。まさか、こんな薄汚い地下に隠れていたとはな」


 金髪慧眼の見目麗しい青年――カルミラさんの元婚約者であり、生徒会長を務める王太子ユリウス・フォン・グランツ殿下だった。

 さらに殿下の背後には、不機嫌そうに腕を組む赤髪の剣術科のエース、レオンと、神妙な顔つきの勇者レインが控えている。


「ユリウス殿下……!?」

「レオン君……!?」

「レイン先輩……!?」


 カルミラさんたちを切り捨てた元凶の男たちが、不遜な笑みを浮かべ、平民部へと足を踏み入れてきたのだ。

 だが、足を踏み入れた男たちは、部屋に漂う匂いに顔をしかめた。


「な、なんだこの匂いは? 強烈な香辛料と動物性の脂の匂いが充満しているのか……」

「ですが、不思議と食欲をそそる良い匂いです……」

「確かに美味しそうな香りだね……」


 男たちはゴクリと喉を鳴らす。

 どうやら高貴な彼らでさえ、カップ麺の放つ魔力には抗いがたいようだ。


「あら、ずいぶんと食欲をそそられている様ですわね。これは平民の叡智の結晶、『マジック・ヌードル』の香りですわ」


 カルミラさんは静かに立ち上がり、扇子をバサリと広げた。

 扇面には『永遠の愛より三分のカップ麺』という達筆な字が躍っている。


「ば、馬鹿なことを言うな! 完璧を誇っていた君が、そのような得体の知れない平民の食事にたぶらかされ、私への当てつけに部まで発足させるとは……やはり私への嫉妬で歪んでしまったようだな、カルミラ」

「何か勘違いされているようですわ、ユリウス殿下。私は惨めな思いなど、一ミリもしておりませんわ。むしろ、殿下たちの無粋な足音のせいで、満ち足りた食後の余韻が台無しです。早々にお引き取りいただけますか?」

「何だと……?」


 カルミラさんの想定外の拒絶に、ユリウス殿下から余裕の笑みが消えた。

 殿下の動揺を埋めるかのように勇者レインが前へ出た。


「クロエ、君もだよ。なぜ、こんな所にいるんだい? 僕にとって、君は妹みたいなものだ。こんな不良のたまり場にいたら、僕は心配で夜も眠れないよ。ほら、一緒に帰ろう」

「レイン先輩……」


 クロエさんは潤んだ瞳でレインを見据えた。


「あたし、もう先輩の妹は卒業したっす」

「卒業って、どういうことだ……?」

「分からないっすか? レイン先輩の嘘の優しい言葉より、ノアさんがくれたお菓子の方が、何倍もあたしの心を満たしてくれたんすよ。それに、今はみんなもいるっすから、もう構わないでほしいっす」

「な、何を言っているんだ!? クロエには僕がいないと……」


 完全に拒絶されたレインの手が宙を彷徨う。

 焦ったように、剣士のレオンが大声を上げる。


「メルティ! 俺の最高の相棒であるお前が、剣も振らずに何をしているんだ! 俺の背中を守ってくれるんじゃなかったのか!?」

「もう、守る必要なんてないです」


 メルティは立て掛けていた木剣を手に取ると、威圧感を伴ってレオンを睨みつけた。


「私の剣は、私のために振るんです。平民の料理と新しく守るべき居場所を見つけた今、レオン君の背中などという、ちっぽけなものを守る気は、これっぽっちもないのです」

「メルティ……?」


 男たちの見事なまでの全滅。

 学園の頂点に君臨するエリート男子たちが、かつて切り捨てた令嬢たちからフラれた。

 三人の決別の言葉。

 かつて盲目的に慕ってくれていた彼女たちの変化に、男たちは動揺している。


「き、貴様ら、王太子たる私だけでなく、次代を担う勇者と剣聖に向かって、何という口の利き方を!」


 顔を真っ赤にした殿下が声を荒らげた時だ。

 俺の背後から、腕組みをしたレティア先生が歩み出た。


「ユリウス殿下、何か勘違いしているようなので、この際に言っておく。ここは正式に認可された『平民部』の部室。いかに王太子といえど、不当な理由で立ち退きを命じる権限はないはずだが?」

 

 鬼の司書長として恐れられる先生の迫力に、殿下が後ずさる。


「……レティア先生。なぜ、あなたがここに?」

「私はこの部の顧問だからな。副会長のクラリッサも正式に書類を受理した。お前たちの勝手な都合で、この子たちの居場所を奪われるわけにはいかないな」


 大人の余裕を見せた先生だが、殿下は怯まない。


「……なるほど。クラリッサの奴、形式上の書類が揃ったからと安易に受理したか。だが、勘違いしないでほしい。書類を受理することと、部の存続を許可することは別だということを」

「どういう意味だ?」

「学園の規律を定めているのは、生徒会長たるこの私だ。ただ部屋に引きこもり、平民の下品な物を食べるだけの集団に『活動実績』など到底認めることはできない。学園の施設を管理する権限を行使し、明日にでもここを没収させてもらう」


 王太子の前に生徒会長という絶対的な権力。

 その理不尽な通告に、俺たちは沈黙するしかなかった。

 ――だが、張り詰めた空気を破った一人の少女がいた。

 俺の右腕に張り付いていたココナだ。

 ココナは突然、殿下たちの前にズカズカと前に出ると、鋭く指差した。


「剣術科のエースに勇者、そして生徒会長! 事情は分かりました! 学園のトップである先輩たちが揃ってここまで来た本当の理由を!」

「……本当の理由だと? そんなことは今し方言ったばかりではないか」

「嘘です! 本当は優秀なお兄さまを自分たちの陣営に引き抜くためですよね!?」

「「「え……?」」」


 この場にいる全員の声が重なった。

 殿下は眉をひそめたまま固まり、レオンは腕を組んだ姿勢のまま動きを止め、レインは瞬きを繰り返している。

 それは俺たちも同じだが、ココナだけは確信に満ちた瞳で、斜め上のまま続ける。


「ふふん。御三方の様子を見るに、やっぱり図星ですね! 強引に部を潰そうとしてまで、お兄さまを生徒会だけでなく、剣術部や勇者パーティに勧誘しようなんて卑怯です! お兄さまはココナが守りますから、さっさと帰ってください!」


 ココナの盛大な勘違いに、殿下たち……いや、俺たち全員ぽかんと口を開けたままだ。

 けれど、この沈黙は好機だった。

 俺は小さく息を吐き、ココナの頭を軽く撫でてから歩み出た。


「殿下、活動実績がないからここを没収する……つまり、相応の実績さえ示せば、平民部を認めていただけるということですよね?」

「ふん。一介の平民ごときが、私に口を利くか」

「来月、学園で『建国祭』が開催されますよね? そこで俺たち平民部が、殿下の立ち上げた『特待生支援サロン』よりも多くの売り上げと支持を集めてみせます。それができれば俺たちの活動を認め、今後一切の手出しをしないと約束していただけますか?」

「ノ、ノア、あなた何を仰いますの!?」


 カルミラさんが慌てて俺の袖を引いた。

 王太子のサロンと、たった五人の平民部が学園最大のイベントで真っ向勝負をする。

 どう考えても無謀な提案だ。

 だが、殿下は余裕の笑みを浮かべて鼻を鳴らす。


「ふん。この私に勝負を挑むというのか? 貴様ら程度、特待生を集めた私のサロンに勝てるはずがなかろう」

「はい。ですから殿下にとっては何のリスクもない賭けです。もし、俺たちが負ければ大人しくこの部屋を明け渡します。どうです?」

「話にならんな。来月まで待たずとも明日にでも部を解体して追い出してやるまでだ」

「そうですか。では、殿下は平民に負けるのが怖くて、怯えて逃げるという選択をされるんですね?」


 俺の一言で場の空気が凍りついた。

 殿下の表情から余裕が消え、こめかみに青筋が浮かぶ。

 

「貴様……言わせておけば! いいだろう! そのふざけた挑発に乗ってやる! 来月の建国祭で貴様らが無様に敗北し、地を這う姿を特等席で拝んでやろう! 行くぞ、お前ら!」


 踵を返し、荒々しい足取りで去っていく男たち。

 足音が遠ざかり、静寂が戻ると、先生が息を吐いて眼鏡を押し上げた。


「はあ……お前はとんでもない喧嘩を買ってくれたな。ノア、相手は腐っても王族のサロンだぞ?」

「勝手なことを言ってすみません、先生。でも、あのままでは明日にでも平民部は解体されて、ここを明け渡すことになりましたからね。相手の無駄に高いプライドを煽って、勝負の舞台へ引き出すしかなかったんです。それに俺だって、この快適なサボり場……じゃなくて、平民部を失うのは、ごめんですから」

「快適なサボりと聞こえたのは、私の気のせいか?」

「……そんなことは一言も言ってませんよ」


 俺が肩をすくめながら答えると、カルミラさんがバサリと扇子を広げて力強く頷いた。

 扇子には『愛より平民部』と綴られている。


「ノアの言う通りですわ! 先生、あのような下劣な男たちに、私たちが負けるはずがありませんわ!」

 

 気丈に胸を張るカルミラさんとは対照的に、メルティとクロエさんは顔を見合わせてため息をつく。

 

「勝算はあるんですか、ノア先輩? あいつら腐っても学園のトップですよ?」

「あたしたちに特待生サロンの豪華な出し物に勝てるものなんて、あるんすかね……?」

 

 不安げなメルティとクロエさんに、俺はテーブルのカップ麺を指差した。

 

「平民のB級グルメを教えてあげる良い機会だし、貴族の高級料理には無い暴力的な味にこそ勝機はあると思うよ」

「さすがはお兄さまです! あの傲慢な先輩たちを返り討ちにして、勧誘をお断りするのですね! ココナも全力でお手伝いします!」


 気付けば再び俺の右腕に張り付いていたココナが、尊敬の眼差しで見つめてくる。


「ま、まあ、そんなところだね……」

 

 ココナの勘違いは相変わらずだが、今は訂正するのも面倒なので放置する。

 俺の濁した返答はともかく、「勝機はある」という迷いのない言葉は、みんなに届いていたようだ。

 見れば、みんなの瞳には再び力強い光が宿っている。


 平民のB級グルメの恐ろしさを学園中に知らしめる。

 俺たち平民部による反撃の狼煙が上がったのだ。

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