表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死者の記憶を継ぐ者 〜巻き込まれ転生で幽霊になった俺は、王女に未来を託す〜  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/42

死者の鼓動 

何だ!?

引き寄せられる!?

視界がぶれる。


城壁の上から見下ろしていたはずなのに、次の瞬間、俺は地面すれすれに落ちていた。


いや、落ちたんじゃない。


“吸い込まれた”。


倒れた兵士の側へ。


血の匂いは感じない。だが、状況は分かる。

胸が裂け、呼吸は止まっている。

仲間の兵士が駆け寄る。


「おい!大丈夫か!?」


「よせ。致命傷だ。息はもう無い」


淡々とした声。

戦場では、それが現実なんだろう。


「何だよ……さっきまで話していた仲間なのに……こんなあっさり……」


震える声。誰も泣かない。

泣いている暇がない。


「運がなかった……そう思うしか無い。このままでは可哀想だ。運ぶぞ……」


兵士が遺体に手をかけた瞬間。

俺の意識が、さらに強く引かれた。


抗えない。


体の奥――いや、魂の奥を掴まれる感覚。

やめろ。俺は叫ぶ。


だが声は出ない。


「ふぁー」


なっ!?息を戻した!?


倒れていた兵士の口から、かすかな空気が漏れた。

周囲が凍り付く。


「……は?」


「そんな馬鹿な……!」


ぽん!!


何だ!?倒れた兵士に入れた!?

視界が変わる。


重い。冷たい。痛い。痛い!?


さっきまで無かった感覚が、一気に流れ込む。

胸の裂け目。肺に血が溜まる感覚。


腕の震え。……身体だ。

俺は、兵士の中にいた。


「お、お前……?」


仲間の顔が間近にある。

声を出そうとする。


喉に血が詰まる。ぐぼ、と音が漏れる。


瞬間。弾かれた。

ぐわん、と視界がひっくり返る。

俺は再び、幽霊の視点に戻っていた。

兵士の体は、今度こそ動かない。


「……やっぱり、ダメか」


仲間の兵士が歯を食いしばる。

俺は、それどころじゃない。


さっきのは何だ?


確かに、入れた。ほんの一瞬。

それに――今の奴の記憶か?


少し見えたぞ!訓練の日々。

泥まみれで剣を振るう姿。


教官に怒鳴られながらも、歯を食いしばる。


田舎の家。両親が居た。

合格通知を手にして、母親が泣いていた。

父親は不器用に背中を叩いていた。


本人は照れ臭く笑っていた。


……ああ。


ちゃんと、生きていた。

ちゃんと、人生があった。


一体……何だったんだ!?


俺は震える。身体は無いはずなのに、震えている気がする。


胸が重い。これは、俺の感情か?


それとも――


あの兵士の、残り香か?


ふらり、と視界が揺れる。

しかし偉く疲れた感じが……


この幽霊身体?も疲れるのか……

眠くは無い。何かが削れた感じがする。


さっき、名前を思い出すのに時間がかかった。


今は――あの兵士の顔の方が、鮮明だ。


……まずいな。


城門が閉じられ、兵士達は撤退する。

魔物は森へと引いていく。


夜が戻る。俺は、城壁の上へ戻った。


静かだ。


さっきまでの喧騒が嘘みたいに。


「……これが、俺の能力か」


死者に、入れる。

制御は出来ない。意図したわけじゃない。


何かに“引かれた”。強い感情。


後悔か?未練か?


分からない。

ただ一つ分かるのは――


これは、遊びじゃない。


魔女が言っていた。“ゆっくり楽しめ”


とんでもない。これは重い。

あまりに重い。


俺は、城の屋根の上に座る。

座っているつもり、夜空を見上げる。


星は綺麗だ。


でも、何も感じない。


それなのに胸の奥だけが、重い。

……休んだ方がいいのかな?


休めるのか?幽霊が?


目を閉じる。

闇の中で、さっきの兵士の笑顔が浮かぶ。


そして――


自分の名前を思い出そうとする。

ほんの少しまた、時間がかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ