祈りの記憶
エリシアとシスター。それに魔女。
三者会談、か。少し離れて見ていれば――
ぽかぽか陽気のいい季節。庭でお茶しながら女子会って感じだな。
王都を離れていた間の状況。
貴族間の噂話。最近の動き。
情報交換をしている様だ。
確かに、教会ならひっきりなしに人の出入りは有るだろうし。
民の声も、自然と集まる。……情報源としては、優秀か。
それにここは、食堂もやっているのか?
奥には、炊き出しの様な場所も見える。
元居た世界では、無かったよな?
いや、知らんだけか?
俺は、少し離れた通路へと移動する。
ん?こっちの部屋は……何だ?
扉の奥。小さな祭壇。花。木彫りの像。
……動物の、祈りの祭壇?
こっちの教会は、動物にも、お祈りをする風習なのか。
確かに。一緒に、楽しい時間を過ごした動物達も――
祈るのは、いい事だな。
その時。
わっ!?
この感じ――!?引き込まれる!?
視界が、歪む。
意識が――吸い込まれる。
これは……。
犬!?
足を、怪我している。雨に打たれて。
震えていた所を――誰かに、助けられた。
抱き上げられる。
暖かい。
一緒に、過ごせて楽しかった事。
暖かい寝床を、作ってくれた事。
ご飯も、美味しかった事。
……ありがとう、って。
感情が、流れ込んでくる。
ぽん!
……あれ。出て来れた。
今のは……。動物達にも、記憶はちゃんとあったんだな。
感謝していたぞ。
この犬は視線の先。
祭壇の前に、立つ夫婦。
この二人が――飼い主さん、か。
伝えたいが……。どうすりゃ……。
会談中だしなぁ……。流石に、無理か……。
俺は、魔女の視界に入る様に移動する。
気付け……。
気付け……。
手招き。
数秒。
魔女の視線が、こちらへ向いた。
……気付いたな。
魔女は、エリシアとシスターに何か一言告げて、席を立った。
少し離れた所まで、歩いて来る。
「何かあったの?」
小声。
俺は、頷く。
そして――地面に、文字をかく。
犬の記憶を見た。
あの夫婦に犬が感謝してた事を伝えて。怪我のした日、雨に打たれていた所を助けてくれてありがとうって、言っていたと。
「……犬の、記憶?」
俺は、右手を上げる。
「あの夫婦に?」
再び、右手。
魔女は、ため息を一つ。
やれやれ、といった顔。
「……仕方ないわね」
そう言って、祭壇の前の夫婦の元へ歩いて行った。
突然、話しかけられて、戸惑っていたが――
魔女が、静かに何かを伝える。
数秒。
奥さんの方が、ぽろり、と。涙を零した。
そして――その場に、崩れ落ちる。
泣き声。夫の方も、目を伏せている。
……まあ。話に行ったのが、魔女ってのも、良かったかもな。




