路地裏の宿
宿屋の内部には――
今の所、怪しい感じは無さそうだ。
古びてはいるが、掃除は行き届いている。
床も軋まない。埃も少ない。
隠し通路……みたいなのも、無さそうだな。
中だけ見て、安心は出来ない。
周りも、偵察してくるか。
俺は、魔女の元へ戻る。
『そ』
『と』
『み』
『て』
『く』
魔女が、ちらりとこちらを見る。
「お願いね」
軽いな。俺は、そのまま宿屋の外へ出た。
周囲を見渡す。
……王都の中心部とは、明らかに違う。
石畳はあるが、人通りは少ない。
宿屋の周りには――数軒の店舗兼家が、並んでいる。
雑貨屋。八百屋っぽい店。肉屋、か?
どれも、小さな店だ。生活感はある。
中心部より、かなり外れているな。
路地裏の……って感じか。
わざと、ここに泊まらされた?
視線を感じる事も、無い。
気配も、特に無い。
……変な感じは、まあ今の所ないって感じだ。でも、油断は禁物だな。
ここは、王都だ。一先ずは……いいか?
俺は、宿屋へ戻る。
中では、お爺ちゃんとお婆ちゃんが、
夕食の準備をしていた。
湯気。包丁の音。普通の、光景。
……この二人が、暗殺者には見えねーし。
でも見た目じゃ、解らん。
張り付くかな?
コンコン。宿の裏口を、叩く音。
この時間に?
ドアが、ギィー……と開く。
外に立っていたのは――見慣れない男。
大きな籠を抱えている。
「食材を届けに来ました」
低い声。お爺ちゃんが、首を傾げる。
「……こんな時間に?」
男は、答えない。
代わりに籠の中から、小さな袋を取り出した。
そして――それを、差し出す。
「これを、食事に混ぜろ」
!?
お婆ちゃんの手が、止まる。
「いや……しかし……」
震える声。
老夫婦が、顔を見合わせる。
男の目が、細まる。
「じゃあ」
一歩、踏み込む。
「娘と孫の顔は、拝めなくなるぞ?」
空気が、凍った。
「それでも良いのか?」
……人質。
くっ……。お爺ちゃんの拳が、震える。
「わ……わかった……」
袋を、受け取った。
毒殺する気か!?
しかも、人質を取ってやがるのか!
俺は、すぐに魔女の元へ戻る。
『ど』
『く』
『に』
『よ』
『る』
「毒による?」
『む』
『す』
『め』
『ひ』
『と』
『じ』
『ち』
「娘、人質?」
魔女の顔色が、変わった。
「……どこ」
俺は、入口を指す。
男は、既に立ち去っている。
「追うのね?」
俺は、頷いた。
このままじゃ、エリシアが危ない。
それに――娘と孫。
助けないと。俺は、男の後を追った。
王都の、暗い路地へ。




