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死者の記憶を継ぐ者 〜巻き込まれ転生で幽霊になった俺は、王女に未来を託す〜  作者:


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魂に触れる者

魔女は、俺の事をじっと見ている。

さっきから、ずっとだ。


……そんなに俺の存在は、稀なのか?


銀色の瞳が、まるで品定めでもするかのように細められる。


やめろ!その目。何かを解剖する前の学者みたいだぞ。


「エリシア様」


魔女が、ふと口を開いた。


「自室に戻りなさい。眠れないのは解るけど。貴女がしっかりしないとね」


エリシアは一瞬、俺を見る。


その瞳に迷いはあったが、やがて小さく頷いた。


「……そうですね。解りました」


頭を下げる。王族としての礼。

そして静かに、部屋を出て行った。


扉が閉まる。


室内に残るのは、俺と魔女だけ。


沈黙。


魔女は椅子に腰を下ろし、組んだ足の上で肘をついた。


「さて……ポチ」


ポチと名前が……俺は思わず顔をしかめる。


「魂に触れて記憶を読み取るとは……」


指先で顎をなぞる。


「私も長く生きているけど……初めてね」


成る程。それ程に俺は稀なのか。


「これは教材には良いわね」


教材!?おい。

俺は実験動物か何かか?

魔女が、くく、と喉を鳴らして笑う。


不気味だ。


「そういやポチは、眠くはなるの?」


俺は左手を上げた。


ならない。

魔女は小さく頷く。


「疲れは?」


俺は、両手を上げた。


魔女の眉がわずかに動く。


「ん?両手を?」


しばし考え込む。


「どっちでも無いって事か……」


まあ、そうだな。眠くはならない。

何かが削れた感覚はある。


魔女は指を鳴らす。


「うーむ。質問を変えるわ」


視線が鋭くなる。


「普段は疲れない。でも魂に触れると疲れる?」


俺は右手を上げた。


「成る程」


興味が増したらしい。

椅子の背に寄りかかる。


「魂には、ポチから触れに行くの?それとも違う?」


俺は左手を上げた。


違うか。魔女の目が細まる。


「引っ張られたって感じ?」


俺は、右手を上げた。


あの兵士の時の感覚。

抗えない何かに、ぐい、と意識を掴まれた。

あれは自発じゃない。

受動だ。


魔女は腕を組む。


「未練か、後悔か、あるいは強い執着……」


小さく呟く。


「魂の残滓に引かれるのね」


残滓って言うな。


「つまり、ポチは“選べない”」


図星だ。


俺は、右手を上げなかった。

魔女は俺の反応を見て、口元を歪める。


「でも、慣れれば変わるかもね」


慣れれば?


「魂干渉は、回数に比例して安定するものよ」


そんなゲームみたいな……


「もちろん、代償はあるけど」


その一言で、空気が変わる。


俺は、魔女を見る。


「魂に触れるという事は、逆もまた然り」


……逆?


「相手の記憶だけで済むと思う?」


胸の奥が、ひやりとした。


魔女は俺を指差す。


「あなたも、触れられているのよ」


ぞくり、とする。


あの兵士の笑顔。訓練の日々。

あれはただの映像じゃない。


残っている。


薄く。だが確実に。


「憑依を繰り返せば、いずれ混ざるわね」


混ざる?


「誰の記憶か分からなくなる日が来るかも」


冗談だろ。

笑えない。


「……ポチ」


魔女が真っ直ぐ俺を見る。


「名前、思い出せる?」


俺は、口を開く。


言おうとする。

また、ほんの少し時間がかかった。


魔女が、ふっと笑う。


「そういう事」


椅子から立ち上がる。


「まあ、急に消えたりはしないでしょう」


軽く言うな。


「けど、使い過ぎには気をつけなさい」


使う、か。能力。

俺は、自分の透けた手を見る。


この力。役に立つのか。

それとも――削るだけか。


魔女が背を向ける。


「さて。実験はまた今度ね」


やめろ、その言い方。

彼女の声にはわずかな愉快さが混じっていた。


「エリシア様の影、なんでしょう?」


俺は黙って右手を上げる。

魔女は肩越しに言った。


「なら、消える時期くらいは自分で選びなさい」


その言葉が、妙に重く響いた。

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